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本編

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 籠の中には、彼の好物のレモンケーキやワッフルを忍ばせてきているため、甘い香りが漂っている。

(食べ物で釣られるような人じゃないって分かっているけれど……)

 私は意を決して、目の前に立つ青年に声をかけた。

「スヴェイン団長! お願いがあるんです……村に帰ったら、私は地方領主の後妻になってしまいます……! その前にどうか、貴方に抱いてほしいのです! 好きでもない人に抱かれるぐらいなら、親切にしてくださった貴方が初めての方が良い! 貴方に好きな女性がいるのも知っています! だけど、どうか!」

「ミレイユ……君が村に戻るという話だけでも寝耳に水だというのに、地方領主の後妻に……?」

 スヴェイン団長は、深い海のような瞳を揺らしながら、私の方を見ている。 

「お願いします……!」

 優しい彼は、泣いて縋る私の願いを無視することが出来なかったのだろう。
 鍛えぬいた両腕で、そっと私の身体を抱きしめてくれた。
 涙ながらに彼を見上げると――。

「ミレイユ……だったら、俺も覚悟を決めよう」

 そういうと、団長はいつも笑んでいる唇をきゅっと引き締め、まっすぐに私の方を見てきた。
 私の手から、パンを入れたカゴを受け取ると、そっと小さな木の机の上に剣と共に置く。
 そうして、彼の大きな両手が私の肩に添えられた。
 
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