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第6話 姫、鬼に愛される――丑御前――
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しおりを挟む鬼童丸とあやめの誤解が解けてから数日が経った。
主君である鬼童丸から注意を受けた鬼女・紅葉が、屋敷に顔を出すことはなかった。
(鬼童丸様の親戚なのだったら、私にとっても親戚になるのだから、もっと仲良くできたら良いのに……)
そう思って、何度か文を送ってみたが、反応はない。
「先日の一件で嫌われているのかしら……?」
耳聡く拾った鬼童丸が即座に否定した。
「そんなことはねぇだろうさ――単純にお前に言い過ぎたと思って、出て来づらいだけだろう? しばらくしたら、あいつからまた話しかけてくるだろうさ」
「そうでしょうか?」
「その通りだ――おい、あやめ――ちょっと良いか?」
「はい……」
返事をすると、彼の綺麗な顔が近づいてくる。
「ん……」
しばらく相手から唇を貪られる。
舌に舌が絡んできて、体液を絞り尽くされるのではないかと言う位に、舌を吸われた。
そうして、彼の唇が離れる。
「よし、これで補充は完了だな」
「……は、はい……」
いつまで経っても慣れない口づけ。
だけど、最近気になっていることがある。
(やけに口づけの回数や時間が増えたような……?)
それこそ、人前だとかも気にしない勢いだ。
「いくら皆に夫婦と知られているからと……さすがに限度が……」
あやめの意見に即座に反論があった。
「足りねえんだよ、お前が――」
「え?」
「お前を食い足りねえんだよ……」
「喰い足りない?」
「言葉通りの意味だ。お前に飢えて渇いて死んじまう前に――お前のことを全部食っちまいてえ……」
彼の直球発言に、あやめの胸がドキドキと跳ねた。
「それは、その……」
意味は分かるので、あやめは俯いてしまった。
「おっと、いけねえ、仕事に戻らねえと――じゃあな」
そうして、その場を彼は駆けていく。
あやめは落ち着かない心臓のまま、先ほどの彼の様子を思い出した。
(このままだと鬼童丸さんが呪いのせいで餓死しちゃうかもしれない……さすがに覚悟を決めないといけない?)
そう――本来、鬼童丸はあやめのことを性的に喰わないとダメなのだ。
あやめのことは愛人や奴隷の立場にしても良かったはずなのに、一番女性としては位の高い北の方にしてくれたのだ。
(鬼の山に来て――鬼の皆が家族みたいに優しく接してくれるから、すごく幸せになれた――その恩を鬼童丸さんに返してあげたい)
それに何より――。
彼のことを思うと、心臓がとくとくと速くなる。
(そう彼になら命を上げても構わないぐらい、私は彼のことを……)
ぐっとあやめは拳を握り、本当の初夜に向けて気合をいれることにしたのだった。
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