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無防備な寝顔

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 カヤ・フローレス。私の名前だ。フローレス公爵家の一人娘である私には、とある幼馴染がいる。
 レオノア・アルフィーという名前しか持たない記憶喪失の少年だ。
 空から落ちてくるという物語でもなかなか無いような出会いを果たした私達は、その形を幼なじみという形に変えて今も尚交流を続けている。
 レオが落ちてきたあの日、私はわがままを言ってレオを家に連れて帰ることにした。レオは始終困惑気味だったが、夕食を食べてお風呂に入ったら疲れが溜まっていたらしく、ソファで寝てしまっていた。
 その日の夜、寝る前に少し話をしたくて尋ねてきた私を出迎えたのは、案外幼い顔をして眠るレオだった。
 私は強引にレオを連れてきてしまった自覚があったので、本当は嫌がっていたのかもしれない、と今更罪悪感に襲われて悩んでいたと言うのに、この呑気な寝顔よ。もう悩んでいたのが馬鹿馬鹿しくなるくらい穏やかな寝顔だった。今でも思い出すわ、あの心底リラックスしてます...という顔ですやすや眠っているあの子の顔。
 まったく、警戒心をどこに置いてきてしまったのかしらね。



「なんて、懐かしいことを思い出してしまったわ」
「んんぅ...」

 それもこれも、全てこの呑気な顔を晒して熟睡している幼なじみ殿のせいなのだが。この子私の部屋をなんだと思っているのかしら。寝室は奥の部屋よ。寝るならあっちの方が気持ちいいわ。...と言ったらすやすや寝ていたレオがいきなりバッ!と飛び起きて、それに驚いて固まる私の肩をガシッと掴み、「いいかカヤ、男にそういうこと言っちゃダメだからな!どんなに小さい子相手にもだ!...中身がどんなやつか分からないだろ、心配なんだ」とコンコンと語り掛けてきたことがあった。あの日から私は寝室の場所はトップシークレットとして誰にも話していない。別に私の部屋から扉見えてるから隠してる訳では無いのだけれど。


「...それにしても、綺麗な顔してるわね」

 女の私よりも可愛いかもしれないわ、と謎の危機感を覚えてしまうほどに。
 起きている時よりもあどけない顔をして眠っているレオは、そこら辺にいる女の子なんかより断然可愛いと思う。贔屓目なしに。
 
「それに、この珍しい銀髪も光の当たり具合によって青みがかって見えて綺麗だわ。レオって一体どこの出身なのかしら」

 ここ、ルーガリア王国ではほとんど見た事がない銀髪。この国は茶髪や黒髪の人が多く存在しているのだが、レオのような白に近い銀髪は見たこともない。
 近隣の国でも銀髪は珍しいもので、私が知っている中でいちばん有名なのは第7代目国王の妻、第七代目王妃が銀髪だといわれていたはずだ。
 まるで妖精のような美しさと類まれなる容姿、そして珍しい銀の髪と紫の瞳を持つ美人だったと色んな文献に記されている。その美貌を気に入られて王妃にまで登り詰めた人だ。なかなかの野心家だったそうだが、大層な子供好きだったようで孤児院や児童保護施設などの子供に関する事業に幅広く手を差し伸べて国に大きく貢献し、後世にもこうして語り継がれているような凄い人だ。

 っと、話が逸れてしまった。とにかく、銀色の髪は珍しいのだ。もしかしたらこの国のある大陸よりもさらに遠くの大陸から来たのかもしれない。
 本人に記憶が無いから調べようにもどうしようも無いのだけれど。

「こんなほっとした様な顔で寝ちゃって。
もっと警戒心とかないのかしら?」

 ソファに完全に体を預けた状態ですやすやと眠っている少年は、私が近くで観察しているというのに全く起きる素振りを見せない。
 最初の時も、今も。私をもっと警戒するのかと思いきやこんな無防備な姿を見せられてしまって私の方が困惑してしまっている。
 きっと疲れきっていたのよ、と自分を納得させて立ち上がった。...立ち上がろうとした。

「っきゃあ!」

 ソファの横で膝立ちになって少年を見ていた状態から立ち上がろうとしたのだが、それは他でもない少年の手によって阻止されてしまった。
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