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進化
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「…てか、ほんとここ何処だ?何しに来たんだっけ?」
大男の問いに、伊織は眉を寄せた。
「…ドライブだ」
「…俺の愛車で来たのか?…でも、もう帰ろうぜ…何だかここ薄気味悪いからさ…ほんと何し」
「黙って目を閉じろ」
その言葉で伊織は大男の言葉を遮った。
言葉の途中で止められた大男は、口を開いたまま直ぐに目を閉じた。
大男は疑い深くはない。大男の性格を知らない伊織はそう感じた。
「お前は薬品会社の社員だ。仕事は臨床試験の被験者を集める事。お前は性格が明るく口が達者だ。お前は仕事に誇りを持っている。お前は俺を心の底から信頼している。俺が発する言葉を疑う事はない…目を開けろ」
大男は目をぱちりと開けると、伊織に笑顔を向けた。
伊織が直ぐに言葉を口にした。
「催眠術って知ってるか?」
「えっ?催眠術ぐらい知ってるよ。人を操ったりするやつだろ?」
大男は楽しそうに答えた。
大男は催眠術という言葉に普通の反応を示した。先程伊織は、催眠術に掛かっていた事を忘れる暗示を掛けた。掛かっていた事とは過去形だ。その暗示を掛けた後、黙って目を閉じさせる暗示を掛けている。その暗示を掛けられた事を忘れる暗示は掛けていない。
大男の反応を見て分かった。大男は言葉通りではなく、自分の頭で解釈し、暗示に掛かっているようだ。
「…行くぞ」
伊織は大男に背を向けると、歩き出した。
「何処行くんだ?」
「付いて来い」
「はーい」
朗らかに返事をした大男は、その巨体を揺らしスキップをしている。その姿は実に嬉しそうだ。それが大男が自分で作り出した明るい性格なのだろう。
「ここ山の中か?」
大男は辺りを見回し、上機嫌で伊織の背中に問い掛けた。
「あぁ、そうだ」
伊織は深く息を吐いた。
伊織は自己催眠を掛け、怒りをコントロールしようとしている。催眠術を完全にマスターするには、自分の感情をコントロールできた方が有利に決まっている。伊織はそう考えた。その為に敢えて、大男に友人関係になる暗示を掛けたのだ。普段の伊織なら、大男のような男に馴れ馴れしい言葉を使われたら、間違いなく罵声を浴びせていただろう。今は罵声を浴びせてはいないが、まだ感情を上手くコントロールできていないようだ。
「何で俺、こんな所にドライブに来たんだろう?…まっ、いっか」
細かい事を気にしない性格を産み出したようだ。大男は辺りを見ながら、鼻歌を唄いだした。
「ふーんふふふーん、ふーふふーん…ん?なんか顔がベタベタするな?」
大男は先程のおぞましい食事で汚した顔を手の平で拭うと、鼻歌を再開させた。
大男の問いに、伊織は眉を寄せた。
「…ドライブだ」
「…俺の愛車で来たのか?…でも、もう帰ろうぜ…何だかここ薄気味悪いからさ…ほんと何し」
「黙って目を閉じろ」
その言葉で伊織は大男の言葉を遮った。
言葉の途中で止められた大男は、口を開いたまま直ぐに目を閉じた。
大男は疑い深くはない。大男の性格を知らない伊織はそう感じた。
「お前は薬品会社の社員だ。仕事は臨床試験の被験者を集める事。お前は性格が明るく口が達者だ。お前は仕事に誇りを持っている。お前は俺を心の底から信頼している。俺が発する言葉を疑う事はない…目を開けろ」
大男は目をぱちりと開けると、伊織に笑顔を向けた。
伊織が直ぐに言葉を口にした。
「催眠術って知ってるか?」
「えっ?催眠術ぐらい知ってるよ。人を操ったりするやつだろ?」
大男は楽しそうに答えた。
大男は催眠術という言葉に普通の反応を示した。先程伊織は、催眠術に掛かっていた事を忘れる暗示を掛けた。掛かっていた事とは過去形だ。その暗示を掛けた後、黙って目を閉じさせる暗示を掛けている。その暗示を掛けられた事を忘れる暗示は掛けていない。
大男の反応を見て分かった。大男は言葉通りではなく、自分の頭で解釈し、暗示に掛かっているようだ。
「…行くぞ」
伊織は大男に背を向けると、歩き出した。
「何処行くんだ?」
「付いて来い」
「はーい」
朗らかに返事をした大男は、その巨体を揺らしスキップをしている。その姿は実に嬉しそうだ。それが大男が自分で作り出した明るい性格なのだろう。
「ここ山の中か?」
大男は辺りを見回し、上機嫌で伊織の背中に問い掛けた。
「あぁ、そうだ」
伊織は深く息を吐いた。
伊織は自己催眠を掛け、怒りをコントロールしようとしている。催眠術を完全にマスターするには、自分の感情をコントロールできた方が有利に決まっている。伊織はそう考えた。その為に敢えて、大男に友人関係になる暗示を掛けたのだ。普段の伊織なら、大男のような男に馴れ馴れしい言葉を使われたら、間違いなく罵声を浴びせていただろう。今は罵声を浴びせてはいないが、まだ感情を上手くコントロールできていないようだ。
「何で俺、こんな所にドライブに来たんだろう?…まっ、いっか」
細かい事を気にしない性格を産み出したようだ。大男は辺りを見ながら、鼻歌を唄いだした。
「ふーんふふふーん、ふーふふーん…ん?なんか顔がベタベタするな?」
大男は先程のおぞましい食事で汚した顔を手の平で拭うと、鼻歌を再開させた。
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