殺しの美学

村上未来

文字の大きさ
上 下
390 / 398
真実

4

しおりを挟む
 骨が見えてきた。右手。左手。それに両足。その全てから溢れ出る血に紛れ、白い骨が見えている。
 もはや使い物にならないだろう。それは誰が見ても一目瞭然な程、美玲は食い千切られている。

「人間の肉は美味いのか?調理せずに生で食べられるのだな?」

 そんな状況になっても、美玲は頭に浮かぶ疑問を、自分を喰らい続ける大男にぶつけた。

「止めろぉぉぉぉ!」

 それまでよりも、一際大きな声。伊織は、自分の脇腹に突き刺さる銀色のペンを引き抜くと、何の躊躇いもなく人間を貪る大男の脳天目掛けて振り下ろした。
 ぐさり。心地良い音を奏でながら、銀色のペンの先端が大男の脳に到達した。
 くるり。そんな音が聞こえてきそうな動きで、大男は今まで存在を認識していなかった伊織へと顔を向ける。
 嫌悪感さえ抱く醜い顔。その醜い顔に宿した満面の笑み。その吐き気さえ催す笑顔には、べっとりとした、滴り落ちる血が付いている。
 血に濡れた大男の唇の端が、極限まで上がっていく。そして上がり続けた口角が、ぴたりと止まった。それと同じように、大男の体の動きもぴたりと止まった。

「どけぇぇぇ!」

 息をしなくなった大男を払い除け、伊織は愛する美玲を抱き締めた。
 美玲が口を開いた。

「皇伊織、何故に私を抱き締めるのだ?」

「美玲さん!大丈夫か!?」

「答えてくれ。何故に私を抱き締めるのだ?」

 死へと近付いている美玲は、ぐったりとしながらも、その口調は未だはっきりとしている。

「愛してるからに決まってるだろ!」

 そう答えた伊織もまた、口調はしっかりしているものの、死へと近付きつつある。二人とも血を流し過ぎたのだ。
 美玲は使い物にならなくなった両手を伊織の背中に這わせた。

「愛する者を抱き締めたくなる感情が、私にも分かった。私も皇伊織を抱き締めたいのだ」

 美玲は残された力を振り絞り、抱き締め返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

彼女は処女じゃなかった

かめのこたろう
現代文学
ああああ

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...