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第1話 姫、鬼に攫われる――鬼童丸――あやめ
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しおりを挟む「亡くなったからこそ、私が死ぬわけにはいかないのです。私まで死んだら、お母様のこと覚えている人が一人もいなくなってしまいます。宿命なんて知りません。私にとっては一番大事なことなのです!」
鬼童丸が目を見張った。
血のように紅い瞳が、寂しげな夕焼けの空のように揺らめいた。
「お母様の弔いをしてあげられるのは、もう私しかいない。皆いなくなってしまいました。だから、出家して、極楽浄土で幸せになれるよう祈願して……何よりも私が生きて忘れないでいてあげたいのです」
「お前は……」
相手は何か考えているようだった。
「それに――」
「なんだ……?」
「私は骨と筋ばっかりで、食べてもおいしくありませんから……!」
鬼童丸はキョトンとしていた。
「ああ? お前は阿呆か? 俺は他の鬼達と違って――」
「煮ても焼いても、蒸しても、あえても美味しくありませんから!」
「蒸しても、あえてもは、あんまり聞かねぇな」
「とにかく、ここで死ぬわけいはいきません。漬け込んだら、意外と美味しいかもしれませんけど……」
「は……」
その時、鬼童丸がくつくつと笑いはじめた。
「な、なんで笑ってるんですか?」
「意外と退屈しなさそうだって思ってな……」
「そもそも俺の場合は、別に人間を物理的には喰わなくても良くってだな……」
「え?」
「まあいい……」
すると、鬼童丸はあやめの顎を掴んで上向かせた。
「お前につけこんでから、喰わせてもらっても悪くはなさそうだな」
「え? え? って、きゃっ……!」
漬物よろしく漬け込まれると動揺していたら、あやめの視界が反転した。
「これ以上説明するのは、かったりぃ……ほら、とりあえず行くぞ」
「ひゃっ……!」
突然横抱きにされた。
「ちょっとお尻触らないでください!」
「触ってねえよ! 人聞きの悪いことを叫ぶな! ほら、飛ぶから、黙って目を閉じてろよ」
あまりの風圧に目を開けられないでいる内に、二人して眩い光に包みこまれてしまう。
こうして――。
それまで住んでいた世界から、唐突に違う世界に飛び込むことになってしまったのだった。
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