62 / 63
森を出て世界へ
30:てがかり-3
しおりを挟む
「見苦しい所を見せた、すまない」
それから俺たちはそれぞれ通された宿に向かい、荷物を置くと村の宴に招待された。この村でもエリィに対して差別するような人間はおらず、子供から大人まで全員が受け入れている。むしろ一部に獣人の姿もあり、全員が仲良く酒を飲みつつ談笑していた。
「いや、大丈夫だ。あれが例の聖人教会って奴だろ?」
ヘイムリアが酒を片手に俺の席までやってきた。先程のゴタゴタを謝りにきたのだろう。確かにあんな奴らがいるんじゃエリィの為にはならないが、先程の対応を見る限りは問題もなさそうだ。
だが、ヘイムリアの顔は問題しかなさそうな表情をしている。
「そう……だな。フリード様さえ無事ならそうだろう」
「なんだ? 問題でもあるのか?」
「実はなーー」
ヘイムリアがポツリポツリと話し始める。
フリードは亜人に対して差別をしない。差別をしないが特別待遇をしてる訳でもない。全員が平等に暮らし、手に職をつけ努力が報われるような統治をしている。だから、人間にも亜人にも救いの手を伸ばす時は平等だし、犯罪などを起こした際の裁きも同じだと。
それが気に食わないのが聖人教会。彼らは施しなどの全ての優先権が人間にあると主張しており、犯罪者などは厳しく罰するが亜人には一切の慈悲はない。そうする事によって人間の偉大さを知らしめて、この世界を人間だけで支配するのがいい事だと信じ込んでいる。
さらには、数世代前に第一宗教として認められたのをいい事に国を裏から動かそうとしている節もあり、国の政治に対しても発言権が大きい。これには現在の国王も対抗できておらず、亜人に対しての差別意識は少ないものの声を上げられていないそうだ。
ただフリードは違う。フリードの本名はフリード・ブルンクリーと言い、ブルンクリー一族は元々この一帯を統治していた。彼らは、聖人教会が台頭してくる前から亜人を受け入れ続けており、その技術や生活から人間達の発展に貢献できないかと模索し続けていた。
数世代前の国王が国から全亜人を追い出す時には、命令に従う為に一度亜人達を領内から移住してもらった事はあるが、十数年後に亜人による国への貢献を示し、「ブルンクリー領内だけは亜人を住まわせてよい」に変化した。
それも聖人教会から猛反発が出たが、当時の国王がなんとかしたそうだ。それ以来亜人はブルンクリー領内にはいるそうで、この国の他の地域にはいないだろうと。ただ、エリィの件を考えるともしかしたら隠れて亜人は住んでいるかもとの事だ。
「なるほどね。でもそれならブルンクリー家が衰退することはないんじゃないか?」
「そこなんだが……」
さらにヘイムリアが言葉を続ける。その貢献も現在のフリードになってからは殆ど目新しい物がない。そこに教会が目をつけ、今までの技術だけでやっていけるのだからもう亜人を排除するべきだと声を上げ始めたそうだ。
確かに今のフリードにはこれと言った目ぼしい貢献がある訳ではない。それでも領民からは慕われているし、街の鍛冶屋や魔術師達も新しい技術を生み出そうと毎日研究を重ねている。それでも技術の進歩などすぐに身を結ぶものでもないし、だからといって頑張っている人間や亜人を追い出すのはおかしい。
それを教会は亜人がいるから遅れているだの、亜人が邪魔をしているだの文句を付けているそうだ。
そんな状況だからこそ今はできる事ーー例えば領内や領外から来たお尋ね者や賞金首を狩って国に貢献してる事をアピールしているのだとか。たまたま今回俺達を迎えに来たのは人間の騎士だけだが、騎士団の中には亜人もいるらしい。体力や力に特化したドワーフや魔法部隊にいるエルフ、遊撃隊や偵察などをこなす獣人など。
それぞれの得意分野を見つけ、この領内を守っているそうだ。
「領内で盗賊騒ぎや犯罪者が出始めたのはここ数年なんだ。そして聖人教会が騒ぎ始めたのも同時期」
「んじゃそいつらが事件を引き起こしてると?」
「私もそう思う。……だが、証拠がないんだ」
今まで捉えた盗賊や犯罪者の中には人間も亜人もいた。しかし捕らえた後に罪人を教会がすぐ何処かに連れて行くらしい。そしてその後の詳細は不明。
怪しいと思い、教会の内部を調べたこともあったが何も出てこなかった。その結果、教会はさらに勢いづいて今フリードが追い詰められてるという。
「なるほどね。まぁ俺達に被害がないならそれでいいさ」
「そうだな。そうはならない様に必ず私が守ってみせるよ」
そう言ったヘイムリアは若干の悲しそうな顔を浮かべた。よっぽどこの領内での出来事に胸を痛めているのだろう。
俺としては変なちょっかいを出される前に退散したいんだがな。とりあえず御礼を受け取ったらそのまま出ていくに越したことはなさそうだ。
それから俺たちはそれぞれ通された宿に向かい、荷物を置くと村の宴に招待された。この村でもエリィに対して差別するような人間はおらず、子供から大人まで全員が受け入れている。むしろ一部に獣人の姿もあり、全員が仲良く酒を飲みつつ談笑していた。
「いや、大丈夫だ。あれが例の聖人教会って奴だろ?」
ヘイムリアが酒を片手に俺の席までやってきた。先程のゴタゴタを謝りにきたのだろう。確かにあんな奴らがいるんじゃエリィの為にはならないが、先程の対応を見る限りは問題もなさそうだ。
だが、ヘイムリアの顔は問題しかなさそうな表情をしている。
「そう……だな。フリード様さえ無事ならそうだろう」
「なんだ? 問題でもあるのか?」
「実はなーー」
ヘイムリアがポツリポツリと話し始める。
フリードは亜人に対して差別をしない。差別をしないが特別待遇をしてる訳でもない。全員が平等に暮らし、手に職をつけ努力が報われるような統治をしている。だから、人間にも亜人にも救いの手を伸ばす時は平等だし、犯罪などを起こした際の裁きも同じだと。
それが気に食わないのが聖人教会。彼らは施しなどの全ての優先権が人間にあると主張しており、犯罪者などは厳しく罰するが亜人には一切の慈悲はない。そうする事によって人間の偉大さを知らしめて、この世界を人間だけで支配するのがいい事だと信じ込んでいる。
さらには、数世代前に第一宗教として認められたのをいい事に国を裏から動かそうとしている節もあり、国の政治に対しても発言権が大きい。これには現在の国王も対抗できておらず、亜人に対しての差別意識は少ないものの声を上げられていないそうだ。
ただフリードは違う。フリードの本名はフリード・ブルンクリーと言い、ブルンクリー一族は元々この一帯を統治していた。彼らは、聖人教会が台頭してくる前から亜人を受け入れ続けており、その技術や生活から人間達の発展に貢献できないかと模索し続けていた。
数世代前の国王が国から全亜人を追い出す時には、命令に従う為に一度亜人達を領内から移住してもらった事はあるが、十数年後に亜人による国への貢献を示し、「ブルンクリー領内だけは亜人を住まわせてよい」に変化した。
それも聖人教会から猛反発が出たが、当時の国王がなんとかしたそうだ。それ以来亜人はブルンクリー領内にはいるそうで、この国の他の地域にはいないだろうと。ただ、エリィの件を考えるともしかしたら隠れて亜人は住んでいるかもとの事だ。
「なるほどね。でもそれならブルンクリー家が衰退することはないんじゃないか?」
「そこなんだが……」
さらにヘイムリアが言葉を続ける。その貢献も現在のフリードになってからは殆ど目新しい物がない。そこに教会が目をつけ、今までの技術だけでやっていけるのだからもう亜人を排除するべきだと声を上げ始めたそうだ。
確かに今のフリードにはこれと言った目ぼしい貢献がある訳ではない。それでも領民からは慕われているし、街の鍛冶屋や魔術師達も新しい技術を生み出そうと毎日研究を重ねている。それでも技術の進歩などすぐに身を結ぶものでもないし、だからといって頑張っている人間や亜人を追い出すのはおかしい。
それを教会は亜人がいるから遅れているだの、亜人が邪魔をしているだの文句を付けているそうだ。
そんな状況だからこそ今はできる事ーー例えば領内や領外から来たお尋ね者や賞金首を狩って国に貢献してる事をアピールしているのだとか。たまたま今回俺達を迎えに来たのは人間の騎士だけだが、騎士団の中には亜人もいるらしい。体力や力に特化したドワーフや魔法部隊にいるエルフ、遊撃隊や偵察などをこなす獣人など。
それぞれの得意分野を見つけ、この領内を守っているそうだ。
「領内で盗賊騒ぎや犯罪者が出始めたのはここ数年なんだ。そして聖人教会が騒ぎ始めたのも同時期」
「んじゃそいつらが事件を引き起こしてると?」
「私もそう思う。……だが、証拠がないんだ」
今まで捉えた盗賊や犯罪者の中には人間も亜人もいた。しかし捕らえた後に罪人を教会がすぐ何処かに連れて行くらしい。そしてその後の詳細は不明。
怪しいと思い、教会の内部を調べたこともあったが何も出てこなかった。その結果、教会はさらに勢いづいて今フリードが追い詰められてるという。
「なるほどね。まぁ俺達に被害がないならそれでいいさ」
「そうだな。そうはならない様に必ず私が守ってみせるよ」
そう言ったヘイムリアは若干の悲しそうな顔を浮かべた。よっぽどこの領内での出来事に胸を痛めているのだろう。
俺としては変なちょっかいを出される前に退散したいんだがな。とりあえず御礼を受け取ったらそのまま出ていくに越したことはなさそうだ。
0
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
転生リンゴは破滅のフラグを退ける
古森真朝
ファンタジー
ある日突然事故死してしまった高校生・千夏。しかし、たまたまその場面を見ていた超お人好しの女神・イズーナに『命の林檎』をもらい、半精霊ティナとして異世界で人生を再スタートさせることになった。
今度こそは平和に長生きして、自分の好きなこといっぱいするんだ! ――と、心に誓ってスローライフを満喫していたのだが。ツノの生えたウサギを見つけたのを皮切りに、それを追ってきたエルフ族、そのエルフと張り合うレンジャー、さらに北の王国で囁かれる妙なウワサと、身の回りではトラブルがひっきりなし。
何とか事態を軟着陸させ、平穏な暮らしを取り戻すべく――ティナの『フラグ粉砕作戦』がスタートする!
※ちょっとだけタイトルを変更しました(元:転生リンゴは破滅フラグを遠ざける)
※更新頑張り中ですが展開はゆっくり目です。のんびり見守っていただければ幸いです^^
※ただいまファンタジー小説大賞エントリー中&だいたい毎日更新中です。ぜひとも応援してやってくださいませ!!

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

ズボラな私の異世界譚〜あれ?何も始まらない?〜
野鳥
ファンタジー
小町瀬良、享年35歳の枯れ女。日々の生活は会社と自宅の往復で、帰宅途中の不運な事故で死んでしまった。
気が付くと目の前には女神様がいて、私に世界を救えだなんて言い出した。
自慢じゃないけど、私、めちゃくちゃズボラなんで無理です。
そんな主人公が異世界に転生させられ、自由奔放に生きていくお話です。
※話のストックもない気ままに投稿していきますのでご了承ください。見切り発車もいいとこなので設定は穴だらけです。ご了承ください。
※シスコンとブラコンタグ増やしました。
短編は何処までが短編か分からないので、長くなりそうなら長編に変更いたします。
※シスコンタグ変更しました(笑)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元公務員が異世界転生して辺境の勇者になったけど魔獣が13倍出現するブラック地区だから共生を目指すことにした
まどぎわ
ファンタジー
激務で倒れ、そのまま死んだ役所職員。
生まれ変わった世界は、魔獣に怯える国民を守るために勇者が活躍するファンタジーの世界だった。
前世の記憶を有したままチート状態で勇者になったが、担当する街は魔獣の出現が他よりも遥かに多いブラック地区。これは出現する魔獣が悪いのか、通報してくる街の住人が悪いのか……穏やかに寿命を真っ当するため、仕事はそんなに頑張らない。勇者は今日も、魔獣と、市民と、共生を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる