自分が作ったSSSランクパーティから追放されたおっさんは、自分の幸せを求めて彷徨い歩く。〜十数年酷使した体は最強になっていたようです〜

ねっとり

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番外編

番外編③:子供と子供①

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 森の中。
 入り口から比較的近い場所に少年がいる。
 彼の名前はガロ。年齢は12歳。
 身長143cmの少し小柄な男の子。
 その子が地べたに座り、目の前の魔獣を見ながら震えている。

 ガロは今、絶体絶命のピンチを迎えていた。
 目の前には鋭い牙を持ったワイルドウルフが3匹、ガロを見据えて唸り声をあげている。
 ガロの持っていた短剣はすでに遠くの茂みへと消え、対抗手段はない。
 このままワイルドウルフの爪と牙にやられ餌となるだろう。

「グルルルル……」
「……はぁ、はぁ、はぁ……」

 周りの雑音は聞こえない。
 漠然とした死の恐怖と自分の息遣い。
 今まさに死なんとしていた。



 ◇



 ガロは孤児院で育った。
 幼い頃に冒険者だった父と母を亡くし、孤児院へと預けられた。
 そこには同じような境遇の子供達がいっぱいおり、一緒に過ごすことになった。

 しかしガロはその体の小ささからいじめられていた。
 いつも同じ年齢の女の子に守られ、自分に力がないことを嘆いた。
 だがどうすることもできない。
 同じ歳の男3人組に今日もいじめられている。

「はっ!  お前みたいなもやし気持ち悪いんだよ!」

 リーダー格の男の子……名前をバグと言うーーがガロを殴る。
 その隣で取り巻きの男の子達はヘラヘラと笑うだけだ。
 ガロもやり返そうとした事はあるが、今度は3人で襲いかかってくる。

 ある程度の暴言は吐かれなれた。

 汚い。
 うざい。
 気持ち悪い。
 ムカつく。
 クソ。

 ガロも無視をし続けたが、それでもバーク達はちょっかいを出してきた。
 そしていつも同じ女の子に守られる。

「やめなさいよ!」
「うわー!  女に守られるとかクソだせぇー!」

 いつもガロを守ってくれる女の子ーー名前はサシャと言うーーが心配そうにガロを覗き込む。

「ガロ、大丈夫?」
「……僕に構わないでよ」

 ガロは口から出た血を拭うと、サシャを無視して孤児院へと戻ろうとする。
 だが体の節々は痛い。少し歩くだけで少し休みたくなる。
 ふらついてしまうガロにまたサシャが声をかけてきた。

「ガロ……」
「いいんだよ、ほっといてくれよ!  サシャも……かっこ悪いと思ってるんだろ……」
「そ、そんなことーー」

 ガロはサシャを一度だけ見ると、無言になり歩き始めた。



 その日は朝からガロは孤児院を出て1人で散歩していた。
 またバーク達に捕まって嫌なことをされたくない。
 だから街でぼーっと人を見るのは好きだった。

 街には色んな人がいる。
 特にガロが好きなのは冒険者だ。
 かっこいい鎧に武器、魔法使いも精錬されているような雰囲気を持っている。
 いつか自分も冒険者になり、世界を旅したいと考えていた。

 日も暮れる頃、ガロは1人で帰路についた。
 孤児院に着いたらすぐ夕飯の時間になる。
 バークに会わずにやり過ごせば、今日も平和な1日だと言える。
 しかし、帰り道の途中でバーク達と出会ってしまった。

「よぉひ弱なガロ。お前狩りはした事あるか?」
「……なんだよ」

(最悪だ)そんな心境のガロはつい言葉尻が強くなってしまう。
 ガロが睨みつけるようにバークを見るが、そんな視線を御構い無しにバークが言葉を続けた。

「俺たち森に狩りしに行くんだが来るか?  あ、お前弱いから無理か」
「僕は……弱くない」

 森への狩り……森の入り口付近であれば比較的安全だ。
 入り口の近くにも兎などの小動物はいる。
 それを狩って、食事にしたり皮を売ったりして生活していた。

 しかし今の時期は危険だ。
 森の中に住む『ワイルドウルフ』は繁殖期を迎えている。
 いつもよりも気が立っており、餌を求めて入り口近くまで来ないとも限らない。
 万が一見つかってしまえば、そのまま餌になってしまうだろう。

「まぁビビってるひ弱は来れないだろうなぁ?」
「「プププ!  クスクスクス……」」

 わかりやすい挑発を繰り返すバーク達。
 彼らも今森が危険なのは知っているはずだ。
 それでも森に行こうとするのは何かあるのだろうか。

 ワイルドウルフはその名の通り凶暴だ。
 その毛並みは高い値段で売ることができるが、並みの冒険者では歯が立たない。
 ましてや子供だけで向かうなど自殺しに行くようなものだ。

 しかしガロはその挑発に乗ってしまう。
 散々大人達から危険だと言われているが、ここで引いたらまたバカにされるからだ。
 少しでも変わりたい、これでバーク達を見返したい。
 そんな気持ちもあったのだろう。

「……ビビってないし……」
「んじゃ決定な!  明日逃げんなよ?」
「……」

 こうして彼らは森へと向かうことになった。
 次の日は朝から孤児院のマザーに出かけて来ると伝え出発する。
 森へ行くと言えば引き止められるだろうから、比較的平和な草原で遊ぶと言い残して。

 マザーはそれを大変喜んだ。
 いつもバーク達に虐められているガロが一緒に遊びに行く。
 彼らは仲直りしたとまで思い込み、元気よく送り出した。
 一緒に昼ごはんも持たせて。


 森へは街から20分も歩けば到着する。
 入り口は不穏な雰囲気に包まれており、あれだけ威勢のよかったバークも唾を飲み込んでいる。
 やはり森に入るのは危険であろう。

「お、おいバーク。本当に行くのか?」
「ああああ当たり前だろ?  お前らもガロみたいにビビビビってんのか?」

 人間には危険信号を察知する能力がある。
 完全に本能が警笛を鳴らしているが、小さいプライドのせいか誰も帰ろうとしない。
 ガロも少し震えが訪れている。

「よ、よし!ここから先は別れて進むぞ!お日様が傾いた頃にここに集合な!」

 バカだ。完全にバカがいる。
 こんな危険な森に分かれて入るなど言語道断。
 だがバークは足を止めずに進んでいる。
 ガロも行かなくてはならない。
 ここで引き返せばまた虐められる。
 ガロは勇気を振り絞って森へと一歩進んだ。


 しばらくすると森からバークが出てきた。
 腰巾着の2人も一緒だ。何度も何度も振り返って森を見ている。
 するとめんどくさそうにバークが口を開いた。

「いいんだよ。あいつ嫌いだから死んだら面白いじゃん」
「で、でもよぉ……」
「マザー達にも怒られて……」
「あいつが勝手に『僕には勇気がある!』って突っ込んで行ったんだ。な?  そうだろおい」

 バークは最初からガロを置き去りにするのが目的だった。
 自分が好きな女の子はいつもガロを庇う。
 それならそいつがいなくなればいい。単純なことだ。
 マザーには怒られるかもしれないが、ガロがいなくなるなら問題ない。
 そう考えての行動だった。

「いいから。行くぞ」

 振り返り続ける2人を尻目にバークは街へと向かい始めた。
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