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罰
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川北警察署に着いた健太達は、別々の小部屋に案内された。部屋の中には机と椅子しかなく、これが俗にいう取調室なのかもしれない。
椅子に座った健太の前に田宮が腰掛けた。宮川の姿はない。恐らく、違う部屋で和也の話を聞いているのだろう。
田宮の他には、紺色のスーツを着た刑事らしき男が、壁際に置かれた机に健太に背を向ける形で座っている。
「約束ノートってなんですか?」
席に着いた途端、田宮は尋ねた。
「…俺が施設で暮らしていた時に、書かされていた物です」
「施設?なんの施設ですか?」
「孤児院です。俺はそこで育ちました」
「孤児院で書かされていたノートですね。どんなノートですか?」
「約束事を書くノートです。ノートに書いた約束を破れば、施設の先生に叱られていました」
「叱られる?体罰ですか?」
「…はい、叩かれたりしてました」
健太の頭の中に、幼い自分を殴り付ける洋子の姿が勝手に浮かんできた。
「体罰ですか…約束を破れば罰が下る…送られてきたノートに書かれている言葉と一致しますね」
手帳のメモを一瞥した後、田宮は鋭い視線を健太に向けた。
「…そうですね」
健太は憂鬱そうに答えた。
「…体罰を加えていた先生は、今も施設で働いているんですかね?」
「いえ、亡くなりました…施設も今はもうないです」
健太は施設で起きた事件の詳細を、覚えている限り話した。
「…八歳の子が犯人ですか」
田宮は驚いた表情を浮かべた後、重い口調で独り言のように呟いた。
「…はい」
健太が答えた後、暫く沈黙が続いた。
「…その麻生零士君は死んだんですよね?」
田宮が沈黙を破り尋ねた。
「はい、あの事件の夜に亡くなったと聞いてます」
「そうですか…こちらでその事件について調べてみますね…ところで、その約束ノートの存在を知ってらっしゃる方って何人ぐらい居るんですか?」
健太は視線を上に向け、記憶を辿った。
「…多分、生きている人で知っているのは五人です」
「その方達のお名前を教えて下さい」
「事件当時に入院していた病院の先生と看護婦さん二人に喋った記憶があります…えーと…名前は沢尻先生です」
「沢尻先生ですね、残りの看護婦さんのお名前は?」
「えーと……駄目です、思い出せません…幼い時の事ですから」
健太は必死で思い出そうとしたが、名前までは思い出せなかった。
「分かりました。その病院の名前を教えて下さい」
「…すいません、覚えてないです」
健太は面目なさそうに答えた。
椅子に座った健太の前に田宮が腰掛けた。宮川の姿はない。恐らく、違う部屋で和也の話を聞いているのだろう。
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「約束ノートってなんですか?」
席に着いた途端、田宮は尋ねた。
「…俺が施設で暮らしていた時に、書かされていた物です」
「施設?なんの施設ですか?」
「孤児院です。俺はそこで育ちました」
「孤児院で書かされていたノートですね。どんなノートですか?」
「約束事を書くノートです。ノートに書いた約束を破れば、施設の先生に叱られていました」
「叱られる?体罰ですか?」
「…はい、叩かれたりしてました」
健太の頭の中に、幼い自分を殴り付ける洋子の姿が勝手に浮かんできた。
「体罰ですか…約束を破れば罰が下る…送られてきたノートに書かれている言葉と一致しますね」
手帳のメモを一瞥した後、田宮は鋭い視線を健太に向けた。
「…そうですね」
健太は憂鬱そうに答えた。
「…体罰を加えていた先生は、今も施設で働いているんですかね?」
「いえ、亡くなりました…施設も今はもうないです」
健太は施設で起きた事件の詳細を、覚えている限り話した。
「…八歳の子が犯人ですか」
田宮は驚いた表情を浮かべた後、重い口調で独り言のように呟いた。
「…はい」
健太が答えた後、暫く沈黙が続いた。
「…その麻生零士君は死んだんですよね?」
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「はい、あの事件の夜に亡くなったと聞いてます」
「そうですか…こちらでその事件について調べてみますね…ところで、その約束ノートの存在を知ってらっしゃる方って何人ぐらい居るんですか?」
健太は視線を上に向け、記憶を辿った。
「…多分、生きている人で知っているのは五人です」
「その方達のお名前を教えて下さい」
「事件当時に入院していた病院の先生と看護婦さん二人に喋った記憶があります…えーと…名前は沢尻先生です」
「沢尻先生ですね、残りの看護婦さんのお名前は?」
「えーと……駄目です、思い出せません…幼い時の事ですから」
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