自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり

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番外編

番外編③:子供と子供④

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「よし、一通りの事は教えた。俺の言った基礎を毎日欠かさない事、わかったな?」
「はい、師匠!」

 ケイドとガロの修行は5日が経っていた。
 最初に比べれば、ガロの動きは格段に良くなった。
 走り込みや筋トレ、ケイドと一緒に動きの型の練習。
 毎日朝から晩までみっちりとこなした。

 ガロは一言も弱音を吐かなかった。
 辛く苦しい修行でも、終われば明るい未来が来ると信じて。
 基礎の重要性はこの数日で身に染みた。
 まだまだ毎日出来ることがある。
 これからも自分は成長し続けられると考えると、毎日が充実していた。

「俺は明日の朝帰る。まぁ……また会える日を楽しみにしとくよ」
「僕も毎日言われた事を欠かさずやります。師匠、本当にありがとうございました!」

 最後の日の夜。
 ガロはケイドに精一杯のお礼を言うとその場を後にした。
 5日間だけでは全て教える事は不可能。
 ただ前向きなガロはどんどん吸収していった。
 ケイドも久しぶりの指導を満喫し、あとは依頼人の元へ帰るだけだ。
 リムもケイドを待ち焦がれている事だろう。

「それじゃ、俺も帰るとしますかー!  待ってろよリムー!」



 ◇



 この5日間、バークはガロに会えなかった。
 この前のをマザーに見られ、こってり絞られた腹いせをしたかったが、いくら探してもガロは見つからない。
 いや、朝食と寝る前には見ている。
 次街で会ったらボコボコにしてやると考えていた。

 その日も朝からガロを見ていた。
 いつも朝食が終わるとガロはすぐに行方をくらます。
 しかしその日はいつもと違った。
 朝ごはんを食べ終わってもガロはそこにいたのだ。

「おいガロ、ちょっとツラ貸せよ」
「……いいよ」

 バーク達が少し驚いた顔をする。
 いつもなら断られたり、逃げられたりするが今日は違う。
 むしろガロがバークを睨んでいるようにも見えた。

 生意気な目ーーバークにはガロがそう映っている。
 席を立ち大人が入ってこない場所まで来るように伝えると、ガロはそれに素直に従った。

(こいつ……変な度胸でもついたのか?)

 別にガロは見た感じ変わったところはない。
 バークが考えられるのは森での出来事だ。
 もしかしたらリーンラットでも倒して自信がついたのかもしれない。
 それでもバークより弱いのは変わっていないはずだ。
 取り巻きの2人もガロが逃げないように後ろからついて来る。


 向かった場所は街外れの人気がない場所。
 ここなら叫んだとしてもすぐに人が来る事はないだろう。
 バークが立ち止まると、ガロも一緒に歩みを止めた。
 取り巻きもバークの元へと向かう。

「お前のせいでマザーに怒られた。だからこれは制裁だ」
「……くだらないね」
「何?」

 バークの言葉を吐き捨てるようにガロが返す。
 早速拳を握って、両手でぶつけるように音を鳴らし始めた。
 これからお前を殴るーーそう見せつけるために。

「ガロのくせにぃぃぃ!」

 バークが助走をつけて拳を思いっきり振りかざした。
 いつものように狙うのはガロの頭。
 そこを殴って怯んだ後に違う場所を殴る。
 まずはムカつく表情から潰しに行った。

 ガロがその拳を見ると、足を半歩動かして拳の直線上から体をそらす。
 バークの拳は目標を見失い、バークの体ごと隙を作ってしまう。

「なっ……!」

 さらにガロは腰を落として足を踏み込む。
 ケイドに教わった力を乗せた殴り方。
 まずはバークの空いた脇腹へ拳をめり込ませる。

「フンっ!」
「ぬがぁ!?」

 空いた脇腹を貫く勢いでガロの拳がめり込んだ。
 その衝撃はバークを軽く吹き飛ばし、地面をのたうち回させる。
 口から撒き散らしながら。

「「バーク!?」」

 驚いたのは取り巻きだ。
 いつもと違う光景に身体が固まってしまう。
 それをガロは逃すまいとすぐに駆け寄った。

 1人目には頬を斜め下から思いっきり振り上げる。
 拳が嫌な音を立てながら1人目をダウンさせた。
 さらに振り向きざまに2人目のみぞおちに蹴りを放つ。
 めり込んだ足には嫌な感触が残り、2人目もそのまま地面へ転がりまわった。

「ぐあぁぁぁ!!」
「いてぇ!!  いてぇよぉぉぉ!」

「……僕が受けたのは……こんなものじゃ足りない」

 ガロは拳を握ってまっすぐにバークを見た。
 周りで痛いと泣きながら訴える2人。
 バークもやられた脇腹を抑えながら泣いている。

「僕は辞めてと言った……。でもお前らは辞めなかった……」

 恨みつらみ復讐心。
 ガロの心は真っ黒だ。
 目の前のバーク達を殺す。そう気持ちが走っている。

「や……やめ……」
「僕が何回同じ事を言ったんだ?」

 ガロがバークのこめかみを横に蹴り飛ばす。
 頭を地面に思いっきりぶつけたバークの鳴き声がさらに跳ね上がった。
 ここの地面が土な事ぐらいが彼らの救い。
 誰もいない場所にガロを連れて来たのは彼らなのだ。

「いだいよぉ!!やめでよぉぉぉ!」
「…………」

 バークの目にはガロはなんと映っていたのだろうか。
 人間?  悪魔?  鬼?  魔人?
 地面を這っていても蹴られる。
 痛いと言ってる場所をまた殴られる。
 バークにとっては地獄の時間だ。

 ガロもそれは同じだった。
 殴れば拳が痛くなる。
 蹴れば足もジンジンとした痛みを抱える。
 しかしそれ以上に復讐したい気持ちが強かった。

「あ……、あ……」
「バーク……これで最後だ。死ね」

 バークへ跨るようにして立つガロ。
 涙と血でバークの顔はもうぐちゃぐちゃだ。
 そしてその顔へ力一杯握りしめた拳をガロが振りかざす。

「そこまでだ」

 その拳は空中で止められた。
 力強く握った拳が動く気配はない。
 そしてその声の持ち主はーー

「し、師匠……」
「今から一発だけ、お前を殴る」

 驚いた顔をしているガロにケイドの張り手が炸裂した。
 その音は大きな乾いた音を立てる。
 一瞬だけガロが空中に浮き、そのまま地面へと投げ出された。

「師匠……」
「頭は冷えたか?  ……で、復讐を果たした気分はどうだ」

 ガロは叩かれた頬に手を当てながら周りを見回した。
 取り巻きの2人は相変わらず地面に突っ伏し泣いている。
 バークにいたっては、恐怖のあまりに漏らしていた。
 惨めな姿。そんな奴らを殺そうとしたガロ。
 急激にガロの熱が冷めていくのを感じた。

「な、復讐なんてするもんじゃない。残るのは、無駄な時間を使った虚無感だけだよ」

 そう言ったケイドの顔はどこか寂しそうに見えた。
 熱くなったガロの頬。今までどんな暴力を受けても熱いと思ったことはない。
 自分はバークを殺そうとした。それが普通だと思った。
 やられたらやり返す。やられる前にやる。
 でも、ケイドはガロにそれだけでないと気付かせた。

「でも師匠、昨日帰ったんじゃ……」
「……弟子が間違った道を歩もうとしたら、止めるのが師匠の務めだよ」

 ケイドが懐に手を突っ込むと、ポーションを取り出してガロに投げ渡して来た。
 それを使ってバーク達を治してやれ、という意味だろう。
 ガロはそれに素直に応じる。

 近くで見たバークは本当に哀れだった。
 なぜガロ自身がここまで固執したのかわからない。
 ポーションの蓋を開け、体全体に振りかけてやると傷が癒えていく。

「「「ひぃぃぃ……」」」

 すっかり治ったバーク達。
 だが、体の傷が治っても心の傷までは消すことができない。
 目の前のガロに対して恐怖心が植え付けられてしまった。

「……行けよ」
「う、うわぁぁぁぁ!!!」

 ガロが口を開くとバーク達は一目散に逃げていった。
 復讐は終わった。もうバーク達がガロに絡んでくることもないだろう。
 これからも顔を合わせはするが、今までのような事はなくなる。
 あの地獄だった日々から解放されたのだ。

「大変なのはこれからだ。ガロ、お前はこれからどうしたいんだ?」
「えっ……」

 これから……つまり未来。
 ガロは何も考えていなかった。
 漠然とした復讐心だけで過ごしており、その後のことは何もない。
 ケイドに言われて、自分がしたい事を自分が知らないことに初めて気付いた。

「まだまだ若いんだ。ゆっくり見つけて、今度はちっぽけな復讐なんかじゃなく、大きな夢を持ちな」

 そう言うとケイドは踵を返してその場から立ち去り始めた。
 その背中は大きく、ガロの目を離さない。
 大人の背中ーーいや、おとこの背中だ。

「師匠!僕も師匠みたいに……心も強くなります!そして……一緒に冒険を!!」
「おーう!楽しみに待ってるからな!」

 ケイドは振り返らない。
 右手を上にあげて拳を握る。
 ただそれだけでも男同士の気持ちは伝わるものだ。

「ガロー!!」
「……サシャ!?」
「心配したんだよ!?ガロが連れていかれたって聞いて……」

 サシャがガロに飛びついてきた。
 いつもガロの事を心配してくれるサシャ。
 時にはうざったいと思うことはあったが、こうして一区切りついた後はその優しさが身に染みる。
 ガロはサシャの両肩に手を乗せると、真っ直ぐに目を見て口を開いた。

「ごめんなサシャ。俺、強くなってサシャを守るよ」

 バークにサシャが突き飛ばされた時、ガロは何も出来なかった。
 でも今は違う。まだ力は小さいかもしれないが、もう今までのガロではない。
 これから先、自分を鍛え抜いて誰にも負けないようになると決めた。

 サシャはその言葉にびっくりしてしまった。
 ある意味告白と取れるかもしれない。
 ガロの目は真っ直ぐで、今までの黒い感情が抜けているのがわかる。
 何が起きたのか……サシャにはわからないが、ガロの悩みが消えている事を素直に喜んだ。

「ふふっ。謝らないで?私はガロの良い所いっぱい知ってるから!」
「そうだね……ありがとう」
「うん……ガロはやっぱり笑顔が素敵だよっ」



 ◇



「もー!  ケイドはこんな美人を放ったらかして何をしてたんですか!?」
「ごめっ!……ごめんよリム!痛いから!痛いから叩かないで!」
「心配したんだからねー!!」

 ケイドは依頼の報告が終わり家へと帰ってきた。
 もちろん出かける前にはリムに何日か家を開ける話はしてある。
 しかし予想以上にリムは寂しかったらしく、ケイドが帰ってくるなり涙目で寂しさを訴えてきた。

「ほら、お土産持ってきたから、な?落ち着こ?一回落ち着こう?」
「むー……次はちゃんと連れてってね!」

 ケイドが渡したのはワイルドウルフの皮を使ったマフラーだ。
 防寒性にも優れ、少しもふもふした感触が首回りを暖める。
 普通に買えばかなり高額なものになるだろう。
 今回の森への寄り道が功を奏した。

「でもケイド?なんかいい事あったのー?」
「うん?そう見えるか?」
「うん!ずっとニコニコしてるもん」
「ふふふ。まぁなー!」







 数年後。
 孤児院から冒険者へとなり、数多のダンジョンや依頼をこなすツワモノが現れる。
 単独でSランクへ到達した冒険者は、力なき人々を救い続けた。
 時には優しく、時には厳しく。彼には尊敬する師匠がいたらしい。
『僕には目指すべき人がいる。その人と肩を並べて一緒に歩きたいんだ』
 彼が酒の席でこぼした、自分の目指す姿。

 国王サラ・ワードクリフの命令により、強大な魔物の大群を討伐にも向かった。
 魔物には異常種や特異体も多く、苦戦を強いられる。
 そこに英雄が現れ、冒険者は力を振り絞りその大群を撃退した。
 辛く厳しく長い戦いだったが、彼は常に笑顔を忘れなかった。
 周りを鼓舞し、最前線で戦い続けた。
 英雄を間近で見た1人でもある。

 ーーSランク冒険者『ガロ』の生涯より抜粋
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