7 / 122
第1章 満天の星の下、儚げな君と出会う
2-2
しおりを挟む「ああ、海なんて来なきゃ良かったな」
星は観たかったが、海を見るのは――まだ怖かった。
水泳選手としてはダメだと言われた夏から、もう一年が経とうとしている。
どんなに海を避けようとしても限度がある。だって、蒼汰が住んでいるのは島なのだから。どれだけ目を逸らしても視界に入ってくる。外に出るには海と向き合う必要があるのだ。結局海と対面しなければならないというのなら、克服するしかないのではないか。
「そんなこと、分かっちゃあいるさ」
だけど、心は追いつかない。
蒼汰は誰もいない浜辺でぼんやりと夜の星を眺め続けることにした。
「なんだかな……」
家族は蒼汰の心の傷に敢えて触れてくるようなことはしない。今みたいに夜に外出したとしても、蒼汰のことを咎めてさえこないのだ。そうやって距離を取られ続け、ほとんど家族とは顔を会わせていなかった。
「ほのかも宿題のことを聞いてもこないしな」
小学六年生になる妹ほのかの宿題を、去年まではよく見てやっていたけれど、今年は声をかけてさえ来ない。
最近の蒼汰は外出しないせいか食も細り、たまにお供え物か何かのように準備された食事を摂取するだけになっていた。
自分の家なのに居場所がないように思えて、窮屈で仕方がなかった。
「ああ、全部が夢だったら良かったのに」
昼間とは違い冷えた砂の上はひんやりと気持ち良かった。
潮騒を聴きながら満天の星空を見ていたら、なんだか色んなことがどうでも良くなってくる。
まるで贅沢な演奏会の特別な招待客にでもなった気持にでもなったかのようだ。
星を見ていると、宇宙全体で見れば自分がどれだけちっぽけな人間なのか分かる。
けれども、それこそが蒼汰に一種の解放感を与えてくれた。
「俺は、何かになりたかったんだろうか?」
水泳選手として活躍するという夢を手にする、すぐそこまできていたのに。
何者にもなれない自分が、どうしょうもなく惨めで仕方がなかった。
蒼汰はギリリと唇を噛み締める。
けれど、星を観ていたら――何者にもなれずとも生きていけるのだと、星々が慰めてくれているようだ。
(俺は特別な何かになりたかったのだろうか? 水泳の世界で名声を得たかったのか?)
海の奏でるメロディを耳にすれば、また泳ぎたいと本能が訴えてくる。
ざわざわと指先に痺れるような感覚が走った。
肩の怪我の後遺症があるが、全く泳げないわけではない。
だけど泳いだとしても、かつての自分のようには――海と一体化したようには――泳ぐことができないだけだ。
「俺の人生は、結局なんだったんだろうな」
23
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜
おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。
とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。
最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。
先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?
推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕!
※じれじれ?
※ヒーローは第2話から登場。
※5万字前後で完結予定。
※1日1話更新。
※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。
【完結】無能に何か用ですか?
凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」
とある日のパーティーにて……
セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。
隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。
だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。
ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ……
主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──
落ちこぼれ魔女・火花の魔法改革!〜孤独なマーメイドと海の秘宝〜
朱宮あめ
児童書・童話
火花は天真爛漫な魔女の女の子。
幼なじみでしっかり者のノアや、臆病だけど心優しい親友のドロシー、高飛車なダリアンたちと魔法学校で立派な魔女を目指していた。
あるとき、授業の一環で魔女にとって魔法を使うための大切な燃料『星の原石』を探しに行くことに。
火花とドロシーが選んだのは、海の中にある星の原石。
早速マーメイドになって海の中を探検しながら星の原石を探していると、火花は不思議な声を聴く。
美しくも悲しい歌声に、火花は吸い寄せられるように沈没船へ向かう。
かくして声の主は、海の王国アトランティカのマーメイドプリンセス・シュナであった。
しかし、シュナの声をドロシーは聴くことができず、火花だけにしか届かないことが発覚。
わけを聞くと、シュナは幼い頃、海の魔女・グラアナに声を奪われてしまったのだという。
それを聞いた火花は、グラアナからシュナの声を取り戻そうとする。
海の中を探して、ようやくグラアナと対峙する火花。
しかし話を聞くと、グラアナにも悲しい過去があって……。
果たして、火花はシュナの声を取り戻すことができるのか!?
家族、学校、友達、恋!
どんな問題も、みんなで力を合わせて乗り越えてみせます!
魔女っ子火花の奇想天外な冒険譚、ここに誕生!!
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが集団お漏らしする話
赤髪命
大衆娯楽
※この作品は「校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話」のifバージョンとして、もっと渋滞がひどくトイレ休憩云々の前に高速道路上でバスが立ち往生していた場合を描く公式2次創作です。
前作との文体、文章量の違いはありますがその分キャラクターを濃く描いていくのでお楽しみ下さい。(評判が良ければ彼女たちの日常編もいずれ連載するかもです)
ラ・ラ・グッドバイ
おくむらなをし
恋愛
大学の事務員として働く派遣社員の吉田は、何度目かの失恋をした。
仕事も恋も長続きしない自分に苛立ちながら副業にしている日雇いの現場へ向かい、そこで栗谷ほまれという年下の女性に出会った。
妙にパーソナルスペースが狭い彼女の態度に戸惑いながらも一緒に食事をして別れ際、彼女は「またね」という言葉を口にする。
その後2人は意外なかたちで再開することとなり……。
◇この作品はフィクションです。全20話+アフターSS、完結済み。
◇この小説はNOVELDAYSにも掲載しています。
アルファポリスでホクホク計画~実録・投稿インセンティブで稼ぐ☆ 初書籍発売中 ☆第16回恋愛小説大賞奨励賞受賞(22年12月16205)
天田れおぽん
エッセイ・ノンフィクション
~ これは、投稿インセンティブを稼ぎながら10万文字かける人を目指す戦いの記録である ~
アルファポリスでお小遣いを稼ぐと決めた私がやったこと、感じたことを綴ったエッセイ
文章を書いているんだから、自分の文章で稼いだお金で本が買いたい。
投稿インセンティブを稼ぎたい。
ついでに長編書ける人になりたい。
10万文字が目安なのは分かるけど、なかなか10万文字が書けない。
そんな私がアルファポリスでやったこと、感じたことを綴ったエッセイです。
。o○。o○゚・*:.。. .。.:*・゜○o。○o。゚・*:.。. .。.:*・゜。o○。o○゚・*:.。.
初書籍「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」が、レジーナブックスさまより発売中です。
月戸先生による可愛く美しいイラストと共にお楽しみいただけます。
清楚系イケオジ辺境伯アレクサンドロ(笑)と、頑張り屋さんの悪役令嬢(?)クラウディアの物語。
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
。o○。o○゚・*:.。. .。.:*・゜○o。○o。゚・*:.。. .。.:*・゜。o○。o○゚・*:.。.
その伯爵令嬢は、冷酷非道の皇帝陛下に叶わぬ恋をした
柴野
恋愛
それは一目惚れだった。
冷酷非道の血まみれ皇帝と呼ばれる男に、恋をしたのだ。
伯爵令嬢マリア・フォークロスは、娘を高値で売り付けたい父に皇妃になれと言われ、育てられてきた。
とはいえ簡単には妃どころか婚約者候補にすらなれるはずもなく、皇帝と近くで言葉を交わす機会さえろくに得られない。しかしながら、とあるパーティーで遠目から眺めた際――どうしようもなく好きになってしまったのだ。
皇帝陛下の、最愛になりたい。
皇帝に冷たい視線を向けられつつも、マリアは恋心のままに文を綴る。
自分の恋が叶わぬものだという現実に見て見ぬふりをして。
※本作は『社交界のコソ泥と呼ばれる似非令嬢に課されたミッションは、皇帝陛下の初恋泥棒です(https://www.alphapolis.co.jp/novel/6211648/759863814)』の前日談ですが、単体でもお楽しみいただけるはずです。
※主人公は報われません。
※悲恋バッドエンドです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる