殺しの美学

ペコ

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「警察の発表では、水川玲那さんは二十代前半らしき女性と一緒に居る可能性が高いそうです。事件の情報や、大輝君、玲那さんの情報をお持ちの方は、こちらまでお電話ください」

　辛辣な表情のニュースキャスターの言葉に合わせ、電話番号のテロップが流れた。その後ニュースキャスターは、暫く事件の情報を伝えると、次のニュースの原稿を読み始めた。
　結局番組内では、世に出回っているペコと手を繋ぐ女性の写真が映される事はなかった。その女性は美玲である。しかし、美玲は写真が出回っている事を知らない。
　恭子の事にも触れなかった。警察がまだ、マスコミにその情報を明かしていないのかもしれない。

「ペコの産みの親は、水川宗二というのか。兄も居るのだな。ペコの産みの親は殺された。その事をペコは知らない可能性がある。この事はペコに知らせた方がよいのか？」

　美玲は呟きながら、首を何度も傾げた。しかし、なかなか答えは出なかった。
　ニュース番組は既に終わり、テレビの画面は芸人がラーメンを食べる姿を映しだしている。
　美玲はテレビを消すと、布団の中に潜り込んだ。隣の布団では、ペコがすやすやと眠っている。眠気が伝わってきたかのように、美玲は睡魔に襲われた。
　美玲のまぶたがゆっくりと閉じていく。意識は睡眠の世界へと誘われる中、頭は答えを導き出そうと動いている。
　それから数時間後。窓辺の障子が太陽の光に照らされ淡白く光り輝く中、美玲の瞼がぱちりと開いた。隣を見た。ペコはまだ眠っている。

「ペコはまだ幼い。産みの親が殺された事実を知れば、トラウマになる可能性がある。うむ。知らせない方がいいだろう」

　かなりはっきりとした口調で独り言を言うと、美玲は布団から起き上がりテレビを付けた。
　画面には朝の情報番組が映し出されている。顔、スタイル共に抜群の女性アナウンサー二人が、ケーキらしきものを食べ、それぞれに感想を述べている。

「んー…あっ、ママおはよう」

　むくりと起き上がったペコは、まだ眠たいのか、トロンとした目を美玲に向けた。

「うむ。おはよう。人間というのは、睡眠時間が三時間を超えた辺りから、口の中の細菌は爆発的に増えるのだ。ペコは八時間と少し寝たな。その睡眠時間だと、ペコの口の中の細菌は、大便10グラムの量と変わらぬのだぞ。まずは一緒に歯磨きをしようではないか」