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第3話 姫、鬼に恋される――茨木童子――味噌汁

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(鬼童丸さんのお嫁さんになったばかりなのに……どうにかしないと……もし近くにいるのなら、せめて気づいてもらえたら……!)

 体の上に乗ってきた男の唇が、あやめの唇に触れるか触れないかという頃――。

 お腹に息をいっぱい吸い込んだ後、叫んだ。


「鬼童丸さん! 助けてください!!!」


 その時――。

「あやめ!!」

「きゃっ……!!」

 突然、ぶわりと風が巻き起こった。
 白髪の鬼とあやめは衾ごと宙に浮く。
 彼女の長い黒髪がゆらゆらと躍った。
 
(飛ばされちゃう……!)

 そう思った瞬間、誰かにぎゅっと抱きしめられる。

(あ……)

 黒方こくぼうの高貴な香りが鼻腔をついてきた。
 ひとえが薄い生地なこともあるのだろう。
 相手の硬い胸板と逞しい腕と、相手の指が腕に沈んでくる感覚があって、心臓がはちきれんばかりにドキドキしてしまった。
 少しだけ低い声が鼓膜を震わせてくる。
 赤みがかった黒髪に角が二本、ぎらつく紅い瞳の美青年――鬼童丸だ。

「あやめ、問題ないか?」

「はい……鬼童丸さんが来てくださったので……!」

 彼は、まだ宙に浮いている白髪の鬼に向かって叫んだ。


「俺と嫁の――大事な寝所に侵入してくる不貞の輩は……てめえか、茨木いばらぎ!!」
 

 ものすごい剣幕で名前を呼ばれた美青年は、風で飛ばされそうになりながら、ぼんやりと返事した。

「頭領に嫁?」

「相変わらず、寝起きが弱いんだな……寝惚けてんのか?」

「だって、頭領、人間嫌いじゃないですか? なのに、本当に人間の女と結婚したの……?」

「ああ、同じ人間だが、あやめは別の女達とは違うんだ。定期的に金を渡して食べるだけの関係になるぐらいなら、どうせなら嫁にって思ったんだよ」

 「どうせなら」――という言葉が、ちょっとだけあやめの胸はズキンとした。
 鬼童丸が私に向かって鬼の紹介をする。

「一応、親父の元部下の茨木童子いばらぎどうじだ」

 ふわふわと茨木童子は地面に着地する。
 まだぼんやりした表情で、彼はあやめの向かって手を差し出した。

「あやめさん、茨木童子です、よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ……」

 そうして、茨木童子とあやめは握手を交わそうとしたのだが――。

「ダメだ!」

「きゃっ……」

 唐突に割り込んできた鬼童丸が私の手首を掴んだのだった。
 彼がはっとする。

「あ、悪い、強く握り過ぎた……」

「いいえ、あの……」

「とにかく、他の鬼達と握手はダメだ。これからもずっとだ……!」

「え? でも、そうなると困ることもあるような……」

「まあ、良い、御帳台が少し壊れてるから――別の場所に行くぞ……!」

「え? はい!」

 あやめは鬼童丸に強引に抱きかかえられた。
 横抱きにされた彼女は、視線が合った茨城童子に微笑んだ。

「茨城さん、これからもどうぞよろしくお願いします」

「はい、こちらこそ……」

 そうして、鬼童丸とあやめの二人は、外の中庭へと向かったのだった。
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