約束ノート

村上未来

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 霞はドアを閉め、駆け足でベッドに近付くと、健太の口を塞いだ。

「健太さん」

 霞は囁きながら、もう一方の手で自分の口に人差し指を当て、健太を見詰めた。
 声を上げるのを止めた健太は、霞を見詰め返している。その顔は驚いている。
 霞は塞いでいた健太の口からゆっくりと手を離した。

「霞さん!」

 健太は思わず大きな声を漏らした。

「しぃー」

 自分の唇に人差し指を当てる霞の仕草を見て、健太は静かに頷いた。
 部屋が静かになった。霞は健太をベッドに拘束しているベルトを解き始めた。

「…どうしてここに?」

 健太は霞を見詰め囁いた。

「助けに来ました…今は話している時間がありません」

 霞は額に大粒の汗を掻きながら、ベルトを解いている。

「早く逃げましょう」

 全てのベルトを解き終えた霞は、健太の腕を掴んだ。

「立てますか?」

 そう尋ねた霞の顔は緊迫している。

「あぁ、大丈夫」

 囁いた健太は、素早くベッドから起き上がった。

「逃げましょう」

 霞は振り返り、ドアへと向かう為、その一歩を踏み出した。
 ドアが独りでに、音も無く開き始めた。足を止めた霞は、固唾を飲んで開かれたドアを凝視している。
 霞の視界に、ドアの向こうでメスを握る男の姿が入った。

「誰だお前はあぁぁぁあ!?」

 男は叫ぶと、メスを激しく振り回し、霞に向かい歩き出した。

「霞さん!」

 健太が霞の前に飛び出した。

「健太君!ベッドに戻りなさいぃぃぃぃ!」

 男は叫び、二人の元へゆっくりと近付いている。

「そこを退け!」

 健太は後ろ手に霞を抱えたまま男を睨み付けた。

「早く戻れって言ってるんだあぁぁぁぁ!」

 男はメスを突き出しながら、健太に突進してきた。

「健太さん、危ない!」

 霞が健太の前に飛び出した。
 男の握るメスが霞の腹部を捕らえた。

「霞さん!」 

 健太は突然の出来事に目を見開いている。

「死ねぇぇぇぇ!」
 
 男はメスを霞の腹部から引き抜き、高らかに挙げた。そして、血塗られたメスを霞の胸目掛けて振り下ろした。しかし、その腕を背後から誰かに掴まれた。
 男は振り返る事なく宙に舞い、床に激しく叩きつけられた。

「沢尻直樹、殺人容疑及び殺人未遂の現行犯で逮捕する!」

 投げ飛ばした男は、沢尻の腕に手錠を嵌めた。 

 こうして霞は自身を傷付けながら、運命の人である健太を助ける事が出来たのだ。
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