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第1章 魔法を極めた王、異世界に行く

4:魔獣

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 魔を取り込み進化した獣……魔獣。
 その身体は大きく進化しており、怪しい気配を纏っている。目は4つに増えており牙も黒い、見るからに普通ではない獣だ。
 前の世界にはこんな奴はいなかったが、さてどう変わっているのかな。
 俺は目に魔力を集中させ猪を観察した。

「ふむ、ダークボア……魔力を取り込んだフォレストボアの進化系か」
「ブギィィィ!!」

 前掻きを終えて俺の方へと突進してくる。このままだと単にデカいだけの猪だ。
 勢いは猪よりも早いかもしれないがまだ距離はある。
 さっそく調理と行こうか。

「エリィ、まず魔法を使うにはイメージが大事なんだ」
「アーベル! 前! 前!!」
「確固たるイメージさえあれば、詠唱なんて必要なくなる。それが魔法だ」
「いや前! 前見て! 来てるよ!!」

 ……せっかく魔法とは何かを話したいが、どうやらエリィは目の前の魔獣に錯乱している。
 それにまだ慌てるような時間じゃない。距離を詰めてきてはいるが、いい感じに勢いに乗り始めているだけじゃないか。

「まずは出鼻を挫く事だ。こんな風に……アイスポイント」

 まさに魔獣が踏み抜こうとしている両前足の地面を凍らせる。重量も考えて厚みのある氷だ。
 目論見通り魔獣は氷の上で足を滑らせ転倒した。勢いは止まる事なく地面を転がっていき、そのまま木にぶつかると、木ごと薙ぎ倒した。
 なるほど、デカくなって勢いがついただけの猪だな。

「えっ? えっ??」
「次に生物を殺すのに大きな魔法はいらない。奴相手ならば……こんな物か。ウォーターボール」

 猪はすぐに体制を整えてまた前掻きを始めている。よっぽど頭にきたのか、ブヒブヒと声を漏らしながら隠す気のない殺気をこちらにぶつけてきてるではないか。
 この俺に殺意を向けてくるとはなかなかの度胸だ。

 俺は魔獣の頭の上に作り出した水の球を顔に被せるようにして乗せた。魔獣からしたら急な水にびっくりしただろう。
 さらにそれが鼻と口を塞ぎ、剥がれなければどうだ? 生物ならば、空気が吸えなければそのまま死ぬだけだ。子供でもわかる簡単なことだ。

 魔獣も首を振ったり暴れたりして水を剥がそうと必死だが、俺が操作してるんだ剥がせるわけがない。
 それに気付いたのか、今度は俺を睨んで突進へ変化した。
 剥がせなければ術者を殺せば解除されるのは間違いない。それが俺相手でなければな。

「怒ってるよ! めちゃくちゃ怒ってるよね!?」
「そして魔法を使うなら1の手で満足するな。常に相手の状況を確認し2の手3の手を用意しておく物だ!」
「また来たぁぁぁ!!」
「アイスポイント!」

 一人で騒いでいるエリィは無視するとして、俺は突進してくる魔獣の足元にまた氷を設置する。だが、奴はそれに気付いたのか足を踏ん張り氷の地面を大きく飛び越えたのだ。
 そのまま巨体で俺を押し潰す気だろう。奴から見れば俺なんてちっぽけな人間だ。また転ぶと思った相手が想定外の動きをすれば並の人間なら一瞬固まって動けなくなる。そこを突けばいいだけだ。

 だがそれも俺の計算通り。あんな勢いでこっちに向かってくるなら、急な方向転換など出来ないだろう。そうすると取れる行動は歩幅を狭くして回避するか飛び上がるだけ。勢いを殺したくないだろうから歩幅を狭くすることは論外だ。
 となれば取る行動は飛び越えてこちらに届く攻撃をする事。そしてその瞬間腹は無防備になるのだ。

「アースウォール!」

 飛び上がった魔獣の腹を目がけて勢いよく魔法を発動させる。無防備に空いた腹に減り込むアースウォールは、魔獣に残った酸素も吐き出させるほどの威力があったのだろう。
 そのまま地面に打ち付けられるとほとんど動かなくなった。

 様子を見にいくと、ウォーターボールによって声はほぼ聞こえないが、魔獣の顔から一気に血の気が引いている。
 もう抵抗する気力すらなく、後は死に絶えるだけだろう。
 そして俺は魔獣に向かって2本の指を突きつけた。

「嘘……え? なんでそんな……」
「そして最後だ。どんな相手にも必ずとどめをさせ。よく見ていろ? ウィンドカッター」

 突き出した指を魔獣の首へ向けて縦に振る。風の刃が魔獣の首を刎ね、ミッションコンプリートだ。
 食べられるように気を遣いながら魔法を使ったとはいえ、やはりまだこの身体で多くの魔法を使うには向いてないのだろう。
 先程から頭の奥がガンガンと警告を鳴らしている。
 なるべく自分の魔力を使いすぎないように周りの魔素を中心に組み込んだが、それでも制御するのに魔力を多く持っていかれる。
 しばらくは魔力保有量を増やさなければな。

「ふー、これで魔法の使い方が多少はーーー」
「ねぇなんで!? なんでそんなに色々な魔法を……!! しかも無詠唱とかそんなの魔族とか魔法に長けてないと無理なんだよ!? いやそれよりもヒューマンは魔力量が少ないからそんなに魔法を使えないんじゃないの!?」
「はぁ? だからそれを補うために魔素を……いや、まさか?」

 矢継ぎ早に質問攻めのエリィをひとまず落ち着かせる。エリィも聞きたいことが多すぎて興奮してしまった事にハッとすると、すぐにいつものエリィへと戻った。
 とりあえず倒した魔獣を食べられるように血抜きをしなければ。それにはエリィもすぐに賛成してくれたので、またアースウォールで魔獣を吊るす台座を作り、木の魔法で縛り付ける丈夫な蔦を作り出す。
 そのまま魔獣を吊るして血抜きをしていると、エリィが頭を抱えてやってきた。

「ん? それをどうするんだ?」
「えへへ。牙は加工できるし、目玉なんかも調合したりできるんだよ」
「ほぉ! エリィは調合が出来るのか!」

 エリィ曰く、魔獣は皮や骨などを使って加工品を作ったり出来るらしい。
 母親は冒険者も行っていたらしく、いつかサバイバル生活になった時用にあれこれエリィに教えていたそうだ。
 そのため魔法は得意ではないものの、魔獣や動物の死骸などからもナイフや罠などを作って生活していたそうだ。

 さらに解体を進めていると、ボアから淡く光る石をエリィが取り出した。

「見てみてアーベル! こんなにおっきい魔石!!」
「ほぉ? 魔石なんてものが存在するのか」
「えっ? 知らないの!?」

 いや、魔石自体は知っている。だがそれは前世で宝石などに魔力をこめて、魔法が使えない者でも使えるようにしたものだった。
 こうして魔獣から魔石が出てくるのを書物以外で見るのは初めてだ。
 拳大の大きさの魔石を受け取ってマジマジと見つめる。魔力を目に集めることにより対象を解析アナライズすることができるのだ。

「これはね、売ることができるんだよ! 鍛治職人とか細工師とかなら加工も出来るらしいけど」
「うん、これは確かに素晴らしいな。相談なんだが、これを貰ってもいいか?」
「うん! もちろん! アーベルが倒したんだから、アーベルの物だよ!」

 宝石が保有できる魔力量をはるかに超える蓄積ができると解析できた。つまり俺の魔力が尽きることがあっても、魔石に最初から魔力を蓄積しておけば取り出したり発動させたりできる。
 これはいい拾い物だ。色々実験をしてみたい。どうやら鍛治が出来ずとも、魔力をこめて練れば形も変えることが出来るらしい。

 そして調合だ。薬草などを掛け合わせたりして回復薬などの他にも解毒剤や逆に状態異常を引き起こす薬など色々な薬にも出来る。
 魔力も無くなれば意味がなく、節約する為にも魔法だけに頼るわけにもいかない。その為に調合された薬などは魔力の節約の観点からも重宝するだろう。

「素晴らしいな。俺は魔法は得意だが調合にはとんと疎くてね。エリィがいて助かるよ」
「えへへへ」

 褒められて嬉しそうにするエリィ。やはりエルフは美人である事に間違いはないな。
 それから俺は解体などを一緒に手伝っていたが、どう見てもアジト木の根の中に入りきらないほどの量が生まれているのに気付いた。このまま置いておけば腐ってしまう可能性もある。
 するとそんな俺に気付いたのか、エリィがアジトに戻ると一つのバックを持って走ってきた。

「ふっふーん! これはね、マジックバックと言って…….」
「おぉ! マジックバックまであるのか!」

 マジックバックとは、見た目以上に物を収納できる魔法道具だ。時空魔法が使えるものならアイテムボックスという名前で同じ性能を持つものもある。
 基本的には時間停止などが施されるので、食材などを入れて保管するのにもってこいだ。
 アイテムボックスは使用者の魔力量によって容量が異なり、マジックバックは込められた魔力量によって容量が異なる。エリィ曰く、このマジックバックはそんなに大きい容量はないらしいので、今後暇を見て俺が育てればいいだろう。
 マジックバックもアイテムボックスも魔力を与えれば育てて容量を増やす事が出来るからな。

 そうなると、最初に食材が乱雑に置かれてたのが気になる。話を聞いてみると、今日食べるからいいだろうと置いといたとか……。
 もしかしたらエリィは片付けが苦手なのかもしれんな。俺もそんなに人のことを言える立場ではないが。

 俺たちが解体などを終わらせると、すっかり日も暮れてしまっていた。
 エリィは野草を探しに森に入り、俺は薪に火をつけ暖を取る。先程から探索魔法で周辺の警戒とエリィの居場所も把握しているが、特に危険もなさそうだ。
 帰ってきたエリィがボアの肉を使い料理を奮ってくれたが、これが本当に美味かった、
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