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罰
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「分かりました、こちらで調べます。後のお二人はどなたですか?」
「その事件を捜査していた刑事さんです…名前は覚えてないです」
顔は思い出せても、名前までは出てこなかった。
「他にはいないんですね?」
「…いないと思います。家族にも話した事はないので」
「ご家族?ご結婚されているんですか?」
孤児院で暮らしていた健太から、家族という言葉が出て、田宮はそう思ったのだろう。
「いえ、してないです。養子になったんです」
「あぁ、そうなんですね」
田宮は納得した表情を浮かべた。
「…篠原さんに恨みを持つ人に、心当たりないですか?」
「…いや、ないです」
健太に思い当たる人物はいなかった。
「よく考えて下さい」
田宮はもう一度考えるように促した。
「…やっぱりいないですね」
暫く沈黙して記憶を探ったが、自分に恨みを持つ人間は、やはり思い浮かばなかった。
「そうですか…では、田島さんに恨みを持つ人物に心当たりはないですか?」
遥の名前が出て、健太は体がずしりと重くなった。悲しくてしかたがないのだろう。
「…遥ちゃんに恨み?…いないですね。優しい子だから…恨まれるようなタイプじゃないです」
「でも、優しいからと言って、恨みを持たれないことなんてないですよ。妬みや逆恨みなんて場合もありますし」
「…それでも、やはり心当たりないですね」
「そうですか…」
田宮は溜め息を吐いた。
「失礼します」
ドアを開け、スーツを着た男が、部屋に入らず田宮を手招きで呼んだ。
「ちょっと、失礼しますね」
田宮は健太に断りを入れ、席を外した。部屋に残った健太は、遥の心配をしながら、犯人が誰なのか考えた。
犯人が約束ノートの事を知っているのは確かだ。ならば、ノートの事を話した五人の中にいるのか。いや、五人以外にも知っている人間がいる可能性はある。その五人が他の者に話しているかもしれない。刑事は情報を共有する筈だ。数多くの人数が知っている可能性は高いだろう。それ以前に、自分が約束ノートの事を話したのは、本当に五人だけなのか。
健太は施設が燃えた事件当夜の記憶を無くしていた。その前後数日間の記憶も曖昧だった時期がある。十五歳の時、目の前で猫が車に轢かれた。その時に「ぐちゅっ!亅という音を聞き、記憶を取り戻したのだ。
その曖昧な記憶しかない時期に、誰かに話している可能性もある。しかし、どんなに考えても、誰かに話した記憶はなかった。
「お待たせしました」
田宮が部屋に戻ってきて、席に着いた。そして、直ぐに言葉を繋げた。
「実はですね、田島さんの部屋を調べていた者から連絡が入ったんですが、玄関の鍵にピッキングした形跡がありました」
「ピッキング?…ピッキングって器具を使って鍵を開けるあれですよね?」
「そうです…部屋には争った跡はなく、携帯電話と財布も部屋に置いてありました。そこから考えられるのは、田島さんは抵抗する事なく、部屋から連れ去られたという事です」
「そうですか…」
健太は遥の無事を祈りながら、呟いた。
「その事件を捜査していた刑事さんです…名前は覚えてないです」
顔は思い出せても、名前までは出てこなかった。
「他にはいないんですね?」
「…いないと思います。家族にも話した事はないので」
「ご家族?ご結婚されているんですか?」
孤児院で暮らしていた健太から、家族という言葉が出て、田宮はそう思ったのだろう。
「いえ、してないです。養子になったんです」
「あぁ、そうなんですね」
田宮は納得した表情を浮かべた。
「…篠原さんに恨みを持つ人に、心当たりないですか?」
「…いや、ないです」
健太に思い当たる人物はいなかった。
「よく考えて下さい」
田宮はもう一度考えるように促した。
「…やっぱりいないですね」
暫く沈黙して記憶を探ったが、自分に恨みを持つ人間は、やはり思い浮かばなかった。
「そうですか…では、田島さんに恨みを持つ人物に心当たりはないですか?」
遥の名前が出て、健太は体がずしりと重くなった。悲しくてしかたがないのだろう。
「…遥ちゃんに恨み?…いないですね。優しい子だから…恨まれるようなタイプじゃないです」
「でも、優しいからと言って、恨みを持たれないことなんてないですよ。妬みや逆恨みなんて場合もありますし」
「…それでも、やはり心当たりないですね」
「そうですか…」
田宮は溜め息を吐いた。
「失礼します」
ドアを開け、スーツを着た男が、部屋に入らず田宮を手招きで呼んだ。
「ちょっと、失礼しますね」
田宮は健太に断りを入れ、席を外した。部屋に残った健太は、遥の心配をしながら、犯人が誰なのか考えた。
犯人が約束ノートの事を知っているのは確かだ。ならば、ノートの事を話した五人の中にいるのか。いや、五人以外にも知っている人間がいる可能性はある。その五人が他の者に話しているかもしれない。刑事は情報を共有する筈だ。数多くの人数が知っている可能性は高いだろう。それ以前に、自分が約束ノートの事を話したのは、本当に五人だけなのか。
健太は施設が燃えた事件当夜の記憶を無くしていた。その前後数日間の記憶も曖昧だった時期がある。十五歳の時、目の前で猫が車に轢かれた。その時に「ぐちゅっ!亅という音を聞き、記憶を取り戻したのだ。
その曖昧な記憶しかない時期に、誰かに話している可能性もある。しかし、どんなに考えても、誰かに話した記憶はなかった。
「お待たせしました」
田宮が部屋に戻ってきて、席に着いた。そして、直ぐに言葉を繋げた。
「実はですね、田島さんの部屋を調べていた者から連絡が入ったんですが、玄関の鍵にピッキングした形跡がありました」
「ピッキング?…ピッキングって器具を使って鍵を開けるあれですよね?」
「そうです…部屋には争った跡はなく、携帯電話と財布も部屋に置いてありました。そこから考えられるのは、田島さんは抵抗する事なく、部屋から連れ去られたという事です」
「そうですか…」
健太は遥の無事を祈りながら、呟いた。
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