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モンスター
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青木は上着の内ポケットから小型のナイフを取り出し、雅史の顔の前でひらひらと踊らせた。
雅史はナイフなど見えていない。殺意を青木に向け続けている。
青木が雅史の口からガムテープを剥がし、その下の布も取った。
雅史は声を出さずに、睨み続けている。
「よし、いい子だ…コンビニのカレーライスだが、美味いぞ」
青木は下に置いたコンビニ袋から容器を取り出し蓋を開けた。まだ温かいのだろう、白い湯気が汚い部屋の天井に登って行く。
青木はプラスチック製のスプーンでカレーライスを掬うと、雅史の閉ざされた唇に近付けた。
雅史は睨み付けたまま、口を開こうとはしない。
青木の目が一際大きくなった。瞳孔が開いている。
「口を開けろ!喰え!刺すぞ!」
青木はスプーンを雅史の唇に押し付けた。
雅史は青木を睨み付けたまま、僅かに唇を開き、スプーンを迎い入れた。本能が生きる道を導いているのだろう。
雅史は睨み付けたまま、無意識で咀嚼し飲み込んだ。
「…よし、いい子だ…言う事を聞けば何もしないからな…水も飲め」
怒りが覚めたようだ。青木の開いた瞳孔は元に戻っている。
青木はストローを挿した水が入ったペットボトルを雅史の口に近付けた。
喉は渇いていた。殺意で気付いてはいないが、体は水を欲している。雅史は勢い良く水を飲んだ。
殺意しかなかった中に思考が戻ってきた。この先どうなるか分からない。体力を回復させるのが先だ。
青木がまたカレーを掬い、スプーンを口に近付けた。雅史は自分の意思で受け入れた。
雅史は殺意に満ちた瞳で青木を睨み付けながら食べているが、そんな事は関係ないようだ。青木は嬉しそうだ。
青木はスプーンとストローを交互に雅史の口に運んだ。その全てを雅史は受け入れた。
食事が終わった。ペットボトルも空だ。
「美味かったか?…食べる姿も可愛いな」
青木の鼻息は荒くなっている。その視線の先には、米粒が付いた雅史の唇がある。
青木は雅史の唇に舌先を伸ばした。米粒が雅史の唇から青木の舌先に移った。
米粒だけでは足りなかったようだ。青木は自分の唇を雅史の唇に重ねた。
噛み千切るのは、まだ早い。確実に殺せる時に動くべきだ。雅史はされるがままに、動かなかった。
雅史の唇の味を堪能した青木は、漸く顔を上げた。
青木は嬉しそうに自分の唇を舌で舐め、余韻を楽しんでいる。
青木がしゃがみ込んだ。ゴミが溢れる床の上から何か掴み取った。テレビのリモコンだ。
青木は埃に塗れたテレビに向かい、ボタンを押した。
テレビの画面には、知名度のある、フリーのアナウンサーの男が映っている。
「丁度、始まった所だな」
青木は笑顔を雅史に向けた。
殺意が増した。雅史は瞬きを忘れたその目で、青木を睨み付けている。青木の顔が蕩けた。
「…俺はお前のその目に惚れたんだ…なんて綺麗な目をしているんだ…」
青木はうっとりとした表情を浮かべ、涎を垂らした。
「…葵さんが初めに殺され」
青木はテレビから聞こえてくる声に反応し、視線を変えた。
テレビでは葵と弥生の事件の特集がされている。
雅史はナイフなど見えていない。殺意を青木に向け続けている。
青木が雅史の口からガムテープを剥がし、その下の布も取った。
雅史は声を出さずに、睨み続けている。
「よし、いい子だ…コンビニのカレーライスだが、美味いぞ」
青木は下に置いたコンビニ袋から容器を取り出し蓋を開けた。まだ温かいのだろう、白い湯気が汚い部屋の天井に登って行く。
青木はプラスチック製のスプーンでカレーライスを掬うと、雅史の閉ざされた唇に近付けた。
雅史は睨み付けたまま、口を開こうとはしない。
青木の目が一際大きくなった。瞳孔が開いている。
「口を開けろ!喰え!刺すぞ!」
青木はスプーンを雅史の唇に押し付けた。
雅史は青木を睨み付けたまま、僅かに唇を開き、スプーンを迎い入れた。本能が生きる道を導いているのだろう。
雅史は睨み付けたまま、無意識で咀嚼し飲み込んだ。
「…よし、いい子だ…言う事を聞けば何もしないからな…水も飲め」
怒りが覚めたようだ。青木の開いた瞳孔は元に戻っている。
青木はストローを挿した水が入ったペットボトルを雅史の口に近付けた。
喉は渇いていた。殺意で気付いてはいないが、体は水を欲している。雅史は勢い良く水を飲んだ。
殺意しかなかった中に思考が戻ってきた。この先どうなるか分からない。体力を回復させるのが先だ。
青木がまたカレーを掬い、スプーンを口に近付けた。雅史は自分の意思で受け入れた。
雅史は殺意に満ちた瞳で青木を睨み付けながら食べているが、そんな事は関係ないようだ。青木は嬉しそうだ。
青木はスプーンとストローを交互に雅史の口に運んだ。その全てを雅史は受け入れた。
食事が終わった。ペットボトルも空だ。
「美味かったか?…食べる姿も可愛いな」
青木の鼻息は荒くなっている。その視線の先には、米粒が付いた雅史の唇がある。
青木は雅史の唇に舌先を伸ばした。米粒が雅史の唇から青木の舌先に移った。
米粒だけでは足りなかったようだ。青木は自分の唇を雅史の唇に重ねた。
噛み千切るのは、まだ早い。確実に殺せる時に動くべきだ。雅史はされるがままに、動かなかった。
雅史の唇の味を堪能した青木は、漸く顔を上げた。
青木は嬉しそうに自分の唇を舌で舐め、余韻を楽しんでいる。
青木がしゃがみ込んだ。ゴミが溢れる床の上から何か掴み取った。テレビのリモコンだ。
青木は埃に塗れたテレビに向かい、ボタンを押した。
テレビの画面には、知名度のある、フリーのアナウンサーの男が映っている。
「丁度、始まった所だな」
青木は笑顔を雅史に向けた。
殺意が増した。雅史は瞬きを忘れたその目で、青木を睨み付けている。青木の顔が蕩けた。
「…俺はお前のその目に惚れたんだ…なんて綺麗な目をしているんだ…」
青木はうっとりとした表情を浮かべ、涎を垂らした。
「…葵さんが初めに殺され」
青木はテレビから聞こえてくる声に反応し、視線を変えた。
テレビでは葵と弥生の事件の特集がされている。
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