自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり

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番外編

番外編③:子供と子供③

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 ガロが孤児院へ帰ると、バーク達が嫌な顔をしていた。
 それを無視して部屋へ戻ろうとすると、わざと聞こえるように言葉を発してきた。

「なんだよ、死んでねーじゃん」
「ーーっ!」

 立ち止まり、思わず睨みつけようとするガロ。
 だがここで争ってもまた殴られるだけだ。
 それならケイドに力を教わってから復習する方がいい。
 少し深い深呼吸をするとその場から立ち去ろうとした。

 だがそこに取り巻きの手が伸びてくる。

「おいおい、無視してんじゃねーよ」
「そうだぜ?  ガロのくせに」

 強制的に振り向かせようと腕を握られ引っ張られた。
 それをガロが振り払おうとするが、相手の方が力が強い。
 なんとか払いのけようとガロが抵抗していると、そこに女の子が現れた。

「やめなさいよ!」
「でたー。うるさいな、俺たち遊んでるだけじゃん」

 取り巻きが悪態を吐く。
 ガロとバーク達の間に立ちふさがる様に両手を広げてサシャが立っていた。

(また守られてる……)その光景にガロがまた気持ちを落とす。
 自分が弱い立場なのだと思い知らされているように感じてしまうのだ。

「サシャ、そんな弱っちいのほっとけよ」
「我慢してるガロの方がバークの何倍も強いわよ!」
「んだと!」

『ガロよりも弱い』と言われたバークが激昂する。
 見下している相手よりも弱いなどと言われたくない。
 バークは怒りに任せてサシャに平手打ちをした。

「ーー!!」
「サシャ!」

 慌ててガロがサシャに駆け寄る。
 風船が割れる様な音を立てると、サシャが床に倒れ込んでしまった。
 サシャの頬っぺたは赤く腫れ、目には涙が見えている。

(ふざ……ふざけるなよバーク……)

 サシャが殴られ怒りが頂点に達した。
 ガロは気付くと拳を握り、バークへと殴りかかる。

「うおおおおお!」

 しかし渾身の一撃はバークに避けられてしまった。
 さらに取り巻きに両腕を掴まれ、抵抗できなくなる。

「ふざけんなよ!お前!!」
「はぁ?お前みたいなひ弱がーー」
「何してるの!!」

 その時、たまたま通りかかったマザーが声を上げた。
 バーク達は一気にその場から逃げる様にしていなくなる。
 あれは素早い虫並みの動きだ。
 それを見たマザーが猛ダッシュで追いかける。

「やべぇ!マザーがキレたぞ!」
「待ちなさいー!!」

 一瞬で逃げ出したバーク達をマザーが追う。
 残ったサシャとガロ。
 サシャは涙目になっていたが特に当たりどころが悪かったなどはなさそうだ。
 少し安心したガロが口を開く。

「サシャごめんな。僕が弱いばかりに……」
「ううん、そんな事ないわ。ガロは強いの私は知ってるからーー」

「知ってるから謝らないで」ーーそう続けようとしたサシャの言葉が詰まる。
 ガロの顔は酷く怒りに満ちた表情で、それを見たサシャは言えなくなってしまった。
 別にガロを弱いと思ったことはない。
 だが、本人にどんな話し方をしても伝わらないだろう。

 ガロはサシャから手を離すと自室へと戻っていった。
 ベットに腰掛け、膝を抱えて一点を見つめる。
 考えることーーそれは明日ケイドに何を言うべきか……。

 バークの事は恨んでいる。殺したいぐらい恨んでいる。
 だが今日の反応を見る限り、正直に話しても教えてはくれないだろう。
 ただ力さえ手に入ればいい。
 バークを殺す力。今までされた事に対して何十倍にもして返したい。

(…………)

 少年は真夜中を丸々使って頭をフル回転させ続けた。




 ◇




 次の日の朝。少し肌寒い。
 孤児院で朝食をすませると、ガロは誰にも会わない様に出て行く。
 目指すのは森の入り口。ケイドのいる場所だ。

 森の入り口へはすぐに到着した。
 ワイルドウルフが繁殖期に入ってるせいか、ここにくるまで誰にも会っていない。
 ガロに怒鳴り声を上げ警告したケイド自身が森にいるのは少し滑稽だ。

 しかしケイドはそこに寝泊まりできるぐらい強い。
 並みの冒険者も苦戦するワイルドウルフを一瞬で葬った実力。
 ガロもその力を手に入れれば、もうバカにされることはないとわかっていた。

 森へ入って少し奥へ行くとケイドと待ち合わせた広場に出る。
 広場といってもたまたま木が生えてないだけの場所だ。
 獣道に間違いはない。
 ガロが近づいて行くと、風船が割れる様な音が聞こえてきた。

 なにかと戦っているのだろうか。
 もしかするとワイルドウルフが戻ってこない仲間を心配してケイドを襲いかかっているのかもしれない。
 万が一そうならガロは間違いなく足手まといとなってしまう。
 念のため音を立てない様に近づき、木の陰からケイドのいるはずの場所を見た。

 そこにはケイドただ一人だけがいた。
 しかし全身に汗を流しているのがわかる。
 その汗は蒸発しているのか、ケイドの体から湯気となって上に登っている。

 ケイドはゆっくりと自分の動きを確認していた。
 踏み込んだ足から体に伝わる力。
 流れを殺さない様に足から腰、腰から背中、そして腕。
 腕に伝わってきた力を拳に集め、真っ直ぐに拳を突き出す。
 その拳が空中で「パンッ」と軽い音を立てていた。

 これはケイドの日課だ。
 毎日力の入れ具合、加減、体の異常がないかを確かめる。
 側から見ればゆっくりとした踊りにしか見えないかもしれないが、その尋常じゃない汗の量が大変さを物語る。
 だがそれを毎日繰り返す事により、体に染み込ませ、流れる様な動きを可能とする。

(す、凄い……)
「お?  おはよう!」
「あ……おはようございます……」

 危険がない事がわかったガロだったが、ケイドに声をかけられるまでずっとその動きを見続けていた。
 ケイドはガロに声をかけると、持っていたタオルで体の汗を拭き始める。

 上半身は、鍛え抜いた鋼の様な筋肉の鎧。
 その筋を通る様に汗が流れていた。
 一通り拭き終わると、ガロにこっちへ来るように手招きをしている。

 ケイドが指をさした場所には二本の丸太が横たわっていた。
 隣にはワイルドウルフが解体されており、丸太を挟むように肉が串に刺して焼いている。
 その匂いは獣臭さはなく、むしろ香ばしい食欲をそそる匂い。
 朝ごはんを食べたばかりのガロも唾を飲み込んでしまった。

「まぁそっち座ってから話そう。俺は朝飯まだなんだよ」

 ケイドも一緒に丸太へ座ると肉を食べ始めた。
 ガロも一本貰うと、それにかぶりつく。
 塩だけのシンプルな味付けではあるが、思ったよりも硬くない。
 むしろジューシーな食感と味が口を支配してきた。

「おい……しい!」
「だろ? 繁殖期は体力を使うからいい肉になるんだ」

 それから肉を食べながらガロは色んな事をケイドに聞いた。
 ケイドは特別依頼でこの街の周辺まで来ているらしい。
 その依頼も終わりを迎え、帰るときにワイルドウルフを土産にしようと森へ来たのだった。
 家には帰りを待つ家族もいる。
 それを語るケイドは少し恥ずかしそうな顔をしていた。

(家族……か)

 ガロに家族はいない。
 昔は父親だけいたが、冒険者として死んでしまっている。
 今は孤児院に身を寄せているひとりぼっちだ。

 その時に浮かんで来るのがサシャの存在。
 栗色の髪でおさげにしている。
 そばかすが似合う、目の大きい女の子。
 小さい頃から一緒に暮らしていた。

 しばらく歓談をしていたが、ガロが真剣な顔をしてケイドの名前を呼んだ。
 事態を察知したケイドも緩んでいた顔を締める。

「んじゃ聞こうか。なぜ力が欲しい?」
「……それはーー」

 やはり最初に出てきた言葉は『復讐』だ。
 しかしそれでは昨日と同じ。
 用事も済んだケイドはいなくなってしまうだろう。

「家族……いえ、友達を守るために必要なんです」
「んー、そうか……。その言葉に偽りはないか?」

 ガロの言葉に少し考えたケイドが口を開く。
 その目は全てを見通すような目をしており、ガロは吸い込まれそうな感覚に陥る。
 ここで引いてはダメだ。ガロもそう思いながら目を見つめ続けた。

「僕は……強くなって、冒険者になりたい。大切な人を守るためにも力が欲しいんです」
「………………わかった。なら時間が許す限り教えるよ」

 少し長い沈黙があったが、ケイドはガロを信じた。
 ホッとした表情のガロ。力さえ貰えればあとは自分の使い方だけだ。
 ケイドはガロに教えた後にいなくなる。
 復讐はそれからでも遅くはない。

 ケイドは帰って報告しなければならないので、あまり時間はない。
 しかしガロの境遇を放っておけるほどの器量もなかった。
 時間にして約5日が限界だろう。
 動きや力だけでなく、気持ちの部分もガロには伝えたい。

(もう……失敗は出来ないな)

 ガロの人生を背負う気持ちで。
 ケイドは過去に育成を失敗した弟子たちの姿をガロに重ねていた。
 もう失敗は許されない。

「よし、まずは体の使い方や基礎の部分、それをしてから打ち込みに入ろう」
「はい!ケイド師匠!」

 たった5日間のガロの修行が始まった。
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