殺しの美学

村上未来

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変わらぬ未来

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「…恭子ちゃん、もう一度だけ聞くよ?口は利けないのかな?」

 宗二は背中にナイフを隠し、よろよろとベッドへと近付いている。その老いぼれた死神のような後ろ姿を、レインコートを羽織った大輝が見ている。
 全てを諦めている恭子は、真っ赤な天井に視線を向け続けている。近付いてくる足音を認識しながらも、もう涙さえ出ないその瞳は、宗二を見ようとはしなかった。

「…利けないんだね?じゃあ、そんな口はいらないかな?」

 真っ赤な天井を見詰める恭子の瞳に、きらりと光るナイフが映り込んだ。

「…え?」

 生きる事を諦めた恭子だが、殺されるとは思っていなかったようだ。
 ナイフに視線を向けた。そして辿った。行き着いたレインコートに包まれた宗二の不気味な笑顔を見た恭子が悲鳴を上げた。

「そう、そう、そう、そう、そう!そう!そう!そう!」

 何度も頷きながら、自分の理想のシチュエーションになった事を宗二は目を輝かせて喜んでいる。

「や、や、止めて」

 目の前にあるナイフ。顔をいやいやと振る恭子の瞳は、涙で滲んでいる。

「え?止めるって何を?ちゃんと何を止めて欲しいのか言ってくれないと、分からないよ」

 肩を揺らしながらノリノリで喋る宗二は、実に嬉しそうだ。

「た、た、助けてください」

 恭子は懇願した。その目は、いつ向かって来るか分からないナイフの切っ先に向けられている。

「助けて?助けてって、まるで今から恭子ちゃんに何かするみたいじゃないか」

 宗二はにへにへと笑い、指揮者のようにナイフを揺らしている。

「ねぇ、恭子ちゃん。何でカッパ着てるか分かる?」

 宗二が嬉しそうに言った。

「や、止めてください…た、助けてください」

 会話が出来るような状態ではない恭子は、自分の思いを伝えるのに必死だ。

「恭子ちゃんは、何で返事が出来ないのかな?そんな口はいらないね」

 そう言った宗二は「にへ!」っと奇声を上げ、ナイフを振り払った。
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