殺しの美学

村上未来

文字の大きさ
上 下
296 / 398
悲しみの色と欲望の眼差し

9

しおりを挟む
 愛する者が、か細い声で自分の名を呼んでいる。砕ける程に奥歯を噛み締めた。体の一部は抗っている。しかし、抗いきれずに支配された心が、指先を動かし続けている。
 指先が辿り着いた。握り締めれば折れてしまいそうな程に華奢な腕。震えているのが分かる。大輝は恭子の手首を掴んだ。
 恭子の泣き叫ぶ声が聞こえてくる。激しく抵抗している感触が伝わってくる。
 大輝は目を開けた。恭子は泣き叫びながら自分を見ている。だが、大輝はその手首を離そうとはしなかった。
 嫌がる恭子を引き摺るようにして、本棚の方へと歩を進めた。隠し扉は開いていた。宗二が開けたのだろう。大輝は地下室へと続く階段がある壁を通り過ぎて行った。
 恭子は半ば諦めたのかもしれない。大輝の手を激しく振りほどこうとしなくなった。恭子は涙で溺れる瞳で、地下室へと続くどんよりとした薄暗い階段を見ている。
 大輝は恭子の手首を掴んだまま階段を降り始めた。恭子は抵抗する事なく、手を引かれるままに、後に続いている。
 階段を降りきった。廊下が続いている。その先にあるのが、幼き日に閉じ込められていた、忌まわしいあの部屋だ。

「…離して…離してください」

 恭子の声だ。その声は聞こえている。だが、大輝は腕を離さなかった。
 部屋の前にきた。大輝はドアノブを握ると、ゆっくりドアを開けた。
 地下室にある電気の点いていない部屋。廊下から零れる光が唯一の光源である。大輝は掴む恭子の手を引き、部屋に入った。
 恭子は強く手を引かれた。そして直ぐに暗くなった。大輝がドアを閉めたのだろう。
 ドアの隙間から光は零れているものの、部屋は暗闇に包まれている。そこで漸く大輝は掴んでいる手の先の人物へと視線を向けた。

「…帰してください」

 震えているのは声だけではない。手首を掴んでいる大輝に伝わる程、恭子は震えている。
 大輝は返事をしなかった。その代わり、掴んでいる手を離した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

彼女は処女じゃなかった

かめのこたろう
現代文学
ああああ

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...