殺しの美学

村上未来

文字の大きさ
上 下
345 / 398
道具集め

7

しおりを挟む
 黒塗りの門は客を出迎えるように開いている。伊織はなんの断りも無く、敷地内に足を踏み入れた。
 門から玄関へ通じる石畳の周りには、草木が生えている。ちゃんと手入れがされているようだ。
 引き戸の玄関の横には、インターホンらしきものは見当たらない。伊織はなんの躊躇いも無く、その引き戸に手を掛けた。

「ガラガラ」

 鍵が掛かっていなかった引き戸が、音を奏でながら開いた。

「誰?」

 廊下の向こうから声が聞こえた。
 伊織はその声がする方へと、土足のまま突き進んだ。

「誰?何か用?」

 木製の扉の向こうから声がした。伊織はその扉を開けた。
 若い女がいた。女は、男が着る甚平のような赤色の和服を着ている。女は畳の上で正座をしている。
 伊織が尋ねた。

「菱形右京は居るか?」

「私だけど、何か用?」

 そう答えた右京は、肝が据わっているのかもしれない。落ち着いているように見える。
 伊織は自分の五メートル以内にいる誰でもを催眠術に掛ける事が出来ると確信している。右京はその射程圏内にいる。

「立て」

 伊織はそう言いながら、右手を下から上へとすぅーっと移動させた。
 その右手と同調するように、右京がすぅーっと立ち上がった。

「刺青を彫る道具を持ってこい」

 その言葉を聞き、右京の体が動いた。
 右京は入り口付近に立つ伊織の横を通り抜けた。そして暫くすると、木製の鞄を抱え戻ってきた。

「持ってきたぞ」

 伊織の前に戻ってきた右京は、真っ直ぐに伊織の目を見詰めている。
 右京は美しい顔立ちをしている。
 伊織は、右京が無意識に醸し出しているその色香に、皆無と言っていい程、興味を示していない。

「お前は見た目は若いが、刺青を彫って何年になるんだ?」

「三年だ」

「これまでに何人の奴に入れた?」

「数えてはいないが、二十人程だろう」

 右京は聞かれた事を淡々と素直に答えている。
 催眠術の影響もあるかもしれないが、別に隠すような事ではないのだろう。

「…まぁ、いい。ついてこい」

 伊織は入り口の前に立つ右京を右手の甲で払い除けると、玄関に向け歩き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

彼女は処女じゃなかった

かめのこたろう
現代文学
ああああ

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

ずっと君のこと ──妻の不倫

家紋武範
大衆娯楽
鷹也は妻の彩を愛していた。彼女と一人娘を守るために休日すら出勤して働いた。 余りにも働き過ぎたために会社より長期休暇をもらえることになり、久しぶりの家族団らんを味わおうとするが、そこは非常に味気ないものとなっていた。 しかし、奮起して彩や娘の鈴の歓心を買い、ようやくもとの居場所を確保したと思った束の間。 医師からの検査の結果が「性感染症」。 鷹也には全く身に覚えがなかった。 ※1話は約1000文字と少なめです。 ※111話、約10万文字で完結します。

処理中です...