殺しの美学

村上未来

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 一人車に残った伊織は運転席のシートを倒し、ジーンズのポケットからスマホを取り出した。スマホを操作し、催眠術に関する記事を読む伊織の目玉は忙しなく動いている。速読術を会得している伊織の指先は、軽やかに画面の上を踊っている。
 時間を忘れたように読み続けていると、誰かが車の窓をノックした。ノックされたのは伊織が座る運転席側の窓だ。
 集中を切らされた。伊織は眉を寄せながら、ノックされた窓に視線を向けた。そこには窓に顔を近寄らせる無表情の大男の姿があった。
 スマホに視線を戻し、画面右上に表示されている時刻を確認すると、大男が飛び出して行ってから一時間も経っていなかった。
 眉根を寄せながら、伊織は運転席のドアを開けた。

「ゴン!」

 窓ガラスに顔を強打したにも関わらず、大男は表情を変える事なく微動だにしていない。

「…退け」

 怒りを通り越し、呆れに近い感情を抱きながら、伊織は手の甲を見せ手首を振った。
 大男は屈み込んだ姿勢のまま後ろに跳ね飛ぶと、二メートル程後ろで規律正しく背筋を伸ばした。
 ドアを開け車から降りた伊織の視界に、大男の少し後ろで立っている、青色のジーンズにピンクの花柄のパーカーを着た茶髪の若い女が映り込んだ。

「こんばんはー」

 そう言った女は、へらへらと笑っている。

「…こんばんは、はじめまして。今日はよろしくお願いします」

 伊織はにこっと微笑むと、柔らかな口調で返した。

「…お兄さん、かなりのイケメンですね」

 伊織の笑顔に心奪われていた女は、蕩けてしまいそうな勢いで目を潤ませている。

「ありがとうございます。場所を移動するので、車に乗ってください」

 優しい目をした伊織は、女から微動だにしない大男に視線を変えた。

「おい、行くよ。車に乗って」

 物腰柔らかく放った伊織の言葉が、大男の耳に届いた瞬間、忍者のように颯爽と伊織の前を駆け抜け、大男は後部座席に飛び乗った。
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