約束ノート

新たな家族

1

　施設の事件から一ヵ月が経った。
　健太の検査は全て終わり、記憶喪失以外の異常も見られなかった。
　テレビでは頻度は減ったが、未だ事件の事が報道されている。しかし担当医の沢尻の配慮で、健太の目に触れる事はなかった。
　健太は個室の病室から一般病棟に移り、そこで同年代の友達もでき、何の不安もなく楽しく過ごしている。
　そんな健太の元に一人の青年が現れた。

「健太君。健太君に会いたいって人が来たよ」

　看護士を交え、同じ病室の男の子と楽しくお喋りをしていた健太は、憂鬱そうな表情を浮かべ振り返った。

「…うん」

　健太はまた、利根川達が来たと思ったのだ。
　毎日のように訪れ、同じ質問ばかりする利根川達を、健太は苦手に思っている。何よりも嫌悪感を抱いているのは、利根川の眼光鋭い観察するような視線だ。
　健太は看護士と男の子に別れを告げ、自分のベッドに戻った。
　ベッドに腰掛け俯く健太の視界に、蒼いジーパンが入った。目の前に誰か立っている。

「健太君？」

　健太は聞き覚えの無い声を聞き、顔を上げた。

「ん？…お兄ちゃん誰？」

　見た事のない顔だ。健太は首を傾げ、問い掛けた。
　目の前には、赤いＴシャツの上に灰色の薄手のパーカーを着た、見た目二十代半ばの青年が笑顔を浮かべ立っている。

「会うのは久しぶりだね。健太君がまだ小さい頃に会ったきりだから、覚えてなくても仕方ないね。お兄ちゃんは赤沢義樹、よろしくね」

　義樹は健太に開いた手を差し伸べた。