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第3話:オッサン、降り立つ

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暖かな太陽、清々しいそよ風。小さい翼を持つイタチみたいな生き物が仰向けで惰眠を貪っている草原。時間はただゆっくりと流れていき、俺には何のタスクも残っちゃいない。

「...Marvelous」

ただ、ただ。持て余す程の時間だけがある。腰を下ろし、草の上に胡座をかく。気配に気付いたイタチモドキが俺を横目で見るが、直ぐに夢の世界へ戻っていった。

「なんだっけ。あぁ、そうだ。本を読めとかなんとか」

辺りを見渡せば、俺の右側に赤い装丁の本が落ちていた。それを手に取り、タイトルを探すが特になし。中を捲ってみるも、全て白紙。

「なんだこりゃ」

言うが早いか、目の前にウィンドウが現れた。
『賢者の識書:あらゆる謎を解き明かす神代の魔導書。魔力を注いで問い掛ける事で、その問いに対する答えを表示する』

「おぉ」

なんか凄いものらしい。スマホに付いてるアシスタントAIみたいなもんか。Hey!Sherry!ってな。しかし問題はアレだ。魔力を注ぐってなんだよ。生まれてこの方やった事ないけど。水鏡式もやらなかったし、気を練ったことも無いタイプだからな。うーむ。魔力、魔力...。

 『魔力:精神体が持つ精神エネルギー。或いは精神体が存在する事による事象の歪み。消耗すると体調不良や気絶、果ては絶命に至ることもある。』

詳しい事は分からんが、どうやら危なそうだなぁ。てかそもそもこのウィンドウは何なんだ?異世界だからか?

『鑑定:対象指定型のスキル。発動に魔力を必要とせず、対象の情報を読み取る。隠蔽スキルなどで妨害可能』

鑑定、ね。じゃあ次。その鑑定の情報源は何なんだ?信用出来るのか?

『鑑定の仕組み:根源と接続し、対象に関する情報開示要請を行う。鑑定スキル所持者のみが開示要請を行う権限を持つが、隠蔽スキルなどを持つ対象に関する情報は開示されない』

ふむふむ。根源とは?

『根源:世界の根源。世界の中心。世界の精神体。あらゆる存在は根源に通じる』

ふーむ。根源に接続する方法は鑑定スキルだけなのか?というかその接続方法は安全なのか。

『根源への接続:精神体を持つ存在であれば、その全てが生まれながらに根源との接続状態にある。また全ての精神体の集合体こそが根源であるとする見方もあるが、それは世界をどう捉えるかによる』

ほむ。つまり根源が世界の精神体であるならば、それはつまり世界そのものという事。世界とはつまりこの大地に住む我々も含むので、逆説的に我々は根源の一部でもあるという事か?はぁ、難しいのね。というかアレだ。鑑定ってこんな便利なスキルなんだなぁ。実際に目の前にあるものだけが対象じゃないのか。じゃあ次。魔力の注ぎ方!

しかしウィンドウは現れない。うーむ。今までの疑問には答えてくれたのに、何故突然?

いや待て。さっきまでの疑問は全部○○とは何か、の形式だったからか。つまり鑑定というスキルは、簡単に言えばWhat's this?に答えるスキルであって疑問に答えてくれる訳じゃない。だからこそ賢者の識書を持たされた訳か。なーるほどな。

「魔力とは精神エネルギー。精神体にかかる重力みたいなもの...それを注ぐ...注ぐ? いや、魔力はつまり精神体が持ってる訳だろ? だったら賢者の識書と精神体を重ねてしまえばいいのでは?」

うーむ。イメージ、イメージだ。こういう場合、大事なのは必要な要素をきちんと把握し、順番にひとつずつ手順を踏むこと。つまり、先ずは精神体だ。俺の精神体を認識しない事には始まらない。精神体、精神の体。物理的な体では無い方の自分。つまり思考し、喜怒哀楽を感じる方の体。

重み、とはまた違った感覚。世界を切り取ったような、或いは凹ませたような感覚。自分という領域、自分という世界。肉体と重なって存在するそれを、少しだけ大きく膨らませる。ゆっくり、ゆっくり。風船のように、自分という領域を拡張する。その領域で、賢者の識書を包み込む。賢者の識書も自分。自分の一部。

『通知:賢者の識書が接続されました』
「お!」

なんかスマホの通知みたいなの来たぞ。でもこれで動く筈だ。先ずは...腹減った。何とかしてくれ。

赤い装丁の本が独りでに開き、白紙のページに文字が踊る。見たことの無い文字だ。読めない。終わった。何だよこれ。何て書いてあるんだ。どうすれば俺は腹を満たせるんだ! 俺が少しだけイラついたと同時に、ウィンドウが現れる。

『インベントリに食料があります。便利な魔導具も収納されているので、是非ご活用下さい』

きゅ、急に流暢じゃん。オジサンびっくりした。
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