殺しの美学

村上未来

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生け贄

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「…えっ?…どういう意味?」

 女は目の前に差し出された、くしゃくしゃの紙幣を見詰め、益々顔を顰めた。

「…これをあげます、付いて来てください」

 握り締めた紙幣を女の前に突き出しながら、大輝は再び頭を深々と下げた。

「…何なの?…いらないから、どっかいけよ」

 その必死な態度に恐怖心が湧き上がる中、女は目の前に突き出されている紙幣を握る大輝の手を押し退けた。

「お願いします」

 女の手首を握り締めた大輝の手から、しわくちゃの紙幣が舞い落ちた。
 むんずと掴まれた手首から広がる悪寒。女はなりふり構わず首を嫌々と激しく振ると、叫び声を上げた。
 女の甲高い声が、辺りに響き渡っている。気付けば大輝は、大人の男達に囲まれていた。周りにいた通行人だろう。大輝は男達の手により、女から引き離された。
 二時間後。水川家に一本の電話が入った。受話器を取ったのは玲奈だ。電話の相手は警察と名乗った。玲奈は心配しながらも、警察が要求する宗二へと電話を繋いだ。
 玲奈が不安なまま過ごしていると、部屋に宗二からの内線電話が掛かってきた。

「出掛けるから、服を着替えるのを手伝ってくれ」

 家政婦の秀子は今日は休みだ。だから、宗二は玲奈に頼んだのだ。

「…うん」

 玲奈は返事をすると、直ぐに宗二の寝室へと向かった。
 服を着るのを手伝う中、玲奈は聞けずにいた。
 警察からの電話の後に出掛ける。玲奈は宗二が警察に行くと思っている。そして今、家に大輝はいない。秀子が休みの時に大輝が家を開ける事は、今まで殆どなかった。玲奈の不安は大きくなった。
 玲奈が何も聞けないまま、宗二の着替えが終わった。そのタイミングで、チャイムの音が聞こえてきた。

「運転代行だ。玲奈、玄関に連れて行ってくれ」

 宗二が乗る車椅子を押し、玲奈は玄関に向かった。玲奈が玄関のドアを開けると、見た事のある顔がそこにあった。馴染みの運転代行の男だ。

「玲奈、留守番頼むぞ」

 宗二はそう言い残し、運転代行の男と共に警察署に向かった。
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