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第4話 姫、鬼と懐かしむ――八瀬童子
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しおりを挟むまずは、八瀬童子の育ての親である鬼ババの元へ向かった。
屋敷の敷地内を出て、しばらく北の方に向かった先にある、少しだけ古びた小屋だった。
鬼ババは、ぼさついた白髪に、皺の多いだるだるした肌の持ち主だった。
にやりと笑うと歯がいくつか欠けていて、しゃがれた声をしていた。
「あの子は、近くの小川に向かっているのだろうて……いつもの習慣じゃ、だいたい夕暮れ時は川を見ておる……」
「ありがとうございます、鬼ババ様。人間の私に居場所を教えてくださって」
「何、気にするでない。人との共存は今後必要になってくるじゃろうと、私は思うておるよ」
「ありがとうございます」
「ふうむ、鬼童丸様の奥方は、まことに美味しそうな姫様じゃて、ほほほ」
「え?」
そこに、鬼童丸が割り込んできた。
「おい、鬼ババ、俺の嫁を怖がらせてんじゃねぇぞ。ほら、あやめ行くぞ」
「あ、はい、わかりました!」
ニヤニヤする鬼ババに見送られながら、二人は小屋を後にしたのだった。
※※※
鬼童丸とあやめは、散歩がてら、山の中を二人で歩く。
「そういえば、鬼の皆の特徴ですが、色は何か関係があるのですか? 肌の色が赤・青・緑・黄・白・黒の鬼の皆さんが多いですよね? 人間のような身なりをしている方たちは、肌の色は肌白いですが、髪の色が少し違うでしょう?」
「あやめ、気づいたのか?」
「ええ」
「単純に親から受け継いだものだったり、生前や生後に抱えた問題だったりで変化するな」
「鬼童丸様だと、髪は黒いけれど、赤みがかっています。橋さんと茨木童子さんは白、先ほどの八瀬童子さんは、青みがかった黒でしたよね?」
「まあ、だいたいさっき言った六色が主だな。一応、人間が後付けしてきた理由では、緑は『疲れや眠気』、黒は『疑い』、黄と白は『甘え』」
「青は?」
「『憎しみ・怒り』だ」
八瀬童子の髪が青みがかっているのは、人への増悪が影響しているのだろうか?
「でしたら、赤は?」
すると、鬼童丸があやめの顎に指を添えてきた。
「赤は……なんだと思う?」
「ええっと……」
彼が妖艶に微笑む。
「『欲しがり』だよ」
すると、彼が顔を近づけてくる。
「あ……」
妖艶に微笑む彼の口の中に、きらりと白い刃が見える。
だけど、怖いと思うよりも、背筋にぞくぞくとした恍惚感が走っていく。
あやめは、相手の色香に魅了されてしまいそうな気がする。
(私、このまま……)
唇と唇が触れそうだと思った頃――。
鬼童丸がゆるりと口の端を釣り上げた。
「そんな俺が、嫁も食わずに頑張ってると思わねぇか?」
「へ?」
しばし、あやめは目をぱちくりさせる。
「帰ったら、たらふくさっきの芋粥食わせてくれよ」
鬼童丸の手が顎から離れたかと思えば、先を歩きはじめた。
相手に揶揄われたのだと気づくのに、これまたしばらくの時間がかかったのだった。
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