殺しの美学

村上未来

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「私は死んでおらぬぞ?」

「…茜ちゃん、何で死んじゃったの?僕…淋しいよ」

 声は聞こえている。夢山は理解できていないだけだ。

「榊原茜の事か?うむ、確かに榊原茜は死んだな」

 スマホを耳に当てながら、美玲はうんうんと頷いた。

「…茜ちゃんは誰に殺されたの?…僕、絶対そいつを地獄に落としてあげるからね」

「榊原茜を殺したのは、私だぞ」

 理解できなかった。しかし、夢山の脳にその言葉が広がった。

「…茜ちゃんが、茜ちゃんを殺したの?」

「榊原茜が榊原茜を殺したのではない。私が榊原茜を殺したのだ」

「…茜ちゃん、私って誰?」

 ちぐはぐだった会話が、会話らしい会話になっている。

「私か?私は園山美玲だ」

 壊れた心が、徐々に修復されていく。
 大切な者を失い、廃人と化していた魂の灯火が、復讐の烈火で燃え盛り始めた。

「…お前が殺したのか?」

 怨念の籠もったような冷たい低い声が、周りの空気を震わせている。

「うむ」

 電話の向こうで美玲は、こくりと頷いた。

「何で殺した?」

 虚ろだったその瞳が、獣を狩る野獣のような目付きに変わった。

「私は誰でも殺していいと榊原茜が言ったのだ。故に私は榊原茜を殺した」

「今、何処にいる?」

「千葉県の館山にいる」

 ベッドから立ち上がった夢山は、大きく口を開けた。

「殺してやるから、待ってろおぉぉぉ!」

 力強く握り締めたスマホが、砕ける音を立てながらへし曲がった。

「私を殺すのか。だが、私は母親になった。幼い子供を残し死ぬ訳にはいかぬの…切れてしまったか」

 通話終了を知らせる冷たいメロディーが流れるスマホを美玲は耳から離した。

「電源は切って置いた方がよいな」

 こくりと頷くと、美玲はスマホの電源を落とした。
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