殺しの美学

村上未来

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変わらぬ未来

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「何やってんだごらあぁ!」

 まだ楽しむ余地があった。お楽しみを邪魔された。宗二の振り払った手の平が、涙でくしゃくしゃになった大輝の頬に、激しい音を立てた。しかし、どんなに強く叩かれても、大輝は恭子に突き刺したナイフの柄から手を放す事はなかった。

「…あーあ、死んじゃった」

 道路に転がる夏の蝉に子供が触れるように、宗二は指先で恭子を突いた。ぴくりとも動かない。宗二は飽きたおもちゃを見るような目を恭子の亡骸に向けた。

「いつもは生きてる内に細切れにするんだけど、死んじゃったからなー、やる気が出ないなー」

 可愛くもないのに拗ねるその様子を大輝に見せ付けるように、宗二はいつまでも口を尖らせている。

「…いいや、明日で。はい、解散」

 自分に対し何の反応も示さずに、恭子と繋がるナイフの柄を握り続けながら泣いている大輝に、宗二は興味を無くしたようだ。宗二は血に染まったレインコートを脱ぎ捨てると、部屋を出て行った。


 二時間、三時間。時間だけが過ぎて行く。しかし、その時間の移り変わりを感じさせないように、同じ姿勢から動かない男がいた。大輝だ。
 死後硬直が始まる恭子の胸に、突き刺さっているナイフ。そのナイフの柄を大輝は握り続けている。
 恭子の顔は苦痛に歪み、酷く醜い。大輝の視線は、その恭子の顔に向けられている。その瞳からはその悲しみを現すように、透き通る涙が流れ続けている。
 くしゃくしゃにした顔の皺に滲む涙。それを拭う事もなく、恭子の体と繋がるその唯一の物から手を離せないでいる。しかし、決して離さなかったナイフの柄から、手を放す瞬間がきた。
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