殺しの美学

村上未来

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真実

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「俺が皇伊織?…それはお前に付けた名前だ。醜いお前に付けた、そんな穢れた名で俺を呼ぶな」

 男は眉間に皺を寄せている。嫌悪感剥き出しだ。だが、泰三は男が嫌悪感を抱いた事に気付かないでいる。失望している彼は、現実を受け入れがたいのだろう。 
 泰三は、幼い頃から自分の容姿に苦しめられてきた。醜い自分の顔が嫌いだった。醜い姿を映す鏡さえ嫌いだったのだ。
 先程まで幻覚の中で過ごしていた泰三は、醜い姿に戻った自分に失望している。幻覚の中の自分は、目の前の男と同じ姿をしていた。容姿端麗。その言葉がぴったり当てはまる程、目の前の男は美しい。
 ずっと手に入れたかった美しい顔。催眠術に掛けられていた時の記憶がある泰三は、現実の醜い自分に悲観している。人を殺してしまった事実よりも、醜い自分を受け入れたくないようだ。

「現実を受け入れたくないのか?」

 心を見透かしたように、男がその言葉を口にした。しかし、泰三のあわあわと動く口からは、答えは返ってこない。

「辛そうだな。その記憶を消してやろうか?」

 男が告げた。その顔には、心配とは真逆にある、笑みを浮かべている。

「聞こえていないのか?」

 男はつまらなそうに顔から笑みを消した。

「なら、俺と会話できるようにしてやるよ」

 男が指を鳴らした。そして、言葉を口にした。

「現実を受け入れたくないのか?」

 右往左往と動いていた泰三の目玉が、男を見詰め静止した。

「…あぁ」

 泰三はただ一言、その言葉を発した。

「お前は、俺には嘘は吐けないぞ。どうして現実を受け入れたくないか言ってみろ」

「…醜い自分が死ぬ程嫌いだ。このままなら、生きていたくない」

 男を見詰める泰三の目には、涙が溢れている。
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