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もう一人の自分
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小羽は歯を食い縛った。湧き出る感情を飲み込んでいるように見える。暫くそうしていた。そして、小羽は口を開いた。
「…謙太君が、霞ちゃんの運命の人だからだよ!僕が霞ちゃんと結婚しなきゃ、一生守れないじゃないか!」
そう言った小羽の笑顔は苦しそうだ。
年配の刑事が優しげに尋ねた。
「篠原謙太君が霞ちゃんの運命の人って、どうしてそう思ったのかな?」
「…霞ちゃんが、ダウジ」
小羽は言葉を止めた。霞が天使だという事を誰にも言わないと約束ノートに書いた事を思い出したのだ。それは、天使の力だと思っているダウジングの事も言わないという事だ。
「ダウジ?ダウジってなんだい?」
年配の刑事は、小羽を優しげに見詰めている。
「言えない!言えないけど、霞ちゃんの運命の人は、篠原謙太君なんだよ!」
ダウジングの話題から早く逃れたいのだろう。小羽は腕をブンブンと上下に振った。
「…約束ノートは誰に言われて書き始めたの?」
話題を変えた年配の刑事は、どこまでも優しげだ。顔もそうだが、声も話し方も穏やかそのものだ。その穏やかさが、壊れそうな小羽の心をとどまらせている。
小羽は約束ノートに書いた言葉を頭に広げた。小羽にとって約束ノートは絶対だ。書いた言葉の全てが頭に入っている。
約束ノートの事を誰にも言ってはいけないと書いてはいない。優に書かされていた事を言ってはいけないと書いてはいない。
「お母さん!」
苦しそうな笑顔のまま、小羽は元気に答えた。
「今のお母さん?それとも小羽君を産んでくれたお母さんかな?」
中年の刑事は、小羽が産みの親と死別している事を知っていた。
小羽は一瞬怯えた表情を浮かべたが、直ぐに笑顔を作った。
「今のお母さんだよ!」
「…今のお母さんだね…約束ノートに書いた約束を破るとどうなるのかな?」
「…わ、わ分かんない!や約束破った事ないもん!」
動揺しながら嘘を吐く小羽の脳裏に、幼い頃に約束を破り、優から激しい虐待を受けた記憶が鮮明に蘇った。優から虐待を受けた事を誰にも言わないと、小羽は約束ノートに書いている。
「…そうかい…分かった…頑張ったね」
それを悟った年配の刑事は、涙を浮かべ、小羽の肩を温かな手で包んだ。
小羽の苦しそうな笑顔から、堪えていた涙が零れ落ちた。
小羽は目を力強く閉じ止めようとしたが、壊れたダムのように涙は止め処なく溢れてきた。
次の日。警察は小羽の部屋から、約束ノートを発見した。
「…謙太君が、霞ちゃんの運命の人だからだよ!僕が霞ちゃんと結婚しなきゃ、一生守れないじゃないか!」
そう言った小羽の笑顔は苦しそうだ。
年配の刑事が優しげに尋ねた。
「篠原謙太君が霞ちゃんの運命の人って、どうしてそう思ったのかな?」
「…霞ちゃんが、ダウジ」
小羽は言葉を止めた。霞が天使だという事を誰にも言わないと約束ノートに書いた事を思い出したのだ。それは、天使の力だと思っているダウジングの事も言わないという事だ。
「ダウジ?ダウジってなんだい?」
年配の刑事は、小羽を優しげに見詰めている。
「言えない!言えないけど、霞ちゃんの運命の人は、篠原謙太君なんだよ!」
ダウジングの話題から早く逃れたいのだろう。小羽は腕をブンブンと上下に振った。
「…約束ノートは誰に言われて書き始めたの?」
話題を変えた年配の刑事は、どこまでも優しげだ。顔もそうだが、声も話し方も穏やかそのものだ。その穏やかさが、壊れそうな小羽の心をとどまらせている。
小羽は約束ノートに書いた言葉を頭に広げた。小羽にとって約束ノートは絶対だ。書いた言葉の全てが頭に入っている。
約束ノートの事を誰にも言ってはいけないと書いてはいない。優に書かされていた事を言ってはいけないと書いてはいない。
「お母さん!」
苦しそうな笑顔のまま、小羽は元気に答えた。
「今のお母さん?それとも小羽君を産んでくれたお母さんかな?」
中年の刑事は、小羽が産みの親と死別している事を知っていた。
小羽は一瞬怯えた表情を浮かべたが、直ぐに笑顔を作った。
「今のお母さんだよ!」
「…今のお母さんだね…約束ノートに書いた約束を破るとどうなるのかな?」
「…わ、わ分かんない!や約束破った事ないもん!」
動揺しながら嘘を吐く小羽の脳裏に、幼い頃に約束を破り、優から激しい虐待を受けた記憶が鮮明に蘇った。優から虐待を受けた事を誰にも言わないと、小羽は約束ノートに書いている。
「…そうかい…分かった…頑張ったね」
それを悟った年配の刑事は、涙を浮かべ、小羽の肩を温かな手で包んだ。
小羽の苦しそうな笑顔から、堪えていた涙が零れ落ちた。
小羽は目を力強く閉じ止めようとしたが、壊れたダムのように涙は止め処なく溢れてきた。
次の日。警察は小羽の部屋から、約束ノートを発見した。
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