殺しの美学

村上未来

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未来へ

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 女の呼吸、心臓の鼓動は既に止まっている。それをしたくても、臓器は体から取り出されているからだ。残るは頭部にあるものだけ。脳だ。
 剥製師の手捌きは、一切の無駄がなかった。十分にも満たない時間で、首から下の臓器を取り出したのだ。
 目の前で繰り広げられていた残虐な光景。だが伊織にとっては残虐ではない。伊織はその光景を瞬きを忘れたように、目に焼け付けていた。
 伊織の手が動いた。その手は、真っ赤に染まった滑りのあるシーツへと伸びている。
 届いた。シーツを撫でる伊織の顔は、うっとりとしている。
 美しい。理解不能な美的感覚が、心の中で何度もそう囁き掛ける。


 それから十分経った。剥製師は手を止めた。剥製を造るにしては速すぎる時間。だが、完成したのである。

「…終わった」

 力の全てを使い果たしたように、剥製師はぐったりとした様子で、最後に皮膚を縫うのに使った針をぽとりと落とした。
 女はメスで切られ、針で縫われ、詰め物がされている。だが、そんな事はしなかったかのように綺麗に仕上がっている。

「…ずいぶん早いな」

「…食い千切るから薬品は使わなかった。その分、時間が短縮できたとはいえ、自分でも驚いている」

 剥製師はそう言いながら、真っ赤に染まった自分の両腕を見詰めた。
 神憑っていた。神が存在するとしても、このような残虐な行為に、力を貸すとは思えない。だが、そうでなければ説明が付かない程の速さと仕上がりで、剥製師は作業を終えたのだ。
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