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第1章 満天の星の下、儚げな君と出会う
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しおりを挟む梅雨が明けて、蝉が鳴き始めた頃のこと。
県立大宮高校二年・朝風蒼汰は、通っている高校の職員室へと呼ばれて廊下を歩んでいた。
少しだけ短く刈り上げた黒髪に、母親譲りのキリリとした端整な顔立ち、水泳で焼けた褐色の肌。標準的な男子高校生よりも背丈に恵まれており、水泳のおかげで身に着いたしなやかな筋肉が、運動神経に恵まれたことを表現しているようだ。
季節的に湿度が非常に高いせいか、廊下にはむわりとした熱気が漂う。白い開襟シャツが肌に張り付いて鬱陶しいし、掌が汗ばんで気持ちが悪かった。
部活に没頭しすぎて課題を忘れて職員室に呼ばれるのが日常だったが、その日はそうではなかった。
蒼汰が呼ばれたのは、人気の少ない生徒指導室だった。
「おお、来たか、蒼汰――いいや、朝風」
高校の担任でもあり、部活の顧問でもあり、幼馴染の恭平の父親でもある山下先生。
蒼汰が生まれ育った島は、そこそこの面積を有しているものの、主要都市に比べたら人口はだいぶ少ない。だから、近所のおじさんが小中高の先生だとかは割とよくある話だ。
山下先生は、蒼汰以上に日に焼けた浅黒い肌に、彫りの深い顔立ち、がっちりとした体躯の持ち主だ。いかにも島出身の男といった風貌をしており、部活の黒いジャージを身に纏っている。
蒼汰の父親は、島の病院に勤務医として所属して診療に明け暮れ、同じ家に住んでいるのかも分からないような人物だった。そのため、山下先生が幼少期の蒼汰の世話を焼いてくれていたのだ。そのため、この人こそが実の父親であればと思ったことが蒼汰には何度もあった。
そんな尊敬と 信頼とを全面に預けていた男性が、蒼汰に放ったのは残酷な言葉だった。
「朝風、お前が小さい頃から知っているから、こんなことを言うのは酷だが、お前に水泳はもう無理だ」
あまりにも直球な言葉に、正直何を言われているのかが分からなかった。
「え、どうしてですか?」
「恭平とは違って、お前は子どもの頃から賢いやつだった。分からないはずはないだろう?」
蒼汰の心臓が奇妙な鼓動を立てはじめ、じっとりと嫌な汗をかく。
先ほどまでは美しいメロディを奏でていたような気がした蝉の声が、やけに煩く耳をつんざいてきて、まるで不協和音のようだった。
「この間の事故、不運だった」
この間の事故というのは、先日蒼汰の身に起きた事故のことだ。
県大会へ向けて燃え盛っていた五月の中盤。
学校からの帰り道、建設途中の家の近くをたまたま通って歩いていたら、蒼汰の肩の上に機材が落下してきたのだ。
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