殺しの美学

村上未来

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現実

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「…食べて」

 感覚を確かめながら、容器を優しく握っていく。そして、ほんの少量出したところで、握りを止めた。
 恭子は口に異物が入り、更に苦しそうな表情を浮かべたが、吐き出すまでの力はないようだ。
 栄養素を含んだそれを、弱々しく動く喉が奥へと流し込んでいる。それは、苦しさのあまり動いた喉がそうしているのか、生きたいと望む本能がそうしているのかは分からない。ただ、はっきりと分かるのは、確かにそれは恭子の体の奥へと流れている。
 大輝はその行為が、気管や肺に入るような危険なものだとは認識していない。ただ、ひたすらに生きて欲しいと望む思いで、ゼリーを口の中にゆっくりと入れている。
 それからも大輝は、決められた食事の時間以外は、ずっと恭子の側に居た。
 大輝は恭子の口に栄養を注ぎ続けた。しかし、恭子は未だ意識が戻っていない。
 食事の為に、地下から階段を登り、宗二の寝室に入った。宗二と顔を合わせた。宗二は何も言ってこない。もう恭子には興味がないようだ。
 共に向かい食事の席に着いた。宗二と大輝の間には、一切の会話はない。いや、誰も声を発していない。葬式のように静まる食卓で、宗二は玲那を見ている。その目は我が子に向けるような視線ではない。野獣と化した男が、裸の女に向けるよいな、ぎらついた目だ。
 その視線から逃れるように、玲那は俯いたまま食事をしていた。

 恭子がこの家に来て、八日目が過ぎた。
 学校のブレザーを着ている大輝は、いつものように秀子に見送られている。玄関から家を出た大輝は、物陰に隠れた。
 秀子が家に入った。それを確認すると、大輝はいつものように裏口から家の中に入った。
 廊下に、秀子の姿はない。音を立てないように廊下を歩いていた大輝は足を止めた。
 目の前にはドアがある。宗二の寝室だ。音が響かないように、静かにドアをノックした。中から、気怠そうに返事をする宗二の声が聞こえた。
 ドアを開けた大輝は、寝室に入った。
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