190 / 203
壊れた心
10
しおりを挟む
どこまでも続く永遠の坂道。しかし、掛け替えのない親友の背中が、不意に消えた。
白と黒に染まる坂道。坂道は静寂という音を奏でながら、崩れるように目の前から消えた。残ったのは、砂煙だけ。しかし、砂煙も徐々に消えていき、中から人影が現れた。
徐々に人影が浮き彫りになっていく。
プロレスラーのようにがたいの良いその男は、俯き歩いている。
「ジャン!」
大切な人の名を口にしたリアンだが、その口からは何の音も発してはいない。
いくら叫んでも、周りの空気を震わす事も出来ないリアンは、その叫びを伝えるように、鍵盤を弾く指先を叫ばせる。そのメロディーが、自分を呼ぶ声だと気付いたジャンは、顔を上げた。
必死にピアノを弾くリアンを見詰める。ジャンは、顔をくしゃくしゃにし泣き出した。そして、跪き、何かを見上げるように、涙でくしゃくしゃな顔で天を仰いだ。
不意にジャンの体が浮き上がった。
ジャンはこの地に残ろうと、必死に藻掻いている。しかしそれは叶わぬ事なのだろう。
ジャンの体はゆっくりと確実に、この地から離れて行っている。
くしゃくしゃな顔で見詰めるリアンに向け、その手を伸ばす。しかし、ジャンの指先がリアンに触れる事は叶わない。
リアンとジャン。二人の間には、距離があり過ぎるのだ。
いつまでも届かぬ指先を、必死に伸ばす。しかし、ジャンの指先が掴むのは、周りの空気だけ。そして、どんなに藻掻いても、触れる事は叶わないと悟ったのだろう。ジャンの泣き顔が、優しげな笑顔に変わった。
泣き虫なジャンは、いつでもリアンの前で笑っていた。
白と黒に染まる坂道。坂道は静寂という音を奏でながら、崩れるように目の前から消えた。残ったのは、砂煙だけ。しかし、砂煙も徐々に消えていき、中から人影が現れた。
徐々に人影が浮き彫りになっていく。
プロレスラーのようにがたいの良いその男は、俯き歩いている。
「ジャン!」
大切な人の名を口にしたリアンだが、その口からは何の音も発してはいない。
いくら叫んでも、周りの空気を震わす事も出来ないリアンは、その叫びを伝えるように、鍵盤を弾く指先を叫ばせる。そのメロディーが、自分を呼ぶ声だと気付いたジャンは、顔を上げた。
必死にピアノを弾くリアンを見詰める。ジャンは、顔をくしゃくしゃにし泣き出した。そして、跪き、何かを見上げるように、涙でくしゃくしゃな顔で天を仰いだ。
不意にジャンの体が浮き上がった。
ジャンはこの地に残ろうと、必死に藻掻いている。しかしそれは叶わぬ事なのだろう。
ジャンの体はゆっくりと確実に、この地から離れて行っている。
くしゃくしゃな顔で見詰めるリアンに向け、その手を伸ばす。しかし、ジャンの指先がリアンに触れる事は叶わない。
リアンとジャン。二人の間には、距離があり過ぎるのだ。
いつまでも届かぬ指先を、必死に伸ばす。しかし、ジャンの指先が掴むのは、周りの空気だけ。そして、どんなに藻掻いても、触れる事は叶わないと悟ったのだろう。ジャンの泣き顔が、優しげな笑顔に変わった。
泣き虫なジャンは、いつでもリアンの前で笑っていた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる