ノラネコのピアニスト

村上未来

文字の大きさ
上 下
75 / 203
新しい暮らし

34

しおりを挟む
 元から医者からは、永くはないと言われていた。それ程に病魔に巣くわれているマドルスは、ベッドの上で1日を過ごすようになった。
 医者は入院する事を強く勧めたが、マドルスはリアンと少しでも一緒に居たくて、頑なに拒み続けている。
 そんなマドルスを心配して、リアンは学校以外の時間の殆どを、マドルスの部屋で過ごしている。
 そんなリアンの優しさに触れ、マドルスは自分の愚かさに、嫌という程気付かされた。しかし、ジャンへの手紙は引き出しの中にあるとは、いくら勇気を振り絞っても、言う事が出来なかった。リアンに嫌われるのが辛かったのだ。
 マドルスは心労のせいか、日に日に弱まっている。そして、自分の死期を悟った。
 自分が死んだ後、リアンはどうなるのか?
 寝た切りのマドルスの頭は、その事でいっぱいだ。
 残してやれる財産は山ほどある。しかし、リアンはまだ学校に通わなければならない子供。
 金があっても、一人で生きていける訳がない。
 そこでマドルスは、葛藤した末に、ジャンに電報を打った。
 虫の良い話かもしれないが、再びリアンを育てて欲しい旨を伝える為に、電報を打ったのだ。しかし、その願いも虚しく、電報が届くことはなかった。
 住所はあっている。しかし、その住所であるリアンが育った酒場には、今は誰も住んでいなかったのだ。
 マドルスは、リアンが育った街に執事を行かせ、ジャンを探させた。そして、数日後に帰ってきた執事の口から聞きたくない言葉を聞かされる事となった。

「一ヶ月程前に、事故に遭い亡くなったそうです」

 マドルスは自分の愚かさに泣き、リアンに対して取り返しのつかないことをしていたと、深く後悔した。そして、ジャンが死んだ事をリアンに何度も告げようとした。しかし、マドルスは自分の犯した過ちのせいか、リアンに言えないままでいる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

夫は魅了されてしまったようです

杉本凪咲
恋愛
パーティー会場で唐突に叫ばれた離婚宣言。 どうやら私の夫は、華やかな男爵令嬢に魅了されてしまったらしい。 散々私を侮辱する二人に返したのは、淡々とした言葉。 本当に離婚でよろしいのですね?

処理中です...