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小羽
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腹が空いていて当然だ。小羽はこの日、初めて食事をした。普段から小羽は、夕飯しか食べさせてもらっていない。それを行成は知らない。いや、知ろうとしないのだ。今日も気にする様子もなく、優を連れてフランス料理を食べに出掛けている。
帰りの遅い行成は、普段は夕飯を外で済ませてくる。行成が家で夕飯を食べる時は、小羽も同じものを食べる事ができる。しかし、行成がいない時は、カップラーメンや菓子パンなどしか食べさせてもらえていない。それも日に一度だけの食事だ。
小羽は同年代の子供と比べて背が低く、痩せ細っている。ちゃんと栄養が取れていないのだ。近所の住人が小羽の異常に気付かないのは、優の外面の良さと、外では明るく振る舞う小羽のせいだろう。
小羽が外で明るく振る舞うのには理由がある。それは、優に命じられ、『おそとではげんきにする』と、約束ノートに書いたからだ。
小羽にとって、約束ノートに書いた約束は、決して破ってはいけないものだった。それは、元から純粋な性格もあるが、約束を破れば体罰を与える優の存在が大きいだろう。
小羽は幼稚園に通う事なく、小学校に入学した。大好きな霞と同じ小学校だ。
頻繁に行われていた優の小羽に対する暴力が、めっきり減った。小学校には教師がいる。それだけではない、身体測定などで裸になる事もある。虐待している事がバレるのを恐れたのだ。
体に与えられない暴力は、言葉としてぶつけた。以前よりも言葉での虐待は激しくなってしまった。
小羽は成長している。昔分からなかった言葉も、理解できるようになっている。理解が増えた分、小羽の心は傷だらけだった。
浴びせられる汚い言葉。存在を否定する言葉。小羽は幼いながらも、親に必要とされていない自分が、どうして産まれてきたのか、真剣に考えるようになった。
昼休み。場所は校庭。児童の投げたボールが、小羽と談笑していた霞の顔に当たった。
「霞ちゃん!」
霞は、目に涙を浮かべ鼻を押さえている。押さえている手からは、真っ赤な血が滴り落ちている。
「誰だ!誰がやった!?」
小羽は、ボール投げをやっていた四人の児童に駆け寄ると、その小さな拳で片っ端から殴り付けた。
「小羽君!」
霞は暴れ回る小羽に駆け寄った。
小羽が全員を殴り倒した。
「霞ちゃんを傷付ける奴は、僕が許さない!」
小羽はそう叫ぶと振り返った。後ろに立つ霞に向けた顔には、優しげな笑みが浮かんでいる。
「…小羽君…ありがとう」
霞は、微笑む小羽に恐怖を感じながらも、礼を言った。自分を守る為にやった事だと分かったからだ。
「どうしたの!?…君がやったの!?ちょっときなさい!」
たまたま通りかかった女教師が事態を把握した。
殴り倒された児童達と霞は、保健室に連れていかれた。その後小羽は女教師と共に、職員室に向かった。
職員室に小羽の担任がいた。事情を聞いた担任が小羽に尋ねた。
「なんで殴ったりしたの?」
帰りの遅い行成は、普段は夕飯を外で済ませてくる。行成が家で夕飯を食べる時は、小羽も同じものを食べる事ができる。しかし、行成がいない時は、カップラーメンや菓子パンなどしか食べさせてもらえていない。それも日に一度だけの食事だ。
小羽は同年代の子供と比べて背が低く、痩せ細っている。ちゃんと栄養が取れていないのだ。近所の住人が小羽の異常に気付かないのは、優の外面の良さと、外では明るく振る舞う小羽のせいだろう。
小羽が外で明るく振る舞うのには理由がある。それは、優に命じられ、『おそとではげんきにする』と、約束ノートに書いたからだ。
小羽にとって、約束ノートに書いた約束は、決して破ってはいけないものだった。それは、元から純粋な性格もあるが、約束を破れば体罰を与える優の存在が大きいだろう。
小羽は幼稚園に通う事なく、小学校に入学した。大好きな霞と同じ小学校だ。
頻繁に行われていた優の小羽に対する暴力が、めっきり減った。小学校には教師がいる。それだけではない、身体測定などで裸になる事もある。虐待している事がバレるのを恐れたのだ。
体に与えられない暴力は、言葉としてぶつけた。以前よりも言葉での虐待は激しくなってしまった。
小羽は成長している。昔分からなかった言葉も、理解できるようになっている。理解が増えた分、小羽の心は傷だらけだった。
浴びせられる汚い言葉。存在を否定する言葉。小羽は幼いながらも、親に必要とされていない自分が、どうして産まれてきたのか、真剣に考えるようになった。
昼休み。場所は校庭。児童の投げたボールが、小羽と談笑していた霞の顔に当たった。
「霞ちゃん!」
霞は、目に涙を浮かべ鼻を押さえている。押さえている手からは、真っ赤な血が滴り落ちている。
「誰だ!誰がやった!?」
小羽は、ボール投げをやっていた四人の児童に駆け寄ると、その小さな拳で片っ端から殴り付けた。
「小羽君!」
霞は暴れ回る小羽に駆け寄った。
小羽が全員を殴り倒した。
「霞ちゃんを傷付ける奴は、僕が許さない!」
小羽はそう叫ぶと振り返った。後ろに立つ霞に向けた顔には、優しげな笑みが浮かんでいる。
「…小羽君…ありがとう」
霞は、微笑む小羽に恐怖を感じながらも、礼を言った。自分を守る為にやった事だと分かったからだ。
「どうしたの!?…君がやったの!?ちょっときなさい!」
たまたま通りかかった女教師が事態を把握した。
殴り倒された児童達と霞は、保健室に連れていかれた。その後小羽は女教師と共に、職員室に向かった。
職員室に小羽の担任がいた。事情を聞いた担任が小羽に尋ねた。
「なんで殴ったりしたの?」
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