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森を出て世界へ
31:街
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次の日の朝、俺たちは村を後にし目的地へと出発した。この村から街まではそこそこ近いらしく、昼飯を食った後も走り続け、夕方前には街の城壁が見えてきた。やはり領主がいるからなのか、だいぶ大きな街に見える。
街の入り口には冒険者や商人などが列を成しており、入るのにも時間がかかりそうだ。
「大丈夫だ。私達はすぐに入れる」
俺の表情から読み取ったのか、ヘイムリアが口を開く。近くまで到着すると、列を横目に入り口の門まで馬を走らせた。俺たちも着いていくと、ヘイムリアが一人で門番まで出向いていき、すぐに手招きされる。
さすが街の騎士団だ。顔パスで入れるらしい。
「ヘイムリア様、彼らは……」
「フリード様の客人だ。粗相のない様にな」
「はっ!」
そんなやり取りが聞こえてくる。別に俺らも何か悪い事をしてる訳でもないし、堂々と門を通ってやった。ブルーも俺の真似をしているのか、ない胸を張って堂々と歩いている。
だがエリィだけは少しびくつきながら、俺の袖を掴んで歩いていた。村で多少払拭されたと思ったが、ここまで人が多いと多少警戒心もあるのだろう。しかし、街の門を通って大通りに出ると、その警戒心は一発で吹き飛んだ。
「うわぁ……綺麗……!」
街で一番大きな通りには、そこかしこに人、人、人で溢れかえっている。さらにいるのは人間だけでなく、色々な種類の獣人やドワーフ、ハーフリングやエルフにダークエルフまで、多種多様な亜人もその中にいた。
もちろん一番多いのは人間族ではあるが、誰もが笑顔で街を往来している。どうやらこの街では本当に亜人差別がないらしい。
エリィもその光景を見て、自分も受け入れられると思ったのだろう。被っていたフードを取って、街並みをキョロキョロしながら眺めている。ブルーも胸を張って歩いていたのは最初だけで、エリィとは逆に人の多さにビックリして俺にしがみつきながら歩いていた。
「アーベル殿、私達は一度フリード様の屋敷に向かい到着した旨を報告して来る。街を探索しながら待っててもらえないだろうか」
「了解。とりあえず冒険者ギルドに登録したいから、その辺にいるよ」
俺たちはヘイムリアと別れると、寄り道をしながら冒険者ギルドへと向かった。途中屋台に串焼きや甘い物なども並んでいるのを見るたびに、ブルーが食いついていくので何度も立ち止まる事に。そもそもほとんどお金もないのだから、まずはギルドで今まで狩った獲物の換金からだ、とブルーを納得させる。
お金の概念すら知らなかったので、先に教えておいて本当によかった。最悪、全部食い逃げしててもおかしくなかっただろう。
歩き続けていると、すぐに冒険者ギルドが見つかった。盾に剣が2本交差する様なマークと、その上にデカデカと【冒険者ギルド】と書かれている。
中に入ると、和気藹々とした雰囲気に迎えられた。どうやら酒場が併設されているらしく、昼過ぎから酒を飲んでいい気分になっているらしい。
ここも例に漏れず亜人達が楽しそうに笑っていた。
まずは受付へと向かう。俺のタグを渡すと、受付の人が確認すると言って裏へ向かった。しかしすぐに戻って来ると、もう1年以上経過しているのでタグは失効されているらしい。
だから今回改めて登録になる事と、ランクも一番下から始めるそうだ。
「問題ないだろ」
「はい!」
「うんー」
登録用紙に名前と職業を書けと言われたので、スラスラと書いていく。この日のためにエリィから習っておいて本当によかった。
名前はそのままアーベルを採用する。まぁ本名に近いしもう呼ばれ慣れてるし違和感もないからな。エリィとブルーの分まで書いてやると次に出てくるのが職業欄だ。肉弾戦は俺は出来るとしても、エリィとブルーは微妙だな。まぁ、そもそも魔法しか使わないし『魔術師』でいいだろう。
「これで頼む」
「はい、ありがとうございます。……ん? この職業は……?」
ん? 何かミスったか……? と思ったが、やはりこの世界で人間が魔術師を名乗るのは珍しいらしい。魔法と言えば必ず前衛がいるものだが俺たちにはいないのも気になったそうだ。メンバーの紹介も出来ると言われたが、とりあえずメンバーを増やす気もないし断る。
受付から「無理だけはしないでくださいね」と念を押されたが、そんなに魔術師の地位は低いのだろうか。
その後冒険者の説明をされて受付を後にする。俺たちのランクだと3ヶ月成果がなければ剥奪されるようだ。そりゃ前のタグが失効するのも無理はないな。冒険者ギルドは全国で共通らしいし、旅をしながらちょくちょく受けていこう。
ついでに素材の買取もお願いできるか聞いてみると、別のカウンターで買取もしているそうだ。ギルドの登録も終わり、その足で買取カウンターに並ぶ。アイテムボックスから今まで狩った動物などの素材を出すとテキパキと処理される。すぐに査定結果が出て、ある程度まとまったお金が手に入った。夕飯ぐらいならなんとかなるだろう。
冒険者ギルドを出ると、1人の騎士が入り口の前で待機していた。こいつの名前は確か……
「ラウルです。ヘイムリア様から伝言と宿のご紹介を預かって参りました」
俺の表情を読んだかのように自己紹介される。宿への道で話を聞いていくと、どうやらフリードとの面会は3日後になるらしい。呼び出しておいて待たされるのもと思ったが、何やら込み入った事情もありそうなので承諾する。それに街の周辺も散策したり、修行できそうな場所も見つけたいしな。
招待された宿は街の中でもかなり大きい宿だった。『銀の雫』と書かれた看板に綺麗な建物がデンと構えている。
中に入るとこれまた綺麗な装飾を施しており、宿屋としても一流なのが伺えた。
「凄いー! 綺麗なとこ!」
「僕も初めて見たなー。人間はこんな所に寝泊まりしてるんだねー」
全ての人間がこんな豪華な宿に泊まってる訳ではないと思うが……。ラウルが受付に行くと、部屋まで案内してくれるコンシェルジュが俺たちの方にやってきた。
フロントでラウルに挨拶すると、「また3日後の朝迎えにきます」と言われて別れた。
2階の角部屋に案内されると、そこにはベットが3つと机とソファが置いてある過ごしやすそうな部屋。食事も朝は出るし、出かけてる最中にベットメイキングまでしてくれるそうだ。これはありがたい。
「ふかふかー!」
「いい匂いもしますね!」
2人がはしゃぐ様にベットへダイブする。わかるぞその気持ち。俺も久々のベットに腰をかけると、程よい硬さが尻を包み込む。これは素晴らしい……そのままベットへ倒れ込むと、俺達3人は疲れもあってそのまま寝てしまった。
◇
「お客様がお見えです」
どれくらい寝ていたのだろうか。辺りはすっかり暗くなっており、窓からは綺麗な星空がみえている。寝ぼけた頭でそんな事を考えていると、もう一度ドアをノックする音が聞こえてきた。
「今出る」
ドアを開けると、コンシェルジュが待っていた。1階のロビーで騎士団長が待っているらしく、ブルーとエリィを叩き起こしてフロントへと向かう。
階段から降りて来る俺らを見たヘイムリアが、一礼して近付いてきた。
「夕食はまだだったかな?」
「あぁ、寝てしまってね。美味い店でも紹介してくれると助かるんだが」
「ちょうど良かった。着いてきてくれ」
宿を出て雑談を交えながらヘイムリアに着いていく。ヘイムリアが率いている騎士団は、つい先程仕事が片付いたそうだ。明日も仕事なので他の騎士達は帰宅させたが、俺達と交流を深めようと食事に誘ってくれたらしい。
今から向かう場所は、食べ飲み放題な上に安くて広くて大人気の居酒屋だそうだ。その言葉を聞いた瞬間、エリィと手を繋いで半分寝ぼけていたブルーの顔つきが変わった。……全部食い尽くしそうで怖い。
結構大きい店に入っていくと、客側から厨房が見える作りになっており、目でも楽しませられるような配置をしていた。料理人は人間も亜人もいて、ここが広い種族に開かれているのが改めてわかる。
席に通され早速料理を注文すると、空の皿が渡された。どうやら前に置いてある大量の料理から食べる分だけを皿によそうシステムらしい。酒に関してだけは毎回頼まなきゃらしいが、ブルーもエリィも飯だけだろうし俺にとってはありがたい。
「取ってきますね」
「ぼくもー」
2人が席を離れ料理に目を輝かせている最中に、俺は口を開いた。
「んで? わざわざ来たってことはなんかあったんだろ?」
「さすがだな。実はな……」
ヘイムリアがフリードに面会の申し入れをした時、たまたま近くを協会の関係者が通りかかったらしい。多分その時に面会日も聞かれているだろう、と。
「とってきたー」
「ブルー、それは取りすぎじゃないかな?」
皿に山盛りのブルーに苦言を呈したエリィだが、エリィの皿も中々こんもりと料理が乗っている。俺とヘイムリアに酒も届いたので、2人の皿からつまみを拝借しつつ話を進めた。
「つまり邪魔される可能性があるってことか?」
「あぁ。もちろん私達の部隊を出して万全を期すつもりだけどな」
本当にヘイムリアは協会関係者が嫌いなのだろう。酒が進めば進むほど協会の愚痴や悪口が出てくる。俺は念のためこのテーブルから外部に話が漏れない静音魔法をかけた。どこに協会の内通者がいるかもわからんからな。
そしてブルーが何度もおかわりをしに行く。一度に取る量がおかしいのもそうだが、胃に入っていくスピードも早すぎて、厨房から阿鼻叫喚が聞こえ始めた。叫びながらも手を止めてないように見えるのは料理人のプライドだろうか。
野菜以外はほぼすっからかんになっており、他の客までもが争奪戦になっている。
「そういえばエリィ、この街はどうかな?」
愚痴だけではつまらないと思ったのか、ヘイムリアがエリィに話を振る。エリィは口に含んでいたのを慌てて飲み込むと、水を飲んで口を開いた。
「すっごい綺麗で賑やかで凄かったです! 皆さん笑顔なのでいいなーって思いました」
「そうか! それはよかった……! 面会までぜひこの街を楽しんでくれ!」
嬉しそうな顔をするヘイムリア。俺もふと周りを見回すと、料理の奪い合いは起きているものの、全員が楽しそうな笑顔を浮かべている。そこに亜人差別などは存在せず、全員がお互いを認めているような感じだ。
俺たちはそのまま、店が閉店するまで居酒屋を楽しんだ。
◇
薄明かりが照らす暗い廊下。
その奥の部屋ベットから、女性のうめき声と同時に殴る音が聞こえてくる。その音と同時にでっぷりとした男のダミ声が響き渡った。
「オラっ! 鳴け!! オラっ!」
「やぁっ! ……うぐっ! もう……あぁっ!」
その声には若干の艶やかさが乗っており、男も満足そうな笑顔を浮かべている。ベットに寝そべる裸の女の頭には獣の耳が生えており、首には怪しく光る首輪が装着されている。
男はさらに腰を振りつつ顔や腹などを殴り続けていると、ぱったりと女が動かなくなった。
「なんだ、もう壊れたか。最近壊れるのが早くていけない」
男がベットから降りると、机にある葉巻を咥える。美味そうに煙を吐き出した時に、ドアがノックされた。ドアを開けると、そこには黒尽くめの男。何かをボソボソとでっぷりした男に伝えると、そのままドアの前から消え失せた。
でっぷりした男がまた葉巻を咥えなおす。
「ふふふ、いいタイミングだ」
男の怪しい笑みと同時に、葉巻の煙が放たれた。
街の入り口には冒険者や商人などが列を成しており、入るのにも時間がかかりそうだ。
「大丈夫だ。私達はすぐに入れる」
俺の表情から読み取ったのか、ヘイムリアが口を開く。近くまで到着すると、列を横目に入り口の門まで馬を走らせた。俺たちも着いていくと、ヘイムリアが一人で門番まで出向いていき、すぐに手招きされる。
さすが街の騎士団だ。顔パスで入れるらしい。
「ヘイムリア様、彼らは……」
「フリード様の客人だ。粗相のない様にな」
「はっ!」
そんなやり取りが聞こえてくる。別に俺らも何か悪い事をしてる訳でもないし、堂々と門を通ってやった。ブルーも俺の真似をしているのか、ない胸を張って堂々と歩いている。
だがエリィだけは少しびくつきながら、俺の袖を掴んで歩いていた。村で多少払拭されたと思ったが、ここまで人が多いと多少警戒心もあるのだろう。しかし、街の門を通って大通りに出ると、その警戒心は一発で吹き飛んだ。
「うわぁ……綺麗……!」
街で一番大きな通りには、そこかしこに人、人、人で溢れかえっている。さらにいるのは人間だけでなく、色々な種類の獣人やドワーフ、ハーフリングやエルフにダークエルフまで、多種多様な亜人もその中にいた。
もちろん一番多いのは人間族ではあるが、誰もが笑顔で街を往来している。どうやらこの街では本当に亜人差別がないらしい。
エリィもその光景を見て、自分も受け入れられると思ったのだろう。被っていたフードを取って、街並みをキョロキョロしながら眺めている。ブルーも胸を張って歩いていたのは最初だけで、エリィとは逆に人の多さにビックリして俺にしがみつきながら歩いていた。
「アーベル殿、私達は一度フリード様の屋敷に向かい到着した旨を報告して来る。街を探索しながら待っててもらえないだろうか」
「了解。とりあえず冒険者ギルドに登録したいから、その辺にいるよ」
俺たちはヘイムリアと別れると、寄り道をしながら冒険者ギルドへと向かった。途中屋台に串焼きや甘い物なども並んでいるのを見るたびに、ブルーが食いついていくので何度も立ち止まる事に。そもそもほとんどお金もないのだから、まずはギルドで今まで狩った獲物の換金からだ、とブルーを納得させる。
お金の概念すら知らなかったので、先に教えておいて本当によかった。最悪、全部食い逃げしててもおかしくなかっただろう。
歩き続けていると、すぐに冒険者ギルドが見つかった。盾に剣が2本交差する様なマークと、その上にデカデカと【冒険者ギルド】と書かれている。
中に入ると、和気藹々とした雰囲気に迎えられた。どうやら酒場が併設されているらしく、昼過ぎから酒を飲んでいい気分になっているらしい。
ここも例に漏れず亜人達が楽しそうに笑っていた。
まずは受付へと向かう。俺のタグを渡すと、受付の人が確認すると言って裏へ向かった。しかしすぐに戻って来ると、もう1年以上経過しているのでタグは失効されているらしい。
だから今回改めて登録になる事と、ランクも一番下から始めるそうだ。
「問題ないだろ」
「はい!」
「うんー」
登録用紙に名前と職業を書けと言われたので、スラスラと書いていく。この日のためにエリィから習っておいて本当によかった。
名前はそのままアーベルを採用する。まぁ本名に近いしもう呼ばれ慣れてるし違和感もないからな。エリィとブルーの分まで書いてやると次に出てくるのが職業欄だ。肉弾戦は俺は出来るとしても、エリィとブルーは微妙だな。まぁ、そもそも魔法しか使わないし『魔術師』でいいだろう。
「これで頼む」
「はい、ありがとうございます。……ん? この職業は……?」
ん? 何かミスったか……? と思ったが、やはりこの世界で人間が魔術師を名乗るのは珍しいらしい。魔法と言えば必ず前衛がいるものだが俺たちにはいないのも気になったそうだ。メンバーの紹介も出来ると言われたが、とりあえずメンバーを増やす気もないし断る。
受付から「無理だけはしないでくださいね」と念を押されたが、そんなに魔術師の地位は低いのだろうか。
その後冒険者の説明をされて受付を後にする。俺たちのランクだと3ヶ月成果がなければ剥奪されるようだ。そりゃ前のタグが失効するのも無理はないな。冒険者ギルドは全国で共通らしいし、旅をしながらちょくちょく受けていこう。
ついでに素材の買取もお願いできるか聞いてみると、別のカウンターで買取もしているそうだ。ギルドの登録も終わり、その足で買取カウンターに並ぶ。アイテムボックスから今まで狩った動物などの素材を出すとテキパキと処理される。すぐに査定結果が出て、ある程度まとまったお金が手に入った。夕飯ぐらいならなんとかなるだろう。
冒険者ギルドを出ると、1人の騎士が入り口の前で待機していた。こいつの名前は確か……
「ラウルです。ヘイムリア様から伝言と宿のご紹介を預かって参りました」
俺の表情を読んだかのように自己紹介される。宿への道で話を聞いていくと、どうやらフリードとの面会は3日後になるらしい。呼び出しておいて待たされるのもと思ったが、何やら込み入った事情もありそうなので承諾する。それに街の周辺も散策したり、修行できそうな場所も見つけたいしな。
招待された宿は街の中でもかなり大きい宿だった。『銀の雫』と書かれた看板に綺麗な建物がデンと構えている。
中に入るとこれまた綺麗な装飾を施しており、宿屋としても一流なのが伺えた。
「凄いー! 綺麗なとこ!」
「僕も初めて見たなー。人間はこんな所に寝泊まりしてるんだねー」
全ての人間がこんな豪華な宿に泊まってる訳ではないと思うが……。ラウルが受付に行くと、部屋まで案内してくれるコンシェルジュが俺たちの方にやってきた。
フロントでラウルに挨拶すると、「また3日後の朝迎えにきます」と言われて別れた。
2階の角部屋に案内されると、そこにはベットが3つと机とソファが置いてある過ごしやすそうな部屋。食事も朝は出るし、出かけてる最中にベットメイキングまでしてくれるそうだ。これはありがたい。
「ふかふかー!」
「いい匂いもしますね!」
2人がはしゃぐ様にベットへダイブする。わかるぞその気持ち。俺も久々のベットに腰をかけると、程よい硬さが尻を包み込む。これは素晴らしい……そのままベットへ倒れ込むと、俺達3人は疲れもあってそのまま寝てしまった。
◇
「お客様がお見えです」
どれくらい寝ていたのだろうか。辺りはすっかり暗くなっており、窓からは綺麗な星空がみえている。寝ぼけた頭でそんな事を考えていると、もう一度ドアをノックする音が聞こえてきた。
「今出る」
ドアを開けると、コンシェルジュが待っていた。1階のロビーで騎士団長が待っているらしく、ブルーとエリィを叩き起こしてフロントへと向かう。
階段から降りて来る俺らを見たヘイムリアが、一礼して近付いてきた。
「夕食はまだだったかな?」
「あぁ、寝てしまってね。美味い店でも紹介してくれると助かるんだが」
「ちょうど良かった。着いてきてくれ」
宿を出て雑談を交えながらヘイムリアに着いていく。ヘイムリアが率いている騎士団は、つい先程仕事が片付いたそうだ。明日も仕事なので他の騎士達は帰宅させたが、俺達と交流を深めようと食事に誘ってくれたらしい。
今から向かう場所は、食べ飲み放題な上に安くて広くて大人気の居酒屋だそうだ。その言葉を聞いた瞬間、エリィと手を繋いで半分寝ぼけていたブルーの顔つきが変わった。……全部食い尽くしそうで怖い。
結構大きい店に入っていくと、客側から厨房が見える作りになっており、目でも楽しませられるような配置をしていた。料理人は人間も亜人もいて、ここが広い種族に開かれているのが改めてわかる。
席に通され早速料理を注文すると、空の皿が渡された。どうやら前に置いてある大量の料理から食べる分だけを皿によそうシステムらしい。酒に関してだけは毎回頼まなきゃらしいが、ブルーもエリィも飯だけだろうし俺にとってはありがたい。
「取ってきますね」
「ぼくもー」
2人が席を離れ料理に目を輝かせている最中に、俺は口を開いた。
「んで? わざわざ来たってことはなんかあったんだろ?」
「さすがだな。実はな……」
ヘイムリアがフリードに面会の申し入れをした時、たまたま近くを協会の関係者が通りかかったらしい。多分その時に面会日も聞かれているだろう、と。
「とってきたー」
「ブルー、それは取りすぎじゃないかな?」
皿に山盛りのブルーに苦言を呈したエリィだが、エリィの皿も中々こんもりと料理が乗っている。俺とヘイムリアに酒も届いたので、2人の皿からつまみを拝借しつつ話を進めた。
「つまり邪魔される可能性があるってことか?」
「あぁ。もちろん私達の部隊を出して万全を期すつもりだけどな」
本当にヘイムリアは協会関係者が嫌いなのだろう。酒が進めば進むほど協会の愚痴や悪口が出てくる。俺は念のためこのテーブルから外部に話が漏れない静音魔法をかけた。どこに協会の内通者がいるかもわからんからな。
そしてブルーが何度もおかわりをしに行く。一度に取る量がおかしいのもそうだが、胃に入っていくスピードも早すぎて、厨房から阿鼻叫喚が聞こえ始めた。叫びながらも手を止めてないように見えるのは料理人のプライドだろうか。
野菜以外はほぼすっからかんになっており、他の客までもが争奪戦になっている。
「そういえばエリィ、この街はどうかな?」
愚痴だけではつまらないと思ったのか、ヘイムリアがエリィに話を振る。エリィは口に含んでいたのを慌てて飲み込むと、水を飲んで口を開いた。
「すっごい綺麗で賑やかで凄かったです! 皆さん笑顔なのでいいなーって思いました」
「そうか! それはよかった……! 面会までぜひこの街を楽しんでくれ!」
嬉しそうな顔をするヘイムリア。俺もふと周りを見回すと、料理の奪い合いは起きているものの、全員が楽しそうな笑顔を浮かべている。そこに亜人差別などは存在せず、全員がお互いを認めているような感じだ。
俺たちはそのまま、店が閉店するまで居酒屋を楽しんだ。
◇
薄明かりが照らす暗い廊下。
その奥の部屋ベットから、女性のうめき声と同時に殴る音が聞こえてくる。その音と同時にでっぷりとした男のダミ声が響き渡った。
「オラっ! 鳴け!! オラっ!」
「やぁっ! ……うぐっ! もう……あぁっ!」
その声には若干の艶やかさが乗っており、男も満足そうな笑顔を浮かべている。ベットに寝そべる裸の女の頭には獣の耳が生えており、首には怪しく光る首輪が装着されている。
男はさらに腰を振りつつ顔や腹などを殴り続けていると、ぱったりと女が動かなくなった。
「なんだ、もう壊れたか。最近壊れるのが早くていけない」
男がベットから降りると、机にある葉巻を咥える。美味そうに煙を吐き出した時に、ドアがノックされた。ドアを開けると、そこには黒尽くめの男。何かをボソボソとでっぷりした男に伝えると、そのままドアの前から消え失せた。
でっぷりした男がまた葉巻を咥えなおす。
「ふふふ、いいタイミングだ」
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