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奇跡
第7話:年齢で自分の限界があると誰が決めた?俺は諦めてたが、生きてりゃいいことはあるもんだ。
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『おい聞いたか?あの噂』
『あぁ知ってる。ザブラがとうとう魔王討伐に出発したんだろ?』
『ちげーよ。おっさん新米冒険者って知らねーのか?』
『あー……あ!あれか?おっさんなのに冒険者始めたって笑われてるやつ』
『そーそー!そいつ白雪草を取りに行って1年以上帰ってこなかったらしいぞ』
『ぶはっ!白雪草でか!?あんなん超初心者クエストじゃねーか!』
『だろ?色んな意味で今注目されてるぜ』
◇
景色の変化がない街道。
道は整備されているものの、馬車はガタガタ揺れることはある。
その馬車は馬2頭に引っ張らせており、黒を基調とした職人の腕が光るような構えを持っている。
乗り降りするドアの部分には紋章が刻まれており、太陽と同調して光っていた。
その馬車の中で優れない顔をした女性が1人、窓から景色を眺めている。
先程も述べた通り、景色に代わり映えはない。
たまに木が通過するが、彼女の目線を動かすことはなかった。
「じぃ?つまんない」
彼女が馭者の席まで近づくと、後ろ姿を向けている白髪混じりの男性に向かって、少し大きめの声を出した。
単純明快。彼女は長い間馬車に乗り続け、すでに飽き飽きしていたのだ。
じぃと呼ばれた男が首だけ少し振り向くと、彼女に向かって優しい口調で話しかけた。
「お嬢様。危のうございますので、しっかりと席にお付きください」
「じぃはそーやってすぐ私を子供扱いする!」
彼女は怒っているアピールをするために頬を膨らませた。
確かに容姿だけ見れば17.8ぐらいだろう。
女性らしい体つきと、その童顔からは想像できない豊満な双丘。
馬車が揺れるたびに、その柔らかそうな双丘も上下に震えている。
彼女の名前は『サラ・ワードクリフ』。
この土地を収めている王国『ダブアン』の第3王女だ。
この世界は魔王に脅かされており、人族同士の争いほど無駄なものはない。
そこでダブアン国は他国との友好強化や同盟加入のためサラを嫁がせようとしていた。
ダブアン国は小国であり、魔王から狙われれば吹き飛んでしまうほど。
そこで大国である『リーパー』の第8王子とのお見合いに向かわせている最中だ。
しかしサラはこのお見合いを良しとしていない。
国のためなのはわかるが、自分の幸せはないのかと。
王家とはいえ弱小国家に生まれた自分は、自分の意思を持つことを許されないのかと憤慨した。
だが、大好きな父と母に頼まれては断れない。
「会うだけなら……」と今回のお見合いを渋々了承した。
両親の泣いて喜ぶ顔は忘れられないだろう。
国を出てすでに3日は経っていた。
「サラお嬢様は旅が嫌いかい?」
馬車の横を歩いている男がいる。
彼は王女の護衛として雇われた冒険者だ。
雇った人数は全部で6人。
あまりお金がない国が、娘を守るために大金をはたいて雇い入れた。
6人全員が冒険者ランクAを誇っており、戦闘能力も高い。
道中も危険なくこれたのは彼らがいたからだ。
「景色も同じ、ただここにいるだけ。つまらない以外何もないわ」
少し顔をそっぽ向かせながらサラが答えた。
この年頃の女性が何もせず馬車に居続けるのは確かに苦痛だろう。
最初のころは魔物や魔獣を見て興奮した。
それをバッサバサ倒す冒険者にもだ。
だが繰り返し同じ光景を見ていると飽きてしまう。
彼女にはいま刺激が足りなかった。
(ほんと、何か起きてくれれば面白いんですけどね)
自分を守っている冒険者には不謹慎だが、何がドキドキするイベントがないかと思っていた。
旅に危険など無い方がいい。
それを彼女が知るのはもう少し大人になってからだ。
そんな平穏は突如壊れた。
先を偵察に行っていた1人が、慌てた様子で馬を走らせてこちら向かっている。
その姿を見た冒険者達に緊張が走り、何事かといった表情を作った。
じぃが馬車を止めてその冒険者を迎えいれると、リーダーの男が口を開く。
「何事だ!?」
「この先に盗賊団がいる!数は20、全員が武装している」
「……人数が厄介だな」
先ほどサラに話しかけた男が顔をしかめる。
彼はこの冒険者達のリーダーであり、統率力も高い。
ただの野党で、10人前後なら負けることはないが、その倍はいる。
別の道を使った方が安全に通れそうだ。
その事をサラに伝えるため、冒険者達がサラの乗っている馬車のドアを開けた。
「サラお嬢様。盗賊団は危険ですので、少し遠回りになりますが道を変更したいと思います。よろしいですか?」
「やだ」
リーダーの男の提案を即答で否定する。
これ以上馬車に閉じ込められてるのも退屈だし、その盗賊団とやらも見たい好奇心があった。
即答を受けた男に向かってサラが追い打ちをかける。
「貴方達はAランク冒険者なのでしょう?それなら盗賊団など簡単に制圧できるのでは?」
「腕に覚えがあっても人数差がありすぎます。もしサラお嬢様に危険が迫れば、国王も嘆かれます」
リーダーの男がじぃと呼ばれた男に目配せをする。
一緒にこの姫様のわがままを止めてもらいたいと懇願する目だ。
その目を受けてじぃも口を開いた。
「お嬢様、国王様にお嬢様の安全を約束された身ですので、どうかここは従ってはいただけませんーー」
話してる最中にじぃの肩が弓で貫かれた。
矢じりが肩を貫通し、サラの目の前で血が垂れ始める。
「敵襲!!」
「散開!!」
その言葉とともにリーダーの男がサラとじぃを馬車に放り投げるとドアを閉めた。
どうやら先に行っていた男をつけてきたらしい。
ニヤニヤした集団が冒険者達を取り囲む。
絶望的な人数差ではあるが、国王から依頼された身としては、何が何でも守らなければならない。
冒険者達も武器を構え、迎撃する体制だ。
「あの紋章……噂は本当だったか。王女誘拐とはいい金になるな。やれ!」
盗賊団の先頭に立っている男。周りの比べても頭一つデカイ大柄な男が、その頭皮を太陽に反射させながら叫んだ。
その声を馬車の中で聞いたサラが震え始める。
目の前には小さい頃から知っているじぃが、血を流しながら馬車の床に突っ伏している。
当たりどころが悪ければ即死していてもおかしくない。
緩やかに目の前の人間が死にに行く姿を見たサラに恐怖が宿った。
このままでは自分も死ぬかもしれないと。
馬車の小窓から外を見ると、むせかえるような血の匂いがしてきた。
さっきまで話していた冒険者と盗賊が殺し合いをしている。
これは模擬戦ではない。本当に命の奪い合いをしている。
冒険者が叫びながら盗賊を斬りふせる。
しかし数の差があり、一太刀、また一太刀と傷が増えるばかりだ。
彼らが魔獣と戦った時は殆ど誰も怪我をしていない。
連携や経験などからくる安全策を取っていたのだ。
そうとは知らないサラは、その戦闘をつまらないと評した。
しかし今はどうだ。
望んでいたわけではないが、血で血を洗う戦いが繰り広げられている。
剣同士が合わさった甲高い音。
切られた衝撃で傷から勢いよく血が吹き出る。
腕を失くしたもの、首と胴が離れた者、貫かれたまま動かなくなっている者。
ここは命を奪う戦場なのだ。
(うそっ……やだ……死にたくない……)
彼女に後悔が襲いかかってきた。
先程わがままを言った自分。
もしあの時素直に従っていれば、この光景はなかったかもしれない。
つまらないと言いながらも安全な旅が出来たかもしれない。
だがもう遅い。
盗賊団の7割以上を倒した冒険者だったが、残っているのは僅か2人だけ。
全身は傷だらけで鎧にも生々しい傷跡がある。
リーダーの男は口から血を流しながらも、まだ戦おうとしていた。
(ごめんなさい……ごめんなさい……!)
眼前に広がる惨劇を前に、彼女は謝り始めた。
誰にでもなく、何にでもなく。
ただ謝ることしか思いつかなかった。
その目からは大粒の涙が流れている。
しかし、どんなに謝ろうが現実は変わらない。
最後まで立っていたリーダーが、先ほどの大柄な男の剣で真っ二つになった。
「さて、お楽しみと行こうか」
大柄な男が馬車に近付いてくる。
目があった気がしたサラは思わず尻餅をつき後ずさる。
狭い空間ではそれも意味をなさないが。
しかしサラを守る一心でじぃが起き上がった。
「じぃ!?」
サラを一瞥し、ニッコリと一度だけ微笑む。
ダメだ。じぃは死のうとしている。そうサラも気付いた。
だが言葉で叫んでもじぃは止まらない。
サラの体もほとんど動かず、じぃを見つめるしかできない。
肩から血を流しながらも外に出て、じぃはドアの前に立ちふさがった。
両手を広げ、必ずサラを守ろうと必死の抵抗。
そんなじぃを見たハゲた男が怪訝な口調で口を開いた。
「あんだこのクソじじいは」
じぃは喋らない。
血を流しすぎたのだろう。意識も朦朧としながら、それでもドアの前からは動こうとしない。
ただひたすら無言で盗賊をじっと睨みつけている。
「めんどくせぇな。死ね」
(………!!)
サラの視線の先。
小窓から見えるにはじぃの後頭部と大男の振りかぶった腕。
じぃも殺される。自分はこのままこの盗賊に捕まり慰め物になるだろう。
受け入れたくない現実が目の前で起きている。
だが、彼女にはこの場を脱する手段はない。
(お父様、お母様。わがままな娘でごめんなさい……)
盗賊が腕を振り下ろした瞬間はスローモーションのようだった。
目を瞑り、親への懺悔をする。
じぃも自分の最後の抵抗を前に目をつぶった。
しかしその狂気がサラを、じぃを襲うことはなかった。
目をつぶった時に目の前の大男から「へむしっ!」と変な声が聞こえてくる。
薄っすらと目を開けると1組の男女がじぃを守るように盗賊団の方へ向いていた。
「危なかったなー」
「ほんとですよ!」
男は40代、いや30代後半だろうか。
黒に近い茶髪に少し白髪が混じっている。
声はやや渋く、生きている年月を想像させる。
身長は180cm前後。服の隙間から見える筋肉が鍛え抜いた鋼と錯覚出来るほどだ。
その隣には美しい金髪を腰まで伸ばしている女性。
後ろ姿でもわかるほどスタイルがいい。
こちらは若い声でもあり、年は18ぐらいだろうか。
「じーさん。ちょっと危ないから動かないでくれ」
男が振り返るとじぃに向かって笑みを見せた。
金髪の女性が男に「任せたわ」と一言いうとじぃの近くにしゃがみこんだ。
矢を折り抜き出すと、怪我をした部分の近くに手を当てて魔法を唱えている。
近くで見た女性は美しく、いい匂いまでしてくる。
じぃも若ければイチコロだっただろう。
「あ、あなた達は……」
じぃが唾を飲み込みながら口を開く。
女性はその問いに答える代わりに笑顔を見せた。
ある程度傷も癒えたのを確認すると立ち上がり男性の方へ振り向く。
……どうやら加勢の必要はないらしい。
最後まで立っていた大柄な男が倒れるのを確認すると、男がじぃの方へ振り向き笑顔を見せた。
馬車の小窓からはサラが男の勇姿を見つめていた。
サラの目に映った男は勇ましく、自分の窮地を救ってくれた英雄に思えた。
まだ半数ほど残っていた盗賊団は男に蹂躙され、息をしているかも怪しい。
……いや、すでに命は断たれている。
男の拳は一撃で生命を奪っていた。
男が馬車に近づいてくるとじぃの無事を確認して来た。
じぃは少し血を流してしまったが、馬車を操縦する余力はある。
少し場所を動かし、死体から遠ざける。
改めてじぃがお礼を言おうとした時、サラが馬車から降りて来た。
「窮地を救っていただきありがとうございます」
「なぁに。たまたまだよ」
男は照れ隠しなのか、右手をひらひらとしながら声を出した。
だがこんな言葉だけでは感謝を表しきれない。
サラがじぃより前に出ると、男の手を取り目を見つめた。
「私はダブアン国第3王女のサラと申します。貴方様の活躍は国を代表してお礼を述べさせてください」
「いーからいーから。小っ恥ずかしくなるからやめてくれ」
男が苦笑いをしていると、先程の金髪美女が肘で男を突いている。
それを感じ取った男が右手をあげると「じゃぁな」とだけ発し、そのままいなくなろうとした。
ここから王都までは数時間もかからず到着出来るだろう。
この街道で盗賊が出たこと自体珍しい場所だ。
男女もそれを知っており、このまま一緒にいるよりも別行動を選ぶ。
先に進むことによって危険も排除出来るだろう。
「ま、待ってください!おじさまのお名前を。お名前を教えてください!」
サラが行ってしまう2人に精一杯の声をかけた。
名前を聞いていない。お礼をしたくてもどこの誰かわからなければ何もできない。
いや、あの英雄の名前を知りたかったからだ。
男が振り向き口を開いた。
「おじ……まぁ名乗る程のもんでもないよ」
その顔には笑みを浮かべており、何故かサラが暖かい気持ちに包まれる。
よく見れば年齢にふさわしい渋い顔つき。
清潭な顔立ちと言えるほど引き締まっている。
どこかの国の騎士団長だろうか。
そうでなければあの強さも説明できない。
また立ち去ろうとした時に女性が男に耳打ちをした。
2,3度頷いたかと思えばもう一度振り返り、サラに向かって声をかけた。
「誰にも言うんじゃねーぞ?……俺の名前はケイドだ」
『あぁ知ってる。ザブラがとうとう魔王討伐に出発したんだろ?』
『ちげーよ。おっさん新米冒険者って知らねーのか?』
『あー……あ!あれか?おっさんなのに冒険者始めたって笑われてるやつ』
『そーそー!そいつ白雪草を取りに行って1年以上帰ってこなかったらしいぞ』
『ぶはっ!白雪草でか!?あんなん超初心者クエストじゃねーか!』
『だろ?色んな意味で今注目されてるぜ』
◇
景色の変化がない街道。
道は整備されているものの、馬車はガタガタ揺れることはある。
その馬車は馬2頭に引っ張らせており、黒を基調とした職人の腕が光るような構えを持っている。
乗り降りするドアの部分には紋章が刻まれており、太陽と同調して光っていた。
その馬車の中で優れない顔をした女性が1人、窓から景色を眺めている。
先程も述べた通り、景色に代わり映えはない。
たまに木が通過するが、彼女の目線を動かすことはなかった。
「じぃ?つまんない」
彼女が馭者の席まで近づくと、後ろ姿を向けている白髪混じりの男性に向かって、少し大きめの声を出した。
単純明快。彼女は長い間馬車に乗り続け、すでに飽き飽きしていたのだ。
じぃと呼ばれた男が首だけ少し振り向くと、彼女に向かって優しい口調で話しかけた。
「お嬢様。危のうございますので、しっかりと席にお付きください」
「じぃはそーやってすぐ私を子供扱いする!」
彼女は怒っているアピールをするために頬を膨らませた。
確かに容姿だけ見れば17.8ぐらいだろう。
女性らしい体つきと、その童顔からは想像できない豊満な双丘。
馬車が揺れるたびに、その柔らかそうな双丘も上下に震えている。
彼女の名前は『サラ・ワードクリフ』。
この土地を収めている王国『ダブアン』の第3王女だ。
この世界は魔王に脅かされており、人族同士の争いほど無駄なものはない。
そこでダブアン国は他国との友好強化や同盟加入のためサラを嫁がせようとしていた。
ダブアン国は小国であり、魔王から狙われれば吹き飛んでしまうほど。
そこで大国である『リーパー』の第8王子とのお見合いに向かわせている最中だ。
しかしサラはこのお見合いを良しとしていない。
国のためなのはわかるが、自分の幸せはないのかと。
王家とはいえ弱小国家に生まれた自分は、自分の意思を持つことを許されないのかと憤慨した。
だが、大好きな父と母に頼まれては断れない。
「会うだけなら……」と今回のお見合いを渋々了承した。
両親の泣いて喜ぶ顔は忘れられないだろう。
国を出てすでに3日は経っていた。
「サラお嬢様は旅が嫌いかい?」
馬車の横を歩いている男がいる。
彼は王女の護衛として雇われた冒険者だ。
雇った人数は全部で6人。
あまりお金がない国が、娘を守るために大金をはたいて雇い入れた。
6人全員が冒険者ランクAを誇っており、戦闘能力も高い。
道中も危険なくこれたのは彼らがいたからだ。
「景色も同じ、ただここにいるだけ。つまらない以外何もないわ」
少し顔をそっぽ向かせながらサラが答えた。
この年頃の女性が何もせず馬車に居続けるのは確かに苦痛だろう。
最初のころは魔物や魔獣を見て興奮した。
それをバッサバサ倒す冒険者にもだ。
だが繰り返し同じ光景を見ていると飽きてしまう。
彼女にはいま刺激が足りなかった。
(ほんと、何か起きてくれれば面白いんですけどね)
自分を守っている冒険者には不謹慎だが、何がドキドキするイベントがないかと思っていた。
旅に危険など無い方がいい。
それを彼女が知るのはもう少し大人になってからだ。
そんな平穏は突如壊れた。
先を偵察に行っていた1人が、慌てた様子で馬を走らせてこちら向かっている。
その姿を見た冒険者達に緊張が走り、何事かといった表情を作った。
じぃが馬車を止めてその冒険者を迎えいれると、リーダーの男が口を開く。
「何事だ!?」
「この先に盗賊団がいる!数は20、全員が武装している」
「……人数が厄介だな」
先ほどサラに話しかけた男が顔をしかめる。
彼はこの冒険者達のリーダーであり、統率力も高い。
ただの野党で、10人前後なら負けることはないが、その倍はいる。
別の道を使った方が安全に通れそうだ。
その事をサラに伝えるため、冒険者達がサラの乗っている馬車のドアを開けた。
「サラお嬢様。盗賊団は危険ですので、少し遠回りになりますが道を変更したいと思います。よろしいですか?」
「やだ」
リーダーの男の提案を即答で否定する。
これ以上馬車に閉じ込められてるのも退屈だし、その盗賊団とやらも見たい好奇心があった。
即答を受けた男に向かってサラが追い打ちをかける。
「貴方達はAランク冒険者なのでしょう?それなら盗賊団など簡単に制圧できるのでは?」
「腕に覚えがあっても人数差がありすぎます。もしサラお嬢様に危険が迫れば、国王も嘆かれます」
リーダーの男がじぃと呼ばれた男に目配せをする。
一緒にこの姫様のわがままを止めてもらいたいと懇願する目だ。
その目を受けてじぃも口を開いた。
「お嬢様、国王様にお嬢様の安全を約束された身ですので、どうかここは従ってはいただけませんーー」
話してる最中にじぃの肩が弓で貫かれた。
矢じりが肩を貫通し、サラの目の前で血が垂れ始める。
「敵襲!!」
「散開!!」
その言葉とともにリーダーの男がサラとじぃを馬車に放り投げるとドアを閉めた。
どうやら先に行っていた男をつけてきたらしい。
ニヤニヤした集団が冒険者達を取り囲む。
絶望的な人数差ではあるが、国王から依頼された身としては、何が何でも守らなければならない。
冒険者達も武器を構え、迎撃する体制だ。
「あの紋章……噂は本当だったか。王女誘拐とはいい金になるな。やれ!」
盗賊団の先頭に立っている男。周りの比べても頭一つデカイ大柄な男が、その頭皮を太陽に反射させながら叫んだ。
その声を馬車の中で聞いたサラが震え始める。
目の前には小さい頃から知っているじぃが、血を流しながら馬車の床に突っ伏している。
当たりどころが悪ければ即死していてもおかしくない。
緩やかに目の前の人間が死にに行く姿を見たサラに恐怖が宿った。
このままでは自分も死ぬかもしれないと。
馬車の小窓から外を見ると、むせかえるような血の匂いがしてきた。
さっきまで話していた冒険者と盗賊が殺し合いをしている。
これは模擬戦ではない。本当に命の奪い合いをしている。
冒険者が叫びながら盗賊を斬りふせる。
しかし数の差があり、一太刀、また一太刀と傷が増えるばかりだ。
彼らが魔獣と戦った時は殆ど誰も怪我をしていない。
連携や経験などからくる安全策を取っていたのだ。
そうとは知らないサラは、その戦闘をつまらないと評した。
しかし今はどうだ。
望んでいたわけではないが、血で血を洗う戦いが繰り広げられている。
剣同士が合わさった甲高い音。
切られた衝撃で傷から勢いよく血が吹き出る。
腕を失くしたもの、首と胴が離れた者、貫かれたまま動かなくなっている者。
ここは命を奪う戦場なのだ。
(うそっ……やだ……死にたくない……)
彼女に後悔が襲いかかってきた。
先程わがままを言った自分。
もしあの時素直に従っていれば、この光景はなかったかもしれない。
つまらないと言いながらも安全な旅が出来たかもしれない。
だがもう遅い。
盗賊団の7割以上を倒した冒険者だったが、残っているのは僅か2人だけ。
全身は傷だらけで鎧にも生々しい傷跡がある。
リーダーの男は口から血を流しながらも、まだ戦おうとしていた。
(ごめんなさい……ごめんなさい……!)
眼前に広がる惨劇を前に、彼女は謝り始めた。
誰にでもなく、何にでもなく。
ただ謝ることしか思いつかなかった。
その目からは大粒の涙が流れている。
しかし、どんなに謝ろうが現実は変わらない。
最後まで立っていたリーダーが、先ほどの大柄な男の剣で真っ二つになった。
「さて、お楽しみと行こうか」
大柄な男が馬車に近付いてくる。
目があった気がしたサラは思わず尻餅をつき後ずさる。
狭い空間ではそれも意味をなさないが。
しかしサラを守る一心でじぃが起き上がった。
「じぃ!?」
サラを一瞥し、ニッコリと一度だけ微笑む。
ダメだ。じぃは死のうとしている。そうサラも気付いた。
だが言葉で叫んでもじぃは止まらない。
サラの体もほとんど動かず、じぃを見つめるしかできない。
肩から血を流しながらも外に出て、じぃはドアの前に立ちふさがった。
両手を広げ、必ずサラを守ろうと必死の抵抗。
そんなじぃを見たハゲた男が怪訝な口調で口を開いた。
「あんだこのクソじじいは」
じぃは喋らない。
血を流しすぎたのだろう。意識も朦朧としながら、それでもドアの前からは動こうとしない。
ただひたすら無言で盗賊をじっと睨みつけている。
「めんどくせぇな。死ね」
(………!!)
サラの視線の先。
小窓から見えるにはじぃの後頭部と大男の振りかぶった腕。
じぃも殺される。自分はこのままこの盗賊に捕まり慰め物になるだろう。
受け入れたくない現実が目の前で起きている。
だが、彼女にはこの場を脱する手段はない。
(お父様、お母様。わがままな娘でごめんなさい……)
盗賊が腕を振り下ろした瞬間はスローモーションのようだった。
目を瞑り、親への懺悔をする。
じぃも自分の最後の抵抗を前に目をつぶった。
しかしその狂気がサラを、じぃを襲うことはなかった。
目をつぶった時に目の前の大男から「へむしっ!」と変な声が聞こえてくる。
薄っすらと目を開けると1組の男女がじぃを守るように盗賊団の方へ向いていた。
「危なかったなー」
「ほんとですよ!」
男は40代、いや30代後半だろうか。
黒に近い茶髪に少し白髪が混じっている。
声はやや渋く、生きている年月を想像させる。
身長は180cm前後。服の隙間から見える筋肉が鍛え抜いた鋼と錯覚出来るほどだ。
その隣には美しい金髪を腰まで伸ばしている女性。
後ろ姿でもわかるほどスタイルがいい。
こちらは若い声でもあり、年は18ぐらいだろうか。
「じーさん。ちょっと危ないから動かないでくれ」
男が振り返るとじぃに向かって笑みを見せた。
金髪の女性が男に「任せたわ」と一言いうとじぃの近くにしゃがみこんだ。
矢を折り抜き出すと、怪我をした部分の近くに手を当てて魔法を唱えている。
近くで見た女性は美しく、いい匂いまでしてくる。
じぃも若ければイチコロだっただろう。
「あ、あなた達は……」
じぃが唾を飲み込みながら口を開く。
女性はその問いに答える代わりに笑顔を見せた。
ある程度傷も癒えたのを確認すると立ち上がり男性の方へ振り向く。
……どうやら加勢の必要はないらしい。
最後まで立っていた大柄な男が倒れるのを確認すると、男がじぃの方へ振り向き笑顔を見せた。
馬車の小窓からはサラが男の勇姿を見つめていた。
サラの目に映った男は勇ましく、自分の窮地を救ってくれた英雄に思えた。
まだ半数ほど残っていた盗賊団は男に蹂躙され、息をしているかも怪しい。
……いや、すでに命は断たれている。
男の拳は一撃で生命を奪っていた。
男が馬車に近づいてくるとじぃの無事を確認して来た。
じぃは少し血を流してしまったが、馬車を操縦する余力はある。
少し場所を動かし、死体から遠ざける。
改めてじぃがお礼を言おうとした時、サラが馬車から降りて来た。
「窮地を救っていただきありがとうございます」
「なぁに。たまたまだよ」
男は照れ隠しなのか、右手をひらひらとしながら声を出した。
だがこんな言葉だけでは感謝を表しきれない。
サラがじぃより前に出ると、男の手を取り目を見つめた。
「私はダブアン国第3王女のサラと申します。貴方様の活躍は国を代表してお礼を述べさせてください」
「いーからいーから。小っ恥ずかしくなるからやめてくれ」
男が苦笑いをしていると、先程の金髪美女が肘で男を突いている。
それを感じ取った男が右手をあげると「じゃぁな」とだけ発し、そのままいなくなろうとした。
ここから王都までは数時間もかからず到着出来るだろう。
この街道で盗賊が出たこと自体珍しい場所だ。
男女もそれを知っており、このまま一緒にいるよりも別行動を選ぶ。
先に進むことによって危険も排除出来るだろう。
「ま、待ってください!おじさまのお名前を。お名前を教えてください!」
サラが行ってしまう2人に精一杯の声をかけた。
名前を聞いていない。お礼をしたくてもどこの誰かわからなければ何もできない。
いや、あの英雄の名前を知りたかったからだ。
男が振り向き口を開いた。
「おじ……まぁ名乗る程のもんでもないよ」
その顔には笑みを浮かべており、何故かサラが暖かい気持ちに包まれる。
よく見れば年齢にふさわしい渋い顔つき。
清潭な顔立ちと言えるほど引き締まっている。
どこかの国の騎士団長だろうか。
そうでなければあの強さも説明できない。
また立ち去ろうとした時に女性が男に耳打ちをした。
2,3度頷いたかと思えばもう一度振り返り、サラに向かって声をかけた。
「誰にも言うんじゃねーぞ?……俺の名前はケイドだ」
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その時だった。
目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。
その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。
ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。
そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。
これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。
※小説家になろうにて掲載中

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います
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ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。
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「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」
全員の目と口が弧を描いたのが見えた。
一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。
作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌()
15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

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