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連続する狂気
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思い浮かべた霞は悲しそうだ。だが、約束ノートに書いた約束は絶対だ。
ハンドルを握りながら閉じていた目を開けた。そして小羽が口を開いた。
「…そうだよ。約束ノートに書いた約束は、絶対守らなきゃいけないんだよ」
「そんなもん書かせた奴が勝手に決めたルールだろ!守る必要は無い!」
健太は大声を上げた。
「キキィィィ!」
ブレーキを力一杯踏み込んだ小羽は、道路の真ん中で車を停めた。
衝撃で健太の体が九の字に曲がった。シートベルトをしていなければ、大怪我をしていただろう。
「…否定するな…僕はずっと、約束ノートに従ってきたんだ!否定するなあぁぁぁ!」
小羽はハンドルを何度も叩き付け、怒鳴り散らしている。約束ノートに従って生きていた。人生を否定された気分だったのだろう。
小羽が鳴らすクラクションの騒音が鳴り響いている。周りには、他に車はない。
健太は何も言わず、驚きの目を小羽に向けている。
鳴り響いていたクラクションの音が消えた。
「…取り乱しちゃったね。行こう」
小羽は健太に笑顔を見せると、再びアクセルを踏み込んだ。
暫く二人に会話はなかった。健太が黙っているのは、家族の安全を考えての事だ。小羽を知らない健太は、何で激昂するか分からない。家族の事を聞きたいが、小羽を刺激しない為に言葉を掛けなかった。
車は郊外を抜け、山の斜面を登り始めた。十五分程すると、道を塞ぐように設置されているバーの前で車は停まった。道の向こうには、いくつかの建物が見える。直ぐ近くには守衛所らしきものが建っている。
車が停まって直ぐ、バーが歓迎するようにゆっくりと上がり始めた。小羽はそれを見届けると、アクセルを再び踏み込み発車させた。
健太は守衛所の横を通り過ぎる時、横目で誰かいないか確認した。だが、人の姿を捉える事はできなかった。
「ここはね、つい最近閉鎖された工場なんだ」
車一台停まっていない、やけに広いもぬけの駐車場を横切り、小羽は嬉しそうに言った。
「…」
健太は返事もせず、目の前に迫る巨大な建物を見詰め続けている。その心の中は、建物の中に居るであろう家族の無事を祈るばかりだ。
「…着いたよ」
巨大な建物の前で車を停めた小羽は、サイドブレーキを引いた。
「さあ、降りよう」
小羽はショッピングに来たかのように、軽やかにドアを開け車を降りた。
健太はそんな小羽を見た後、静かにドアを開け車を降りた。
「こっちだよ」
先に歩き出していた小羽は、工場の玄関にしてはやけに小さいドアの前で立ち止まり、振り返った。
健太が無言で頷いた。
小羽はドアノブを握ると、それを引いた。鍵は掛かっていなかった。ドアが開いた。
ハンドルを握りながら閉じていた目を開けた。そして小羽が口を開いた。
「…そうだよ。約束ノートに書いた約束は、絶対守らなきゃいけないんだよ」
「そんなもん書かせた奴が勝手に決めたルールだろ!守る必要は無い!」
健太は大声を上げた。
「キキィィィ!」
ブレーキを力一杯踏み込んだ小羽は、道路の真ん中で車を停めた。
衝撃で健太の体が九の字に曲がった。シートベルトをしていなければ、大怪我をしていただろう。
「…否定するな…僕はずっと、約束ノートに従ってきたんだ!否定するなあぁぁぁ!」
小羽はハンドルを何度も叩き付け、怒鳴り散らしている。約束ノートに従って生きていた。人生を否定された気分だったのだろう。
小羽が鳴らすクラクションの騒音が鳴り響いている。周りには、他に車はない。
健太は何も言わず、驚きの目を小羽に向けている。
鳴り響いていたクラクションの音が消えた。
「…取り乱しちゃったね。行こう」
小羽は健太に笑顔を見せると、再びアクセルを踏み込んだ。
暫く二人に会話はなかった。健太が黙っているのは、家族の安全を考えての事だ。小羽を知らない健太は、何で激昂するか分からない。家族の事を聞きたいが、小羽を刺激しない為に言葉を掛けなかった。
車は郊外を抜け、山の斜面を登り始めた。十五分程すると、道を塞ぐように設置されているバーの前で車は停まった。道の向こうには、いくつかの建物が見える。直ぐ近くには守衛所らしきものが建っている。
車が停まって直ぐ、バーが歓迎するようにゆっくりと上がり始めた。小羽はそれを見届けると、アクセルを再び踏み込み発車させた。
健太は守衛所の横を通り過ぎる時、横目で誰かいないか確認した。だが、人の姿を捉える事はできなかった。
「ここはね、つい最近閉鎖された工場なんだ」
車一台停まっていない、やけに広いもぬけの駐車場を横切り、小羽は嬉しそうに言った。
「…」
健太は返事もせず、目の前に迫る巨大な建物を見詰め続けている。その心の中は、建物の中に居るであろう家族の無事を祈るばかりだ。
「…着いたよ」
巨大な建物の前で車を停めた小羽は、サイドブレーキを引いた。
「さあ、降りよう」
小羽はショッピングに来たかのように、軽やかにドアを開け車を降りた。
健太はそんな小羽を見た後、静かにドアを開け車を降りた。
「こっちだよ」
先に歩き出していた小羽は、工場の玄関にしてはやけに小さいドアの前で立ち止まり、振り返った。
健太が無言で頷いた。
小羽はドアノブを握ると、それを引いた。鍵は掛かっていなかった。ドアが開いた。
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