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誕生
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雅史は黙った。虐めが静香にバレてしまうと思ったのだ。
「…本人が言ってるんだから、虐められているのでしょう」
黙っている雅史に代わり、駒井が答えた。
校長は罰の悪そうな顔をして、駒井から視線を逸らせた。
「…それで、鞄を七時半近くまで探してたのかい?」
「…はい…教室中探したんですけど、見付からなくて…他のクラスの教室も探しました…黒田先輩のクラスを探している時…優奈が突然、泣き出して…死にたいって…屋上に走り出したんです」
雅史はありもしなかった事を思い出すように、悲しそうに話した。
「…そうか…分かった、ありがとう。辛かったね」
雅史の言葉を信じたのかは定かではないが、駒井は慰めの言葉を掛けた。
それから駒井は幾つか質問した。雅史はボロを出さなかった。心理学者でも、嘘を吐いている事は、見抜けないかもしれない。
室内が静かになった。駒井は沢池に視線を送ると静かに頷いた。それを見た沢池も、静かに頷いている。
「ありがとう。もう、いいよ。何か他に思い出すような事があったら、また話を聞かせてね」
駒井の言葉を聞いて、雅史の隣に座っている朝霧が立ち上がった。
「…西園寺、行こう」
悲しみに打ちひしがれているようにしか見えない雅史は、朝霧に支えられ校長室を後にした。
優奈の部屋の机の引き出しの奥から、遺書と書かれた封筒が見付かった。両親や親友に向けての感謝の言葉と共に、失恋に対する悲しみが二枚の便箋に書かれていた。自ら死ぬ事を考えているという一文もあり、その事に対しての、両親への謝罪の一文もある。
この遺書は失恋したばかりの頃に、優奈本人が書いたものだ。心を病んでいる時に書いた為、立ち直ってからも、何処にしまったのかを忘れてしまったのだろう。
警察はこの遺書の存在と雅史の証言を元に、事件を自殺として処理する事を決めた。
雅史は優奈を殺してから、殺害に対して罪悪感を一切感じなくなった。信じていた者に裏切られる時の絶望する顔が見たい。もっと見たい。雅史の狂気は益々エスカレーターしていった。
雅史に対する虐めは直ぐになくなった。しかし、仲良くなった訳ではない。
静香は雅史の為を思い、引っ越そうとした。そうすれば中学校が変わる。しかしそれを雅史が拒んだ。
「他に行ったら、また虐められるかもしれない。だったら、虐めがなくなった今の学校のままがいい」
雅史のその意見に、静香は従い、引っ越さなかった。しかし、これは雅史の本心ではない。虐められる虐められないの問題なんてどうでも良かった。問題なのは、優奈が死んだ場所から離れてしまう事だ。雅史は優奈の死に顔を鮮明に思い出せる場所から離れたくなかったのだ。
雅史が中学を卒業する頃、静香は仕事の都合で県外に引っ越した。一人でその地に残る訳にはいかない雅史も、静香に付いていった。優奈が死んだ場所から離れるのは辛い。最初はそう思っていた。
辛ければ、また近くに作ればいい。雅史はそう思ってしまった。
高校生になった雅史は、男子用のブレザーを着て入学式に向かった。男子は男子の服装。それが規則だそうだ。苦痛だった。
雅史は学校で一言も話さなかった。体育館での入学式が終わり、これから毎日学ぶ教室に行った。そこでクラスメートとなる者達と担任の教師の話を聞いてはいたが、誰の顔も覚えてはいない。そして、誰とも言葉を交わす事なく帰宅したのだ。
「…本人が言ってるんだから、虐められているのでしょう」
黙っている雅史に代わり、駒井が答えた。
校長は罰の悪そうな顔をして、駒井から視線を逸らせた。
「…それで、鞄を七時半近くまで探してたのかい?」
「…はい…教室中探したんですけど、見付からなくて…他のクラスの教室も探しました…黒田先輩のクラスを探している時…優奈が突然、泣き出して…死にたいって…屋上に走り出したんです」
雅史はありもしなかった事を思い出すように、悲しそうに話した。
「…そうか…分かった、ありがとう。辛かったね」
雅史の言葉を信じたのかは定かではないが、駒井は慰めの言葉を掛けた。
それから駒井は幾つか質問した。雅史はボロを出さなかった。心理学者でも、嘘を吐いている事は、見抜けないかもしれない。
室内が静かになった。駒井は沢池に視線を送ると静かに頷いた。それを見た沢池も、静かに頷いている。
「ありがとう。もう、いいよ。何か他に思い出すような事があったら、また話を聞かせてね」
駒井の言葉を聞いて、雅史の隣に座っている朝霧が立ち上がった。
「…西園寺、行こう」
悲しみに打ちひしがれているようにしか見えない雅史は、朝霧に支えられ校長室を後にした。
優奈の部屋の机の引き出しの奥から、遺書と書かれた封筒が見付かった。両親や親友に向けての感謝の言葉と共に、失恋に対する悲しみが二枚の便箋に書かれていた。自ら死ぬ事を考えているという一文もあり、その事に対しての、両親への謝罪の一文もある。
この遺書は失恋したばかりの頃に、優奈本人が書いたものだ。心を病んでいる時に書いた為、立ち直ってからも、何処にしまったのかを忘れてしまったのだろう。
警察はこの遺書の存在と雅史の証言を元に、事件を自殺として処理する事を決めた。
雅史は優奈を殺してから、殺害に対して罪悪感を一切感じなくなった。信じていた者に裏切られる時の絶望する顔が見たい。もっと見たい。雅史の狂気は益々エスカレーターしていった。
雅史に対する虐めは直ぐになくなった。しかし、仲良くなった訳ではない。
静香は雅史の為を思い、引っ越そうとした。そうすれば中学校が変わる。しかしそれを雅史が拒んだ。
「他に行ったら、また虐められるかもしれない。だったら、虐めがなくなった今の学校のままがいい」
雅史のその意見に、静香は従い、引っ越さなかった。しかし、これは雅史の本心ではない。虐められる虐められないの問題なんてどうでも良かった。問題なのは、優奈が死んだ場所から離れてしまう事だ。雅史は優奈の死に顔を鮮明に思い出せる場所から離れたくなかったのだ。
雅史が中学を卒業する頃、静香は仕事の都合で県外に引っ越した。一人でその地に残る訳にはいかない雅史も、静香に付いていった。優奈が死んだ場所から離れるのは辛い。最初はそう思っていた。
辛ければ、また近くに作ればいい。雅史はそう思ってしまった。
高校生になった雅史は、男子用のブレザーを着て入学式に向かった。男子は男子の服装。それが規則だそうだ。苦痛だった。
雅史は学校で一言も話さなかった。体育館での入学式が終わり、これから毎日学ぶ教室に行った。そこでクラスメートとなる者達と担任の教師の話を聞いてはいたが、誰の顔も覚えてはいない。そして、誰とも言葉を交わす事なく帰宅したのだ。
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