約束ノート

村上未来

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 利根川が桂木の話を聞いている最中、日村は健太に話を聞いている。健太は己を奮い立たせ、懸命に話した。

「…はい…了解しました、鑑識がこちらに向かっているのですね…はい…失礼します」

 電話を終えた利根川は、通話終了ボタンをタッチし、健太に携帯電話を返した。

「篠原さん、ご家族と赤沢さん一家の行方は、我々が全力を尽くして探し出します」

 利根川は健太の目を見詰め、力強く言った。

「…よろしくお願いします」

 健太はこれでもかという程頭を下げた。その力強く閉じた目からは、我慢していた涙が零れ出している。

「一緒に頑張りましょう。篠原さん送られてきたノートと手紙を見せてください」

 利根川は健太の肩を優しく掴むと、励ますように言った。

「…はい…これです」

 服の袖で涙を拭くと、健太は床に散らばっているノートと手紙を指差した。玄関までの距離は数歩。健太にとってそれは、部屋に入って直ぐ開ける程の郵便物だったのだ。

「失礼します」

 利根川と日村が部屋に入った。
 利根川はポケットから取り出した白い手袋を嵌め、ノートと手紙を拾い上げた。

「…約束ノートですね…山方太一という人物ご存知ですか?」

 ノートを広げた利根川が健太に尋ねた。

「…えっ?…知らないです…何故ですか?」

 健太は、知らない名前を突然言われ戸惑った。

「…読んでなかったんですね…ノートに名前が書いてあります」

 利根川はノートに目を落とした。

『篠原健太は五日以内に横浜市に住む山方太一を殺す事を約束します』

 利根川の瞳に、この文面が映り込んだ。

「…ノートに」

 健太は利根川が開いているノートを覗き込んだ。そして言葉を失った。

「…サイレンの音がしますね。鑑識かもしれませんね」

 利根川の言葉を聞き、日村が部屋を出た。
 利根川はノートと手紙をテーブルの上に置くと、書かれている文章を手帳に書き写しだした。

「鑑識が着ました」

 鑑識を引き連れ、日村が部屋に戻ってきた。

「篠原さん、署で詳しい話しを聞かせてもらえますか?」

 写し終えた利根川は、力なく立っている健太に向かい言った。
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