約束ノート

村上未来

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幕引き

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「だ、大丈夫です…電話が切れちゃいました」

 雅史は笑顔で震えた声を出した。

「…そう…そこから動いちゃだめよ。住所が分かったから、今警官を向かわせてる。私達もそっちに向かってるわ」

「は、は、早く来てください」

 笑顔の雅史の耳にパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
 
「もう直ぐ着くと思うわ」

「サイレンが聞こえます。た、建物から出ます」

 雅史は建物から出た。パトカーが工場の前に止まっているのが見えた。

「あっ、パトカーが来ました」

 雅史は笑顔を止め、恐怖と悲壮感を顔に宿した。

「そう…私達も、もう直ぐ着くわ」

 パトカーから制服を着た警官が二人降りてくるのが見えた。雅史は弱々しく手を挙げた。警官が気付いた。

「お巡りさんが来ました。ありがとうございました」

 雅史はそう言うと、電話を切った。
 携帯電話を握り締めたまま、彩花は運転席の相田に視線を向けた。

「…やっぱり怪しいですね」

 運転中の相田は、彩花に視線を向ける事なく尋ねた。

「何がだ?」

「西園寺雅史です…演技しているように感じました」

「…犯人は西園寺だと思ってるのか?」

「…全てが西園寺の犯行だとは思いませんが、少なくとも一人は殺していると思います」

「…そうか」

 そう答えた相田も、同じように思っていた。
 パトカーから降りてきた警官が、門をよじ登り、声を掛けながら近付いてきた。

「西園寺雅史さんですか?」

「は、はいそうです」

 雅史の足は、がくがくと震えている。

「大丈夫ですか?他に人は居ますか?」

「…二人いますが…恐らく、二人共、…し、死んでます」

 雅史はしゃがみ込み、震えながら頭を抱えた。その様は、とても演技には見えない。

「安心して下さい。もう大丈夫ですから」

 警官は雅史の肩に手を当てた。

「…は、は、はい」

 雅史は歯をガタガタと震わせながら、怯えた表情で警官の顔を見上げた。
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