殺しの美学

残酷な音

5

「うむ、学習した」

「あいつが刺された時どう思った？」

「うむ、刺されたと思ったぞ」

　美玲は至極当たり前の事を述べた。

「それだけ？」

　茜は頬を膨らませた。

「血が出ていると思ったぞ」

「ふふふ、そうだね。血が出てたね。でも太い血管は避けて刺したから、あれぐらいじゃ死なないよ。たっぷり時間を掛けて殺してあげるんだから」

　茜は会話の内容には似つかわしくない笑顔を浮かべている。
　駅に着いた二人は電車に乗った。
　電車の中で茜は、今回の誘拐に関する内容は避け、ありきたりな女子の会話に花を咲かせた。
　笑顔を絶やさないまま電車を降りた茜は、美玲のマンションに戻った。勿論、美玲も一緒だ。
　時刻は十二時少し前、二人は近所にあるデリバリー専門のピザ屋からLサイズのマルゲリータピザとドリンクを数本注文すると、食事を始めた。

「このピザ美味しいね」

　届けたての湯気が上がるピザにかぶりついた茜は、ご満悦な様子だ。

「…榊原茜、これはピザではない、ピッツァだ。ピッツァマルゲリータ。注文表にそう書いてあったぞ」

　熱々のピッツァをものともせず頬張り、咀嚼し終えた物を飲み込んだ美玲は、イタリアかぶれのようなこだわりの言葉を述べた。

「ふふふ、そうだね。これはピッツァだね」

　茜は幸せそうな笑顔で言葉を返した。
　その笑顔が不意に真剣なものに変わった。

「ねぇ、美玲…あいつを自分の手で殺してみたいと思わない？」

　真剣な眼差しで、茜はその言葉を吐いた。
　茜はこれ程長い時間、美玲と共に過ごした事がなかった。今まで以上に親密に過ごした時間の中で、茜は美玲をより自分の理想像に近付けたいという欲が出たのだ。