3 / 63
第1章 魔法を極めた王、異世界に行く
3:魔法
しおりを挟む
エリィの道案内に従って歩いて行くと、大きな湖が現れた。
さらに周りの木々の中でも一際大きな木が目立つように生えており、その付け根には人が入れるほどの窪みがある。
聞くところによると、ここ最近エリィはここを中心に森の散策をしていたそうだ。
「いや、なかなか見晴らしもいいな」
「ふふふ。家の中に木の実ならあるからそれを食べよ!」
窪みの中に入ると、これまた広く子供二人なら余裕で過ごせるスペースがある。
その奥の方には乱雑に積まれた木の実や果物が見えた。
個人的には肉を食いたがったが……やはりエルフは森の恵みだけで過ごすのだろうか。
「エリィは果物が好物なのか? この森なら肉や湖にいる魚も取れるだろう?」
「いやー、私魔法も得意じゃないし狩りも苦手だから……でもね、果物も美味しいんだよ?」
そうだろうな、果物はうまい。だがそれだけでは大きくなることが出来ないじゃないか。丈夫な体を作るならまずは栄養をしっかり取ること。
特に肉は色々と発達するためにも非常に大事だ。
口ぶりからすると肉が食えないわけではなさそうだ。それはそれで俺の中のエルフのイメージを変えた方がいいだろう。
だが一番気になったのは「魔法が得意じゃない」と言うことだ。エルフが魔法を得意じゃない? いやいやいや、そんなことはないはずだ。
まさか俺の知識とエリィを筆頭とした本物のエルフでは違いが出るのか?
俺は受け取った果実を頬張りながら思案していると、心配そうな顔でエリィがこちらを観察しているのに気付いた。
すぐに察した俺は「美味しいよ、ありがとう」と言うと、顔を赤らめて嬉しそうに笑いはじめた。
ふむ、やはりエルフは知識通り美しい。となるとやはり気になるのは魔法が得意ではないと言うことだ。
俺は貰った果実を飲み込むと、エリィに向かって口を開いた。
「エリィ、これから君の魔法を見せてもらってもいいかな?」
「えっ? うん、いいけど……」
「けど?」
「多分アーベルの期待には応えられないと思うんだ……」
2人で果実を食べ終わると、湖の近くまで歩いて行く。
大きな湖は澄み切った色をしており、遠くの方には小島も見えている。
その近くで俺はエリィに魔法を発動してもらうようにお願いした。
「じゃぁ……一番得意なのをーー」
エリィが両手を広げて腕を伸ばす。すると何やらブツブツと独り言を言い始めた。
いや、これは詠唱か? まてまてまてまて、魔法を見せろとは言ったが最上級の魔法でも発動する気か!?
俺の心配とは裏腹に、エリィが魔法を完成させてしまった。
「ーー切り裂け、ウィンドカッター!」
フワァ~~
「…………」
詠唱が完了し、確かに魔法は発動した。だが、それは手のひらから優しい風が出て周辺の草を少し靡かせただけだ。ウィンドカッターと言えば圧縮した風の刃で対象を切り裂く魔法。
そのはずが、エリィは風を放出しただけだ。
さらに言えばーー
「あー! 出なかったぁ……」
「なぁ、なんで魔法に詠唱を入れたんだ?」
「えっ? 魔法は詠唱が付き物だよ?」
……マジかよ、そうかそうですか……。この世界ではその認識なんだな。
その後もエリィに何度も同じ魔法を見せてもらったが、毎回長い詠唱と魔法の発動はしたりしなかったりと散々な結果だった。
エリィも魔法を見せようとして失敗続きに少し涙目になっている。
うん、こりゃ修行が必要だな。
そもそも詠唱なんてのは具体的なイメージがあれば必要なくなる。最上級の魔法では詠唱をする事により威力や持続時間を長くして効率よくなる場合もあるが、大規模な戦争ぐらいにしか使わない。
エリィを見てて思ったのは、そのイメージが少ないのだろう。
「うぅ……いつもなら成功するのに……」
「あー、うん。ありがとう。いつもこんな感じなのかな?」
「いつもは3回に1回は成功するもん! 今日は運がなかっただけだもん!」
涙目でこちらを睨みつけられてもなぁ。でもこれで確信した。この世界は魔法を使うのに詠唱が必要だと勘違いしており、魔王率いる軍勢に負けているのはそこもあるのだろう。
毎回だらだらと詠唱していたら格好の的になる。
まずはエリィを俺までとは言わずも、魔法のレベルを引き上げてやらないとな。
「よしエリィ、俺と一緒に修行しようか」
「えっ?」
「お父さんを探すんだろ? それならまずは誰にも負けずに生きていく力が必要だ。そうだな、手始めに「グボォォォ!!」」
エリィに優しく話しかけていると、森の中から大きな咆哮が聞こえた。
声の方へ振り返ると、あの四つ目の猪がこちらに向かって前掻きをしている。
殺したはずの獲物が生きている事にでも苛ついているのだろうか。
「あっ……あれは……」
「フォレストボア……だったか?」
「違う!! さっきもおかしいと思ったけど、あれは魔獣だよ!! な、なんでこんなところに……」
「ほぉ?」
魔獣ね。あの女神が言ってた奴か。女神の本棚にもあったなぁそんな奴。
魔を取り込み進化した獣……略して魔獣だったか。
ちょうどいい。こいつを実験に今の魔力でどこまで通用するかを把握しておくか。
「エリィ、あいつは美味いのか?」
「えっ? あ、まぁフォレストボアからの進化であれば肉は……って食べる気なの!?」
「しっかり見ていろ。魔法の使い方をレクチャーしてやる」
俺はエリィの頭をポンと優しく触れると魔獣の前に立ちはだかった。
さらに周りの木々の中でも一際大きな木が目立つように生えており、その付け根には人が入れるほどの窪みがある。
聞くところによると、ここ最近エリィはここを中心に森の散策をしていたそうだ。
「いや、なかなか見晴らしもいいな」
「ふふふ。家の中に木の実ならあるからそれを食べよ!」
窪みの中に入ると、これまた広く子供二人なら余裕で過ごせるスペースがある。
その奥の方には乱雑に積まれた木の実や果物が見えた。
個人的には肉を食いたがったが……やはりエルフは森の恵みだけで過ごすのだろうか。
「エリィは果物が好物なのか? この森なら肉や湖にいる魚も取れるだろう?」
「いやー、私魔法も得意じゃないし狩りも苦手だから……でもね、果物も美味しいんだよ?」
そうだろうな、果物はうまい。だがそれだけでは大きくなることが出来ないじゃないか。丈夫な体を作るならまずは栄養をしっかり取ること。
特に肉は色々と発達するためにも非常に大事だ。
口ぶりからすると肉が食えないわけではなさそうだ。それはそれで俺の中のエルフのイメージを変えた方がいいだろう。
だが一番気になったのは「魔法が得意じゃない」と言うことだ。エルフが魔法を得意じゃない? いやいやいや、そんなことはないはずだ。
まさか俺の知識とエリィを筆頭とした本物のエルフでは違いが出るのか?
俺は受け取った果実を頬張りながら思案していると、心配そうな顔でエリィがこちらを観察しているのに気付いた。
すぐに察した俺は「美味しいよ、ありがとう」と言うと、顔を赤らめて嬉しそうに笑いはじめた。
ふむ、やはりエルフは知識通り美しい。となるとやはり気になるのは魔法が得意ではないと言うことだ。
俺は貰った果実を飲み込むと、エリィに向かって口を開いた。
「エリィ、これから君の魔法を見せてもらってもいいかな?」
「えっ? うん、いいけど……」
「けど?」
「多分アーベルの期待には応えられないと思うんだ……」
2人で果実を食べ終わると、湖の近くまで歩いて行く。
大きな湖は澄み切った色をしており、遠くの方には小島も見えている。
その近くで俺はエリィに魔法を発動してもらうようにお願いした。
「じゃぁ……一番得意なのをーー」
エリィが両手を広げて腕を伸ばす。すると何やらブツブツと独り言を言い始めた。
いや、これは詠唱か? まてまてまてまて、魔法を見せろとは言ったが最上級の魔法でも発動する気か!?
俺の心配とは裏腹に、エリィが魔法を完成させてしまった。
「ーー切り裂け、ウィンドカッター!」
フワァ~~
「…………」
詠唱が完了し、確かに魔法は発動した。だが、それは手のひらから優しい風が出て周辺の草を少し靡かせただけだ。ウィンドカッターと言えば圧縮した風の刃で対象を切り裂く魔法。
そのはずが、エリィは風を放出しただけだ。
さらに言えばーー
「あー! 出なかったぁ……」
「なぁ、なんで魔法に詠唱を入れたんだ?」
「えっ? 魔法は詠唱が付き物だよ?」
……マジかよ、そうかそうですか……。この世界ではその認識なんだな。
その後もエリィに何度も同じ魔法を見せてもらったが、毎回長い詠唱と魔法の発動はしたりしなかったりと散々な結果だった。
エリィも魔法を見せようとして失敗続きに少し涙目になっている。
うん、こりゃ修行が必要だな。
そもそも詠唱なんてのは具体的なイメージがあれば必要なくなる。最上級の魔法では詠唱をする事により威力や持続時間を長くして効率よくなる場合もあるが、大規模な戦争ぐらいにしか使わない。
エリィを見てて思ったのは、そのイメージが少ないのだろう。
「うぅ……いつもなら成功するのに……」
「あー、うん。ありがとう。いつもこんな感じなのかな?」
「いつもは3回に1回は成功するもん! 今日は運がなかっただけだもん!」
涙目でこちらを睨みつけられてもなぁ。でもこれで確信した。この世界は魔法を使うのに詠唱が必要だと勘違いしており、魔王率いる軍勢に負けているのはそこもあるのだろう。
毎回だらだらと詠唱していたら格好の的になる。
まずはエリィを俺までとは言わずも、魔法のレベルを引き上げてやらないとな。
「よしエリィ、俺と一緒に修行しようか」
「えっ?」
「お父さんを探すんだろ? それならまずは誰にも負けずに生きていく力が必要だ。そうだな、手始めに「グボォォォ!!」」
エリィに優しく話しかけていると、森の中から大きな咆哮が聞こえた。
声の方へ振り返ると、あの四つ目の猪がこちらに向かって前掻きをしている。
殺したはずの獲物が生きている事にでも苛ついているのだろうか。
「あっ……あれは……」
「フォレストボア……だったか?」
「違う!! さっきもおかしいと思ったけど、あれは魔獣だよ!! な、なんでこんなところに……」
「ほぉ?」
魔獣ね。あの女神が言ってた奴か。女神の本棚にもあったなぁそんな奴。
魔を取り込み進化した獣……略して魔獣だったか。
ちょうどいい。こいつを実験に今の魔力でどこまで通用するかを把握しておくか。
「エリィ、あいつは美味いのか?」
「えっ? あ、まぁフォレストボアからの進化であれば肉は……って食べる気なの!?」
「しっかり見ていろ。魔法の使い方をレクチャーしてやる」
俺はエリィの頭をポンと優しく触れると魔獣の前に立ちはだかった。
0
お気に入りに追加
146
あなたにおすすめの小説
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

こちらに、サインをお願いします。(笑)
どくどく
ファンタジー
普通の一般家庭に生まれた悠は、とあるきっかけでいじめの犠牲者になってしまった。
家族も友達との関係も段々と壊れて行く。そんな中で、もがいていく悠もまた壊れていった。
永遠のように長いと感じる毎日。だがその毎日もまた壊れてしまう、異世界への召喚によって。
異世界で自分の幸せを壊すきっかけになった力に憧れて悠は自由を手に生きて行く
契約無双のお話です。
いろいろ初めてなのでお手柔らかに
転生リンゴは破滅のフラグを退ける
古森真朝
ファンタジー
ある日突然事故死してしまった高校生・千夏。しかし、たまたまその場面を見ていた超お人好しの女神・イズーナに『命の林檎』をもらい、半精霊ティナとして異世界で人生を再スタートさせることになった。
今度こそは平和に長生きして、自分の好きなこといっぱいするんだ! ――と、心に誓ってスローライフを満喫していたのだが。ツノの生えたウサギを見つけたのを皮切りに、それを追ってきたエルフ族、そのエルフと張り合うレンジャー、さらに北の王国で囁かれる妙なウワサと、身の回りではトラブルがひっきりなし。
何とか事態を軟着陸させ、平穏な暮らしを取り戻すべく――ティナの『フラグ粉砕作戦』がスタートする!
※ちょっとだけタイトルを変更しました(元:転生リンゴは破滅フラグを遠ざける)
※更新頑張り中ですが展開はゆっくり目です。のんびり見守っていただければ幸いです^^
※ただいまファンタジー小説大賞エントリー中&だいたい毎日更新中です。ぜひとも応援してやってくださいませ!!

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

ズボラな私の異世界譚〜あれ?何も始まらない?〜
野鳥
ファンタジー
小町瀬良、享年35歳の枯れ女。日々の生活は会社と自宅の往復で、帰宅途中の不運な事故で死んでしまった。
気が付くと目の前には女神様がいて、私に世界を救えだなんて言い出した。
自慢じゃないけど、私、めちゃくちゃズボラなんで無理です。
そんな主人公が異世界に転生させられ、自由奔放に生きていくお話です。
※話のストックもない気ままに投稿していきますのでご了承ください。見切り発車もいいとこなので設定は穴だらけです。ご了承ください。
※シスコンとブラコンタグ増やしました。
短編は何処までが短編か分からないので、長くなりそうなら長編に変更いたします。
※シスコンタグ変更しました(笑)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる