殺しの美学

村上未来

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 持ち主と同じように、スマホは光を失っている。夢山は茜の手を握るように、スマホを握り締めた。
 意図した事ではない。夢山の指が電源ボタンを押し続けている。
 画面に淡い光が灯った。あの日、茜が切った電源が、夢山の手により偶然入れられた。

「…茜ちゃん」

 呟いた。
 虚ろな顔で立ち上がる画面を見詰めている。
 ロックは掛かっていなかった。ロックを掛けるような性格ではなかった。
 ホーム画面に切り替わった。待ち受け画面には、美玲の顔が映し出されている。待ち受け画面にする程、茜は美玲の事が好きだったのだろう。
 
「茜ちゃん」

 その顔が茜に見えているようだ。夢山は愛おしそうに、待ち受け画面に映る美玲の顔を優しく撫でた。
 画面の上を指先が動いている。
 またしても、意図した訳ではない。愛しそうに動く夢山の指先がスマホを操作している。
 画面は通話履歴を表示している。指先が触れた。発信中の文字を表示した。
 人間の顔でさえなくなった画面。夢山はそれを茜だと思い撫で続けている。
 スピーカーのマークに触れた。その声が幻覚を見ている夢山の耳に届いた。

「…園山美玲だ。榊原茜の携帯電話から掛けているな?誰だ?何用だ?」

 電話は美玲のスマホに繋がっている。

「茜ちゃん」

 耳に届く美玲の声が、茜の声に聞こえているようだ。

「何者だ?何用だ?」

 電話の向こうで美玲は首を傾げている。
 夢山は茜の顔を触るように指先を動かした。スピーカーのマークに触れた。通話はスピーカーモードではなくなった。
 はっきりと聞こえていた茜の声が、聞こえなくなった。

「…茜ちゃん?」

 呟いた夢山の声は震えている。
 茜の声が聞こえた気がした。気ではない。夢山は、微かに声が聞こえてきた部分を耳に当てた。
 
「…何者だ?私に何用だ?」

 スマホを耳に当てる夢山の耳に、はっきりとした声が届いた。

「…茜ちゃん」

 電話の向こうで、美玲はその声をはっきりと聞いた。

「茜?お前の名が茜なのだな。その声から察するに、茜は男のようだな。何故、榊原茜の携帯電話から掛けている?」

 心を壊した夢山は、半分も理解できなかった。

「…僕だよ…夢山だよ」

 茜と会話するように、夢山は泣きながら笑顔を浮かべた。

「夢山?神宮夢山か?」

「…そうだよ。夢山だよ…何で死んじゃったの?…僕会いたいよ」
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