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悲しみの色と欲望の眼差し
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愛する者が、か細い声で自分の名を呼んでいる。砕ける程に奥歯を噛み締めた。体の一部は抗っている。しかし、抗いきれずに支配された心が、指先を動かし続けている。
指先が辿り着いた。握り締めれば折れてしまいそうな程に華奢な腕。震えているのが分かる。大輝は恭子の手首を掴んだ。
恭子の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。激しく抵抗している感触が伝わってくる。
大輝は目を開けた。恭子は泣き叫びながら自分を見ている。だが、大輝はその手首を離そうとはしなかった。
嫌がる恭子を引き摺るようにして、本棚の方へと歩を進めた。隠し扉は開いていた。宗二が開けたのだろう。大輝は地下室へと続く階段がある壁を通り過ぎて行った。
恭子は半ば諦めたのかもしれない。大輝の手を激しく振りほどこうとしなくなった。恭子は涙で溺れる瞳で、地下室へと続くどんよりとした薄暗い階段を見ている。
大輝は恭子の手首を掴んだまま階段を降り始めた。恭子は抵抗する事なく、手を引かれるままに、後に続いている。
階段を降りきった。廊下が続いている。その先にあるのが、幼き日に閉じ込められていた、忌まわしいあの部屋だ。
「…離して…離してください」
恭子の声だ。その声は聞こえている。だが、大輝は腕を離さなかった。
部屋の前にきた。大輝はドアノブを握ると、ゆっくりドアを開けた。
地下室にある電気の点いていない部屋。廊下から零れる光が唯一の光源である。大輝は掴む恭子の手を引き、部屋に入った。
恭子は強く手を引かれた。そして直ぐに暗くなった。大輝がドアを閉めたのだろう。
ドアの隙間から光は零れているものの、部屋は暗闇に包まれている。そこで漸く大輝は掴んでいる手の先の人物へと視線を向けた。
「…帰してください」
震えているのは声だけではない。手首を掴んでいる大輝に伝わる程、恭子は震えている。
大輝は返事をしなかった。その代わり、掴んでいる手を離した。
指先が辿り着いた。握り締めれば折れてしまいそうな程に華奢な腕。震えているのが分かる。大輝は恭子の手首を掴んだ。
恭子の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。激しく抵抗している感触が伝わってくる。
大輝は目を開けた。恭子は泣き叫びながら自分を見ている。だが、大輝はその手首を離そうとはしなかった。
嫌がる恭子を引き摺るようにして、本棚の方へと歩を進めた。隠し扉は開いていた。宗二が開けたのだろう。大輝は地下室へと続く階段がある壁を通り過ぎて行った。
恭子は半ば諦めたのかもしれない。大輝の手を激しく振りほどこうとしなくなった。恭子は涙で溺れる瞳で、地下室へと続くどんよりとした薄暗い階段を見ている。
大輝は恭子の手首を掴んだまま階段を降り始めた。恭子は抵抗する事なく、手を引かれるままに、後に続いている。
階段を降りきった。廊下が続いている。その先にあるのが、幼き日に閉じ込められていた、忌まわしいあの部屋だ。
「…離して…離してください」
恭子の声だ。その声は聞こえている。だが、大輝は腕を離さなかった。
部屋の前にきた。大輝はドアノブを握ると、ゆっくりドアを開けた。
地下室にある電気の点いていない部屋。廊下から零れる光が唯一の光源である。大輝は掴む恭子の手を引き、部屋に入った。
恭子は強く手を引かれた。そして直ぐに暗くなった。大輝がドアを閉めたのだろう。
ドアの隙間から光は零れているものの、部屋は暗闇に包まれている。そこで漸く大輝は掴んでいる手の先の人物へと視線を向けた。
「…帰してください」
震えているのは声だけではない。手首を掴んでいる大輝に伝わる程、恭子は震えている。
大輝は返事をしなかった。その代わり、掴んでいる手を離した。
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