殺しの美学

村上未来

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進化

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「…分かりました」

 花蓮は初めて間近で見る札束に一瞬驚いたものの、直ぐに彼女らしい笑顔を取り戻した。
 伊織はその包まれるような笑顔を見る事なく直ぐに振り返ると、ドアに向け足を動かした。
 部屋を出た伊織はエレベーターに乗った。向かった先はフロントだ。先程の中年フロントマンにチェックアウトする旨を伝えた。

「…先程は失礼致しました…こちら料金のお釣りになります」

 ただただ畏まる中年フロントマンに無言で答えた伊織は、お釣りを受け取る事無く、入口に向け歩を進めた。背中に呼び掛ける中年フロントマンの耳障りな声を無視し、真っ直ぐ入口に向かうその顔は、どこか嬉しそうだ。
 自動ドアを潜りホテルから出た伊織は、駐車場に停めた車に乗り込み、当初の目的地だった場所へ向け車を走らせた。
 ホテルを出てからおおよそ一時間後、ガムテープで口を塞がれ、木に縛られている大男の前で伊織は佇んでいた。
 大男は目を見開いている。その奥の眼球は人形のように微動だにしていない。
 伊織は人差し指と中指を突き立て、その眼球に向け、ゆっくりと近付けた。大男は瞬き一つせず、伊織の二本の指先を眼球で受け止めた。
 伊織は指先を大男の眼球から離すと、ジーパンのポケットにその指先を忍ばせた。
 ポケットに眠らせた折りたたみ式のナイフをつまみ上げると、その切っ先を大男の目に近付けていく。切っ先が眼球に当たるギリギリでナイフの動きが止まった。人形のような大男の表情は、何の変化もない。
 伊織はナイフを降ろすと、木の後ろに回り込んだ。大男を縛り付けているロープの結び目を解くとその先端を持ち、木の周りを回った。
 大男の体からロープが外れた。大男はそれでも動こうとはしていない。

「ガムテープを口から外せ」

 大男の指先が瞬時に動いた。自らぐるぐる巻きにした口を覆うガムテープの束を、力尽くで顔から引き離した。
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