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閑話①
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今日は土曜日。
異世界旅行ツアーの営業日だ。
今日も朝から結花が事務所で掃除をしていた。
しかし元々事務所で何かするような事は少ない。
お客人が来たとしても、事務所で何かする事は殆ど無いのだ。
たまに部屋の模様替えをしたり、お茶受けを補充したりなど。
簡単に言えば暇を持て余していた。
「ねぇてんちょー。異世界ってどうなんですか?」
「なんだ藪から棒に。しかもまた大雑把な質問だな」
店長はいつものようにタバコをふかしながら新聞を読んでいる。
その目線を上げて結花の質問に答えると、快活に笑い始めた。
「だって、異世界って言われてもピンと来ないんですもん」
「ハハハ。まぁ確かにそうだな。……うーん、なんて説明すればいいかな」
店長が異世界について少し話を始めた。
この世界は地球を中心とした宇宙意外にも別の世界が存在している。
様々な世界は、様々な進化を遂げており、本来は交わることがないそうだ。
その場所にはもちろん色々な言語、色々な種族、色々な時間軸が存在する。
今の地球は一番平和で、技術力も発展しているらしい。
「ほぇー。だから来た人みんな驚いているんですね」
「そうだな。ただ、向こうの世界では魔法が発達しているぞ」
「魔法ーー!」
魔法。ファンタジーの世界や小説、漫画などでしか見られないもの。
魔法を発動するのに長い呪文を唱えたりとか、体内や体外の魔力を使って行使する。
店長は魔法を使えるらしく、結花もお世話になっている。
「魔法いいなぁ……私も使えませんかね?」
「うーん。使えると思うぞ?」
「ほ、本当ですか!?」
結花の目が輝く。
小さい頃はアニメの影響でマジックステッキなどを買ってもらった。
自分は魔法少女になれると本気で思い込み、よく呪文の練習をしたものだ。
それが今、本当に魔法を使えるようにーー
「あぁ。その代わり異世界でいつなくなるかわからない命を大事にしながらーー」
「はい、結構です。平和がいいです」
その夢は一瞬にして崩れ落ちた。
誰だって魔法は使ってみたいだろう。
しかし平穏な生活を捨ててまで魔法を使いたいか?
答えはNOだ。
「ま、それが懸命だな。世界には魔王や勇者も存在しているぞ」
「ほぇー。勇者とか魔王とか……血と血で争う恐ろしい戦いがーー」
「いや、仲良しだ」
「は?」
どうやら結花の常識は異世界では通用しないらしい。
それ以外にも店長はいろんな話をしてくれた。
今まで来たお客さんの中には同じ世界の人間もいるが、別世界の人間もいるらしい。
その勇者と魔王は今何でも屋兼旅行ツアーの案内役で世界を飛び回っている。
異世界の中には、まだまだ危険な世界も数多くあるそうだ。
店長も平日は異世界に行くことが多いらしい。
そして色々と管理する部分や治す場所などもあり、平日から忙しくしているそうだ。
結花は少し想像できなかったが、店長の遠い目を見て忙しさは納得できた。
「それじゃ土日まで仕事してて辛くないですか!?」
「んー、これは趣味みたいなもんだからな。それに結花もいるから楽しいよ」
ニッコリとした店長の笑顔に思わず胸がドキっとする結花。
友人として、バイトとしてとはわかっていても、急にそのセリフを言われるのには慣れていない。
当の本人は結花に気付いていないのか、他にも色々と話をしている。
「むぅ……。私が異世界に行ったらどうなりますか?」
「うん? まぁ……よくて2日で食われるな」
「はい、絶対に行きません!!」
2人の間に楽しそうな笑い声が弾けている。
今日の代理店にお客さん来なかった。
しかし結花と店長は時間が経つのを忘れるほど話に夢中になっていた。
楽しい思い出と個性的なお客さん。
明日からまた結花も頑張れる。
「よし、明日も頑張るぞー!」
結花は1人、帰路で右手を天に突き上げた。
異世界旅行ツアーの営業日だ。
今日も朝から結花が事務所で掃除をしていた。
しかし元々事務所で何かするような事は少ない。
お客人が来たとしても、事務所で何かする事は殆ど無いのだ。
たまに部屋の模様替えをしたり、お茶受けを補充したりなど。
簡単に言えば暇を持て余していた。
「ねぇてんちょー。異世界ってどうなんですか?」
「なんだ藪から棒に。しかもまた大雑把な質問だな」
店長はいつものようにタバコをふかしながら新聞を読んでいる。
その目線を上げて結花の質問に答えると、快活に笑い始めた。
「だって、異世界って言われてもピンと来ないんですもん」
「ハハハ。まぁ確かにそうだな。……うーん、なんて説明すればいいかな」
店長が異世界について少し話を始めた。
この世界は地球を中心とした宇宙意外にも別の世界が存在している。
様々な世界は、様々な進化を遂げており、本来は交わることがないそうだ。
その場所にはもちろん色々な言語、色々な種族、色々な時間軸が存在する。
今の地球は一番平和で、技術力も発展しているらしい。
「ほぇー。だから来た人みんな驚いているんですね」
「そうだな。ただ、向こうの世界では魔法が発達しているぞ」
「魔法ーー!」
魔法。ファンタジーの世界や小説、漫画などでしか見られないもの。
魔法を発動するのに長い呪文を唱えたりとか、体内や体外の魔力を使って行使する。
店長は魔法を使えるらしく、結花もお世話になっている。
「魔法いいなぁ……私も使えませんかね?」
「うーん。使えると思うぞ?」
「ほ、本当ですか!?」
結花の目が輝く。
小さい頃はアニメの影響でマジックステッキなどを買ってもらった。
自分は魔法少女になれると本気で思い込み、よく呪文の練習をしたものだ。
それが今、本当に魔法を使えるようにーー
「あぁ。その代わり異世界でいつなくなるかわからない命を大事にしながらーー」
「はい、結構です。平和がいいです」
その夢は一瞬にして崩れ落ちた。
誰だって魔法は使ってみたいだろう。
しかし平穏な生活を捨ててまで魔法を使いたいか?
答えはNOだ。
「ま、それが懸命だな。世界には魔王や勇者も存在しているぞ」
「ほぇー。勇者とか魔王とか……血と血で争う恐ろしい戦いがーー」
「いや、仲良しだ」
「は?」
どうやら結花の常識は異世界では通用しないらしい。
それ以外にも店長はいろんな話をしてくれた。
今まで来たお客さんの中には同じ世界の人間もいるが、別世界の人間もいるらしい。
その勇者と魔王は今何でも屋兼旅行ツアーの案内役で世界を飛び回っている。
異世界の中には、まだまだ危険な世界も数多くあるそうだ。
店長も平日は異世界に行くことが多いらしい。
そして色々と管理する部分や治す場所などもあり、平日から忙しくしているそうだ。
結花は少し想像できなかったが、店長の遠い目を見て忙しさは納得できた。
「それじゃ土日まで仕事してて辛くないですか!?」
「んー、これは趣味みたいなもんだからな。それに結花もいるから楽しいよ」
ニッコリとした店長の笑顔に思わず胸がドキっとする結花。
友人として、バイトとしてとはわかっていても、急にそのセリフを言われるのには慣れていない。
当の本人は結花に気付いていないのか、他にも色々と話をしている。
「むぅ……。私が異世界に行ったらどうなりますか?」
「うん? まぁ……よくて2日で食われるな」
「はい、絶対に行きません!!」
2人の間に楽しそうな笑い声が弾けている。
今日の代理店にお客さん来なかった。
しかし結花と店長は時間が経つのを忘れるほど話に夢中になっていた。
楽しい思い出と個性的なお客さん。
明日からまた結花も頑張れる。
「よし、明日も頑張るぞー!」
結花は1人、帰路で右手を天に突き上げた。
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