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第1章 魔法を極めた王、異世界に行く
7:修行①
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まずは座らせてリラックスさせる。両足の裏をくっつけるようにして座り目を瞑らせ、視覚に頼らず周りに神経を尖らせて感じさせるところからだ。
いつも無意識に感じている風や木々のざわめき、水辺の音や光など。静かに心を落ち着けさせて感覚を磨いていく。
すると体内にも別の反応があることがわかるはずだ。胸の下あたりで体の真ん中ら辺、深呼吸するとその魔力も一緒に呼吸をするような動きが感じられたら最初の段階は終了だ。
俺はエリィをマジマジと観察しつつ、魔力の動きに注意を払った。
側から見れば幼女を観察する男は危なく見えるかもしれんが、これも立派な修行だ。
周りに人がいないのが救いだな。
「なんか……感じてきました」
「お、いいぞ。その調子だ」
体内の魔力は元々自分の生と一緒に歩んできている。誰でも感覚は掴める物だが、すぐに成果が出るのはエルフだからだろうか。
そしたら今度は次の段階だ。
「魔力を感じたら、今度は体内で動かしてみよう。まずは魔力を一つの円だと思い、ゆっくり動かしてみろ」
「はい……」
ふむ、少しぎこちないな。まぁ初めてだし仕方ないか。
エリィの魔力が体の胴体部分をゆっくりと上下に動いてるのがわかる。動いているというかピクピクしているというか。この魔力操作が全身に動くようにできれば次の段階に行けるが……
「ぷはぁ! 難しい!」
「はははは! 最初から上手くなんて出来ないさ。むしろ感じて少しでも動かせるだけでも凄いんだぞ?」
「むー、もっかいやる!」
またエリィが目を瞑り魔力を動かそうと努力し始めた、エリィは人間とエルフのハーフを恥ずかしそうに言っていたが、魔力感知は抜群だ。
ただ1箇所引っかかる部分がある。
俺はゆっくりエリィに近づきしゃがむと、小さな声で囁いた。
「エリィ、魔力操作に集中してて」
「えっ?」
俺は両手に魔力を集めると、エリィの肩に手を置いた。そこからゆっくり手を回すように動かしながら、肩甲骨や背骨の方に降りていく。
途中エリィから艶やかな声が漏れているのが聞こえるが、魔力回路を開くためだ、仕方ない。
10年近く魔力を全身に巡らせなかったせいか、所々に詰まりが出来ているのだ。
俺はそれをほぐしながら回路を修復していく。
「あの……あっ! あっあっ! ししょ……んんっ!」
背中の回路から今度はお腹周りだ。肋骨ぐらいからお腹の下腹部までを丁寧に回すように刺激していく。途中エリィの魔力が俺の手の近くまで来るのがわかったが、抑えられてる場所に意識が集中しているのだろう。
むしろそこに意識を向けながらも魔力を操作できることに喜ぶべきだな。
「ぁん…….なんか……んんっ! あったかい……師匠の手が……あっあっ!」
体がびくついてきた。回路も修復できているし、まずはこんなもんだろう。今後もマッサージを繰り返して、今度は配線を太く強くしていく必要があるな。
俺が手を離すと顔を真っ赤にしたエリィが俺を睨んでいるように見える。
「今のが魔力回路だ。全身に魔力を通す時はそこが開いてなくてはな」
「むぅ……」
なんか恨めしそうな目で見てくるが気にしない。何度かするうちに慣れてくるだろう。それに10歳前後の女の子に俺が発情する訳もないしな。彼女も納得してなさそうな顔をしているが、魔力を先ほどより動かすのがスムーズに感じるのか文句は言ってこない。
明日は腕や足にも修復していくのがいいだろう。
しばらく観察していると、魔力がエリィの体をゆっくりと動いてるのがわかるようになってきた。
さっきの修復した場所には問題なく動いている。
もう大丈夫だろう。俺もこの身体で魔力操作に慣れないとな。
俺もエリィの向かいに座って魔力を感じるところから始める。もう魔法は使っているので、俺は全身に魔力を巡らせて身体に異変が起きてないかのチェックがメインだ。
しかしこの体の不思議なところは、魔力操作がスムーズに出来ることだ。エリィの話からも人間族は魔力操作に疎いはず。それでも昨日のように魔法を出せたのは転生して身体が俺の魂に引っ張られたからだろうか。
「よし、今日はここまでだな。後はまた明日やろう」
「はーい。なんか新しい感覚が不思議で面白いね!」
俺もこんな感じだった。初めて魔力の本質に触れた時衝撃が走ったものだ。
魔力を操作するのには体力も消耗する。エリィも汗をかいて服にシミが出来てるぐらいだ。
近くの湖で水浴びをしようとエリィを誘うと、むすっとし始めた。
そうだよな、さすがに思春期の女の子が異性の前で脱ぐわけにはいかない。
とりあえず湖の近くまで一緒に向かうと、俺は恥ずかしくないように湖の一部を改装する事にした。
簡単に言えば樹魔法だ。土でもよかったが、せっかく綺麗な水が土で泥のようになったらもったいない。
湖の一部に樹で簡単な囲いを作る。湖側は開けた状態にし、入るためのドアも作る。ドアの先は少しだけ広くしておき、着替えたりする事が出来るようにしてある。こうすれば俺からも見えずに水浴びができるだろう。
「本当に凄いね。私も練習したら出来るかなぁ」
「もちろんだ。魔法は万人に開かれているからな。あとは修行して研鑽を重ねるだけだ」
替えの服をマジックバックから持ってきたエリィが簡易的な脱衣所を見て声を上げる。
そのまま中に入りドアを閉めて少し経つと「気持ちいいー!」と声が聞こえてきた。俺も服を脱いで裸になると湖へと入っていく。もちろん出た後に足が汚れないように綺麗な木の板を敷いてからな。
そこで初めて俺の顔を見たが、本当に驚いた。以前の俺とそっくりなんだ。いや、あの時はここまで似ていなかったはずだ。
そうすると、やはりさっきの説が有力になってくる。魂を入れ替えた場合、その魂に引っ張られて身体が変化したのではないかと。
もう考えるに至った点のもう一つが俺の身体だ。最初に見た時は確実に子供だったし、年齢も10歳前後の見た目だったはずが、今の俺はどう見ても15,6歳ぐらいに成長している。
エリィは俺の顔を見ながら話していたが、急に顔が変わったとか変な反応はしていない。
もしかしたらこの身体が助けに来た時に顔や身体を見る事なく気絶したのかもな。
髪の毛は最初見た時銀色に近い色だった気がするが、今は黒髪へと変化している。
これは面白い発見だ。もし同じような事が出来るなら是非試したい…….が、暫くは無理だろう。
千里の道も一歩から、なんて言葉があったなぁ。まずは地盤を固めて、その後この世界を旅しながら強くなっていけばいい。
俺も一通り水浴びをしてから、脱いだ服を持ち上げ浄化魔法を唱える。
体も浄化魔法を使えばすぐに綺麗になるが、さっぱりした感を感じるには水浴びをするのがいい。
もう少し修行を進めたら合間の時間を使って風呂を作ってもいいかもしれないな。少し熱めのお湯で全身を浸からせ、身体の芯から疲れを取るのだ。あの感覚はどうしても忘れられない。
そうなると、この湖の端を使って小屋も一緒に建築するのがいいだろう。夜に月を見ながら湯に浸かり飲む酒は最高なんだ。
そんな思いを侍らせながら服を着ていると、ちょうどエリィも水浴びを終えて出てきた。
服は湖で洗ったのだろう。俺はそれを受け取り風魔法と火魔法を合成した温風で服を乾かしてやる。
こんな簡単な生活魔法でも驚いてくれるのはちょっと面白いな。
その後はいつも通り飯を食って眠りにつく。魔力操作をずっとしていたせいか、エリィは床に就くとすぐに寝息を立て始めた。
体力も子供だからか、魔力操作でだいぶ疲れたのだろう。
そうなると、今度は俺だけの時間を使える。
「さてと、本格的に魔力を増やすとするか」
魔力を増やすために魔力操作などを使ってゆっくりと増やしたり、外道だが脳をいじったりして増やすのもありだが、一番簡単で大きく増やす方法がある。
簡単に言えば、死ねばいいのだ。この身体も一度死んでから俺を受け入れたので魔力量が増えている。
そして死ぬ事を繰り返すことにより、無理矢理保有魔力量を増やせる。特に死ぬ事により魔力は一気に使い切るので、莫大に増えるのだ。
だが、本当に死んでしまうとそこで人生は終わる。ベストは俺と同じように魔導を極めた人間がもう一人いれば、お互いに蘇生魔法を唱えることによって無理やり死んで生き返る事が可能だが……まぁ前世でもそんな奴に出会ったことはない。
なので、俺が死ぬときは少し細工をしてからだ。
さすがに無策で死んだらただのバカだからな。
俺はその場に座ると深呼吸をしてゆっくりと目を閉じた。まずは生き返った時にすぐ治癒魔法を使えるように魔石に自分の魔力を注いでおく。
ちゃんと入ったのを確認したら、今度は詠唱だ。
「森羅万象を司り秘術を行使せん。我の御霊を繋ぎ、留め、再び生を与えよ。リランサー」
くっ……この魔法は魔素よりも魔力を膨大に消費する魔法だ。自分の生命エネルギーを未来に送ることによって死んでも一度だけ生き返る事が出来る魔法。
魔素での補填も出来なくはないが、魔力を大量に消費して行使しなければ意味がない。
感覚では今の魔力量でもいけると踏んだが、なんとか無事に発動したらしい。うっすらと俺を包み込む淡い光がまとわりついている。
貧血のように頭がふらふらするが、まだ完成していない。俺はこれから死ぬのだ。
ふらつく頭でイメージを固める。一瞬で命を刈り取るイメージ。苦痛などなく一瞬でその生を手放し深淵に落ちていくイメージ。
そして右手を胸に……心臓の前へ持ってきて残った魔力を全て動員し覚悟を決める。
「……デス」
ーーーー
ーー
俺は文字通り即死した。死ぬと自分の魂が暗い闇の中にいるのがわかる。音も感覚も何もないただ真っ暗な世界。
死を体感するのはどれぐらい久々だろうか。前世でも修行していた時か? それとも勇者の強さが上がってきて焦った時か?
思い出せないほど昔かもしれない。このまま闇に身を任せれば消えゆくのだろう。
女神はその状態の魂を救うと言ったが……右も左もわからぬ闇でよくそんな事が出来るものだ。腐ってても神と言うことか。
そんな事を考えていると、闇の中で一筋の光が差し始めた。その光は俺の魂を包み込むと、ゆっくりと持ち上げ登り始める。
暗い闇だと思っていた場所は、いつの間にか輝く天井が見え始め、光と共に俺の魂を掬い上げた。
「ぷはぁ!!! はぁ……はぁ……」
死から戻った俺はすぐに魔石を手にしてハイヒールを全身にかける。死から生還しても死んだ事実は消えないので、身体に異常をきたしている事があるからだ。
地面に横たわった体を起こしてみたが、特段異常もなさそうだ。
魔力量も確認したが、最大容量はちゃんと増えている。魔力量は器を広げて最大保有魔力を増やすのがいい。
そしてその魔力を使いこなすためには運動も必要だ。ひ弱なまま魔力量だけ増やし続けると、魔力量に体が耐えられなくなってしまう。
何事も体が資本だからな。
俺は軽くストレッチをして身体をほぐすと、エリィが眠ってる場所へ戻る。
さすがに死ぬところを見せるのは刺激が強すぎるだろうし、彼女にはまだまだ先の修行だ。
俺もそのまま床に就くと、別の意味で闇に身体を任せるのであった。
いつも無意識に感じている風や木々のざわめき、水辺の音や光など。静かに心を落ち着けさせて感覚を磨いていく。
すると体内にも別の反応があることがわかるはずだ。胸の下あたりで体の真ん中ら辺、深呼吸するとその魔力も一緒に呼吸をするような動きが感じられたら最初の段階は終了だ。
俺はエリィをマジマジと観察しつつ、魔力の動きに注意を払った。
側から見れば幼女を観察する男は危なく見えるかもしれんが、これも立派な修行だ。
周りに人がいないのが救いだな。
「なんか……感じてきました」
「お、いいぞ。その調子だ」
体内の魔力は元々自分の生と一緒に歩んできている。誰でも感覚は掴める物だが、すぐに成果が出るのはエルフだからだろうか。
そしたら今度は次の段階だ。
「魔力を感じたら、今度は体内で動かしてみよう。まずは魔力を一つの円だと思い、ゆっくり動かしてみろ」
「はい……」
ふむ、少しぎこちないな。まぁ初めてだし仕方ないか。
エリィの魔力が体の胴体部分をゆっくりと上下に動いてるのがわかる。動いているというかピクピクしているというか。この魔力操作が全身に動くようにできれば次の段階に行けるが……
「ぷはぁ! 難しい!」
「はははは! 最初から上手くなんて出来ないさ。むしろ感じて少しでも動かせるだけでも凄いんだぞ?」
「むー、もっかいやる!」
またエリィが目を瞑り魔力を動かそうと努力し始めた、エリィは人間とエルフのハーフを恥ずかしそうに言っていたが、魔力感知は抜群だ。
ただ1箇所引っかかる部分がある。
俺はゆっくりエリィに近づきしゃがむと、小さな声で囁いた。
「エリィ、魔力操作に集中してて」
「えっ?」
俺は両手に魔力を集めると、エリィの肩に手を置いた。そこからゆっくり手を回すように動かしながら、肩甲骨や背骨の方に降りていく。
途中エリィから艶やかな声が漏れているのが聞こえるが、魔力回路を開くためだ、仕方ない。
10年近く魔力を全身に巡らせなかったせいか、所々に詰まりが出来ているのだ。
俺はそれをほぐしながら回路を修復していく。
「あの……あっ! あっあっ! ししょ……んんっ!」
背中の回路から今度はお腹周りだ。肋骨ぐらいからお腹の下腹部までを丁寧に回すように刺激していく。途中エリィの魔力が俺の手の近くまで来るのがわかったが、抑えられてる場所に意識が集中しているのだろう。
むしろそこに意識を向けながらも魔力を操作できることに喜ぶべきだな。
「ぁん…….なんか……んんっ! あったかい……師匠の手が……あっあっ!」
体がびくついてきた。回路も修復できているし、まずはこんなもんだろう。今後もマッサージを繰り返して、今度は配線を太く強くしていく必要があるな。
俺が手を離すと顔を真っ赤にしたエリィが俺を睨んでいるように見える。
「今のが魔力回路だ。全身に魔力を通す時はそこが開いてなくてはな」
「むぅ……」
なんか恨めしそうな目で見てくるが気にしない。何度かするうちに慣れてくるだろう。それに10歳前後の女の子に俺が発情する訳もないしな。彼女も納得してなさそうな顔をしているが、魔力を先ほどより動かすのがスムーズに感じるのか文句は言ってこない。
明日は腕や足にも修復していくのがいいだろう。
しばらく観察していると、魔力がエリィの体をゆっくりと動いてるのがわかるようになってきた。
さっきの修復した場所には問題なく動いている。
もう大丈夫だろう。俺もこの身体で魔力操作に慣れないとな。
俺もエリィの向かいに座って魔力を感じるところから始める。もう魔法は使っているので、俺は全身に魔力を巡らせて身体に異変が起きてないかのチェックがメインだ。
しかしこの体の不思議なところは、魔力操作がスムーズに出来ることだ。エリィの話からも人間族は魔力操作に疎いはず。それでも昨日のように魔法を出せたのは転生して身体が俺の魂に引っ張られたからだろうか。
「よし、今日はここまでだな。後はまた明日やろう」
「はーい。なんか新しい感覚が不思議で面白いね!」
俺もこんな感じだった。初めて魔力の本質に触れた時衝撃が走ったものだ。
魔力を操作するのには体力も消耗する。エリィも汗をかいて服にシミが出来てるぐらいだ。
近くの湖で水浴びをしようとエリィを誘うと、むすっとし始めた。
そうだよな、さすがに思春期の女の子が異性の前で脱ぐわけにはいかない。
とりあえず湖の近くまで一緒に向かうと、俺は恥ずかしくないように湖の一部を改装する事にした。
簡単に言えば樹魔法だ。土でもよかったが、せっかく綺麗な水が土で泥のようになったらもったいない。
湖の一部に樹で簡単な囲いを作る。湖側は開けた状態にし、入るためのドアも作る。ドアの先は少しだけ広くしておき、着替えたりする事が出来るようにしてある。こうすれば俺からも見えずに水浴びができるだろう。
「本当に凄いね。私も練習したら出来るかなぁ」
「もちろんだ。魔法は万人に開かれているからな。あとは修行して研鑽を重ねるだけだ」
替えの服をマジックバックから持ってきたエリィが簡易的な脱衣所を見て声を上げる。
そのまま中に入りドアを閉めて少し経つと「気持ちいいー!」と声が聞こえてきた。俺も服を脱いで裸になると湖へと入っていく。もちろん出た後に足が汚れないように綺麗な木の板を敷いてからな。
そこで初めて俺の顔を見たが、本当に驚いた。以前の俺とそっくりなんだ。いや、あの時はここまで似ていなかったはずだ。
そうすると、やはりさっきの説が有力になってくる。魂を入れ替えた場合、その魂に引っ張られて身体が変化したのではないかと。
もう考えるに至った点のもう一つが俺の身体だ。最初に見た時は確実に子供だったし、年齢も10歳前後の見た目だったはずが、今の俺はどう見ても15,6歳ぐらいに成長している。
エリィは俺の顔を見ながら話していたが、急に顔が変わったとか変な反応はしていない。
もしかしたらこの身体が助けに来た時に顔や身体を見る事なく気絶したのかもな。
髪の毛は最初見た時銀色に近い色だった気がするが、今は黒髪へと変化している。
これは面白い発見だ。もし同じような事が出来るなら是非試したい…….が、暫くは無理だろう。
千里の道も一歩から、なんて言葉があったなぁ。まずは地盤を固めて、その後この世界を旅しながら強くなっていけばいい。
俺も一通り水浴びをしてから、脱いだ服を持ち上げ浄化魔法を唱える。
体も浄化魔法を使えばすぐに綺麗になるが、さっぱりした感を感じるには水浴びをするのがいい。
もう少し修行を進めたら合間の時間を使って風呂を作ってもいいかもしれないな。少し熱めのお湯で全身を浸からせ、身体の芯から疲れを取るのだ。あの感覚はどうしても忘れられない。
そうなると、この湖の端を使って小屋も一緒に建築するのがいいだろう。夜に月を見ながら湯に浸かり飲む酒は最高なんだ。
そんな思いを侍らせながら服を着ていると、ちょうどエリィも水浴びを終えて出てきた。
服は湖で洗ったのだろう。俺はそれを受け取り風魔法と火魔法を合成した温風で服を乾かしてやる。
こんな簡単な生活魔法でも驚いてくれるのはちょっと面白いな。
その後はいつも通り飯を食って眠りにつく。魔力操作をずっとしていたせいか、エリィは床に就くとすぐに寝息を立て始めた。
体力も子供だからか、魔力操作でだいぶ疲れたのだろう。
そうなると、今度は俺だけの時間を使える。
「さてと、本格的に魔力を増やすとするか」
魔力を増やすために魔力操作などを使ってゆっくりと増やしたり、外道だが脳をいじったりして増やすのもありだが、一番簡単で大きく増やす方法がある。
簡単に言えば、死ねばいいのだ。この身体も一度死んでから俺を受け入れたので魔力量が増えている。
そして死ぬ事を繰り返すことにより、無理矢理保有魔力量を増やせる。特に死ぬ事により魔力は一気に使い切るので、莫大に増えるのだ。
だが、本当に死んでしまうとそこで人生は終わる。ベストは俺と同じように魔導を極めた人間がもう一人いれば、お互いに蘇生魔法を唱えることによって無理やり死んで生き返る事が可能だが……まぁ前世でもそんな奴に出会ったことはない。
なので、俺が死ぬときは少し細工をしてからだ。
さすがに無策で死んだらただのバカだからな。
俺はその場に座ると深呼吸をしてゆっくりと目を閉じた。まずは生き返った時にすぐ治癒魔法を使えるように魔石に自分の魔力を注いでおく。
ちゃんと入ったのを確認したら、今度は詠唱だ。
「森羅万象を司り秘術を行使せん。我の御霊を繋ぎ、留め、再び生を与えよ。リランサー」
くっ……この魔法は魔素よりも魔力を膨大に消費する魔法だ。自分の生命エネルギーを未来に送ることによって死んでも一度だけ生き返る事が出来る魔法。
魔素での補填も出来なくはないが、魔力を大量に消費して行使しなければ意味がない。
感覚では今の魔力量でもいけると踏んだが、なんとか無事に発動したらしい。うっすらと俺を包み込む淡い光がまとわりついている。
貧血のように頭がふらふらするが、まだ完成していない。俺はこれから死ぬのだ。
ふらつく頭でイメージを固める。一瞬で命を刈り取るイメージ。苦痛などなく一瞬でその生を手放し深淵に落ちていくイメージ。
そして右手を胸に……心臓の前へ持ってきて残った魔力を全て動員し覚悟を決める。
「……デス」
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俺は文字通り即死した。死ぬと自分の魂が暗い闇の中にいるのがわかる。音も感覚も何もないただ真っ暗な世界。
死を体感するのはどれぐらい久々だろうか。前世でも修行していた時か? それとも勇者の強さが上がってきて焦った時か?
思い出せないほど昔かもしれない。このまま闇に身を任せれば消えゆくのだろう。
女神はその状態の魂を救うと言ったが……右も左もわからぬ闇でよくそんな事が出来るものだ。腐ってても神と言うことか。
そんな事を考えていると、闇の中で一筋の光が差し始めた。その光は俺の魂を包み込むと、ゆっくりと持ち上げ登り始める。
暗い闇だと思っていた場所は、いつの間にか輝く天井が見え始め、光と共に俺の魂を掬い上げた。
「ぷはぁ!!! はぁ……はぁ……」
死から戻った俺はすぐに魔石を手にしてハイヒールを全身にかける。死から生還しても死んだ事実は消えないので、身体に異常をきたしている事があるからだ。
地面に横たわった体を起こしてみたが、特段異常もなさそうだ。
魔力量も確認したが、最大容量はちゃんと増えている。魔力量は器を広げて最大保有魔力を増やすのがいい。
そしてその魔力を使いこなすためには運動も必要だ。ひ弱なまま魔力量だけ増やし続けると、魔力量に体が耐えられなくなってしまう。
何事も体が資本だからな。
俺は軽くストレッチをして身体をほぐすと、エリィが眠ってる場所へ戻る。
さすがに死ぬところを見せるのは刺激が強すぎるだろうし、彼女にはまだまだ先の修行だ。
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