殺しの美学

村上未来

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 窓辺から差し込む光が、永遠に眠る鈴の寝顔を照らしている。神々しい光景。伊織の目には、そう映っている。
 怒りの烈火に包まれていた感情。それはいつしか、歓喜なものに変わっていた。
 腕を食い千切られた姿は、ミロのビーナスのように美しい。いや、比較できない程に美しいと思っている。
 伊織は言葉を失くし、涙を流しながら光に包まれる鈴をずっと見詰めた。
 それから二時間。微動だにしなかった伊織の瞳がぴくりと動いた。

「…始めろ」

 伊織がぼそりと呟いた後、後ろで物音がした。
 後ろへ下がり、視線を物音がした方へと向けた。そこにはマスクをした四十代後半程の男がいた。手には茶色鞄をぶら下げている。男の足はベッドに近付いている。
 この男は長野県のとある村から催眠術を掛けて連れてきた。深い催眠術が掛かっているのか、男は逃げる様子はない。
 男は魚類や動物の剥製を作る事を生業としている。
 伊織は鈴を剥製にし、永遠に美しい姿を残そうと、この剥製師を連れ来ていたのだ。

「どれ位で、完成するんだ?」

 伊織が尋ねた。

「人間なんてやった事がないから分からないが、半年ぐらいは掛かるんじゃないかな?」

 催眠状態ではあるが、剥製師は流暢な受け答えをしている。

「それは、休み休みやってだな?」

「あぁ」

 何を言いたいか分かったようだ。剥製師は顰めっ面をし、今にも舌打ちしそうな勢いで答えた。

「なら、不眠不休で早く終わらせろ」

「あぁ」

 伊織には逆らえない催眠術が掛けられているのか、剥製師は眉間に深い皺を刻みながら、静かに頷いた。
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