殺しの美学

村上未来

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 両手に抱えきれない程のお菓子と飲み物を持ってきた大輝は、それを寝そべる恭子の前に静かに置いた。

「はい、恭子ちゃんいっぱい食べてね」

 しかし、恭子からの返事はない。それは幻聴が聞こえている大輝も同じだった。

「どうしたの?食べないの?」

 幻覚の中の恭子は、笑顔を浮かべたまま一向に食べようとしない。大輝は首をちょこんと傾げた。

「え?食べたくないの?じゃあ、ここに置いておくから、いつでも食べてね…飲み物を飲ませて欲しいの?恭子ちゃんは甘えん坊なんだね」

 胡坐をかいた太ももに、恭子の頭を載せた大輝は、ペットボトルのオレンジジュースのキャプを開けると、軽く開かれた恭子の口にゆっくりと注ぎ込んだ。

「げほっ」

 弱々しくむせ返す恭子の喉の奥に、ゆっくりとジュースが入っている。

「美味しい?…良かった」

 絶対に死なせてはならないと脳に刻まれている大輝には、むせ返す恭子の姿は違うように見えているようだ。
 ゆっくりと強引に注ぎ込まれていたオレンジジュースが空になった。

「美味しかったね」

 大輝は空になったペットボトルを静かに床に置いた。空になった手。その空になった手が、すっかりぼろぼろになった恭子の髪に触れた。

「恭子ちゃん、いつか遊園地に行こうね。それに動物園も行きたい…え?恭子ちゃんは、映画館に行きたいの?何を見たいの?…うん、絶対に見ようね」

 優しく髪を撫でながら、幻覚が作り上げる恭子と語り合う大輝は、この上無く幸せな表情をしている。
 髪を撫でられている恭子は、生死の境を彷徨っている。無意識の中、至る穴から排泄物を垂れ流し始めている。室内に鼻を被いたくなる程の嫌な匂いが充満し始めた。しかし、幻の恭子と語り合う大輝の嗅覚もまた、現実とは違う匂いを嗅いでいるようだ。大輝はその匂いに気付いていない。
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